第142話 ひさしぶりの村会議


 ちょっと話が長引いたけど、『永遠のともし火』や『治療の霊薬』の一件に関しては、だいたいこんな感じだった。多くの信仰ptが消えた代わりに、村人の安全性は増したし利便性も大きく向上している。


 もちろん、<職業進化の秘密>や<世界の秘密>なんかも知りたいが、なにもそう焦ることはない。長いスパンで考えれば、必ずいつかは交換できるのだから。



 そんなことを考えているうちに、日本人メンバーが続々と集まってきた。今日は避難民の誘致について話し合う予定なのだ。

「多くの人を呼び込むためには、いったい何をすべきか」と言うのが本日のお題である。


 もう間もなく全員揃うはずだが――おっ、来た来た。少し遅れていた椿も登場したようだ。


「ごめんなさい、少し遅れました。資材の転送をひととおり終わらせたので、お昼までは時間がとれそうです」

「椿ちゃんおつかれー、ここ空いてるよー」

「いつも助かってるよ。椿、ありがとう」

「いえいえ、忙しいのは朝一番だけです。あとは割とのんびりしたものですよ」


 そんなことを言う椿に感謝しつつ、食堂に集まったみんなの顔を見渡してから、久しぶりの村会議を始める。


 

「さて今日の議題は、避難民をいかに取り込むかだ。昨日も少し話したけど、今から7日後にケーモスの街へ到着するらしい。提案でも疑問でもいい。気づいたことがあれば遠慮なく話し合おう」


 私がそう前置きをすると、さっそく夏希が手を挙げて発言する。


「今さ、鍛冶師の人たちが大きな寸胴ずんどう鍋を作ってるじゃん? アレは開拓民が増えるからだよね?」

「ああ、ルクスの話を聞いた段階で大量発注してある。もしたくさんの人が来た場合、そのぶん食事量も爆発的に増えるからな」

「それ、開拓地へ来たあとの話でしょ?」

「そりゃそうだけど……何かあるのか?」

「わたし思ったんだけどさ。領主さんとこへ集まった人たちって、おいしいご飯がたくさん食べれたら喜ぶよね?」

「まあ、移動中は携帯食だろうしな」

「村のご飯を出してあげたらさ。開拓地に来ればこんな旨い飯が食えるのか! ってなりそうじゃない?」

 

 なるほどたしかに、獣人たちの芋好きは村での生活で証明されている。最近まで来ていた移住者たちも、ほとんどは芋に釣られてやってきたもんな。


「ここで料理を作り置きして領主館へ転送するってことか。そりゃいい案だな。すまん、ここに来たあとのことばかり考えてたわ」

「せっかく鍋を量産してるんだし、作ってすぐ万能倉庫にしまっとけば、出来立てを提供できるのもいいよね」

「それ、めちゃくちゃ効果がありそうだ。ぜひ採用させてくれ」


 夏希の提案には、他のみんなもこぞって賛同していた。というか、これ以上の勧誘方法はないんじゃない? って感じだった。

 結界の安全性は別として、村のことや開拓地のことをいくら説いても、日常を奪われた相手には響かない。明日への不安でいっぱいなのだ。冷静に理解できるかも怪しい。


 そんなときに温かい食事が出され、しかもそれが激旨げきうまとくればどうだろう。


「これが毎日食べれるよ。住むところや着るものもあるよ。いずれは自分たちの家も持てるよ」なんて言葉を聞けば、かなりの効果があるんじゃないか。


 気持ちが傾いたところで結界の存在を伝え、開拓地が安全なことをアピールする。みんな、オークの脅威から逃げてきたんだ。二度と同じ思いはしたくないだろうし、興味を持ってくれそうな気がする。

 

「あとね。早めに到着する人もいるだろうし、数日前から出してあげたほうがいいと思う。きっと、勝手に噂を広げてくれるよ」

「おっ、それも採用だ。夏希グッジョブ!」

「うんむ、よきにはからいたまえ」


「なんかアッサリ解決しちゃったな――。じゃあもうひとつ、受け入れ対象の線引きについて話したい。一応、忠誠度を基準に考えてるけど……何か意見はないかな?」


 言い方は悪いけど、領主館で選別をしてから移動させるつもりでいる。忠誠度の下限は30にしてそれ未満の人はお断りする。ちなみに、忠誠度の区分はこんな感じだ。


==================

<忠誠度について>


下限は0上限は99

忠誠値は様々な要因により上下変動する


90-99

村長に絶対の心服を置いている状態

70-89

村長にかなり高い信頼を置いている状態

50-69

村長にある程度の信頼を置いている状態

30-49

村長に信頼を置いていない状態

10-29

村長にかなりの不信を持っている状態

0-9

村長に殺意を持っている状態

==================


 9以下はもちろん除外するとして、かなりの不信をもっている人も断る。これは、食事の提供と開拓地の説明をしたうえでの基準だ。それでもダメなやつは、今後なにをやっても無駄だろう。

 

 私が主旨を説明すると、今度は秋穂が手を挙げる。


「正直な話、見通しが甘いと思う。食事もあげて村の説明までするんだよね? それだったら、忠誠度30までってのはやめたほうがいい」

「ほぉ、その根拠は?」

「それだけやっても忠誠が低いのって、元々はお話にならないレベルだった証拠だよ。仮に受け入れても、ほとんどの人は追放になると思う」

「たしかにそうだな。けど、可能性はあるんじゃないか?」

「もちろんあると思うよ。でもね、追放した人が居座ったり抵抗したとき――みんな殺しちゃうつもり?」

「あまりにも目に余れば……だがな」

「だよね。でもそれを見た開拓民はどう思う? 次は自分の番じゃ……って恐怖しないかな」


(秋穂の意見はよくわかるし、すじも通っている。けど、そこは妥協できないからな……これはどうなんだろう)


 そう考えていたとき、冬也も私と同じことを口にする。

 

「なあ秋穂。オレたち、もう何度もってきただろ? それとどう違うんだよ」

「門前払いならいいんだよ、まだあかの他人だしね。だけど今回は、一時的でも開拓民になるんだよ? 一緒に生活してた人が殺されるってこと。その印象は全然違うと思わない?」

「ああ、そういう……曲がりなりにも、になるわけか」

「うん。だから忠誠度の設定は、もうちょっと厳しくしたほうがいい」


 なるほど、これは納得だわ。あからさまな敵対者ならともかく、武力も持たない相手を一方的に、ってのはかなりヤバい。人の生き死にに対する感覚が軽くなってるわ……気をつけよう。


「うん、秋穂の助言はよくわかった。私の見通しが甘かったよ。余計なトラブルの原因にもなるし、設定を高くしよう」

「気持ちとしてはたくさん受け入れたいけどね。結果的にはそんなに変わらないと思う」



 そのあと具体的な数値の話になり、あれやこれやと協議した結果、忠誠度の下限が40に決まった。このあたりが丁度いい落としどころだと思う。


「秋穂、貴重な意見をありがとう。ぶっちゃけ、とりあえず受入れちゃおうと思ってた」

「まあ村長なら、それでも上手に解決しそうだけどね。念には念をと思って言わせてもらいました」

「いやいや、それはないよ。良くない考え方だった。言ってくれてほんとに助かった」


「それにしてもさー。夏希ちゃんも秋ちゃんも、ほんと良く考えてるよね。若い世代が有望だから、お姉さんは安心です!」

「おい春香。そのセリフ、なんか年寄りくさ……あ、しまった」

「うわっ、啓介さんがそれ言っちゃう? 自分は良いとこなしのくせに……そんなこと言うと、わたしの忠誠が下がっちゃうかもよ?」

「ごめんなさい。頼むから怖いこと言わないでくれよ……」


 大事な話もまとまり、つい気が抜けたところでやらかしてしまった。春香のいうとおり、今日の私はダメダメだ。難民がくるとわかって浮かれすぎてる。


(いかん、もっと気を引き締めないと……。往々にして、こういうのがキッカケで負の連鎖が始まるんだ)


「まあ許してあげましょう! それより、わたしからもひとついい?」

「はい、ぜひともお願いします」

「今回の受入れが成功したらさ。いったん、結界を閉鎖することを提案します! 場所はどこでもいいけど、森の入り口が無難かな?」

「どうせそのあとは変なヤツしか来ないから、ってことか」

「正解っ。入国管理者としては、門の前で騒がれるのは困るわけよ。ハッキリ言ってめんどくさい」

「そりゃそうだよな。――うん、全然かまわないよ。春香さん、喜んで採用させて頂きます」

「うむ、素直でよろしい。それにさっきの提案で追放者も出なさそうだし、閉めちゃってもいいと思う」


 余計な仕事を増やす連中も来れなくなるし、新たな勧誘がしたければ街へ直接いけばいい。


「と、まあこんなもんか? あとは各自の判断で動いてくれたらいいよ」


 ひとしきり議題もまとまり、無事に村会議は閉幕となった。



「では、取りまとめは私がやりますね。提案がある方は、私のところへ報告をお願いします」

「あっ、じゃあ椿さん。このあと時間あります? 開拓民が増えた場合の警備体制とダンジョン編成なんだけど――」

「ならオレも、ナナシ軍の配置を伝えておきたいな。桜さんと一緒に残りますよ」

「ねぇ秋ちゃん、久しぶりに工房へ来ない? 今日はダンジョンもないし、このあと暇だよね」

「行きたい。私にも何か作らせてほしいな」

「わたしは開拓地へいってきまーす。あっ、啓介さん。さっきの罰として、しばらく話し相手になってくれるよねー?」

「もちろんです。今日はいくらでもお付き合いさせてください!」














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る