第141話 ポイント消費という名のお仕事


異世界生活350日目-9,300pt

 


 領主館でルクスと会談してから、すでに4日が経過していた。


 あのとき聞いた話によると、避難民の大移動は昨日から始まっているはず。移動が完了するのに7日かかるらしいので、その頃になったら領主館へ転移してみるつもりでいる。


 仮に全ての難民が移住して来たとしても、その数は2,000人程度だ。いま建っている長屋でじゅうぶん対応できるが――正直、欲張って建て過ぎた感は否めない。


(まあ、全員が来るなんてありえんか。しっかし、もっと流れてくると思ってたけど……ちょっと拍子抜けだよなぁ)


 人口比率から言っても当たり前のことなんだが、避難民のほとんどは首都に移住する。ケーモス領に来る人数が予想より少ないことに、何度もボヤくおっさんがここにいた。




 それはさておき――


 ナナシ村も開拓地も、すこぶる順調な日々を送っている。「どうせお前は何もしてないんだろ?」なんて非難を浴びないよう、ここはひとつ、私の仕事ぶりでもアピールしておこう。


 ――っと、その前に。「あれ? 信仰ポイントが全然貯まってないじゃん」と、気づいた人もいると思うが……その通りだ。また使い込んでしまったよ。とはいえ、これは仕事にも関わることなので勘弁してほしいところだ。



 私がこの3日間でやった仕事は、全部で3つある。


 まずは、村の牧場と調理場に『湧き立つ泉』を設置したこと。家畜も貴重な資産だし、生き物は大切にしたい。川も近くにあるんだが、他の使い道も考えているので今回は思い切って設置することにした。


 調理場については、完全に私の独断で設置を決めた。村の人口も飛躍的に増え、料理人たちは毎日フル稼働している。せめてもの感謝として、の特典と共に置かせてもらった。

「村長ありがとう!」「凄く助かります!」「気の利く男はモテるよねっ」なんて言葉もたくさんもらったわけだが……。そもそも村人が稼いだポイントなので、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 まあそれでも、村人が喜んでくれたのは素直にうれしい。「いい仕事(2,000pt消費)をしたなぁ」と、自己満足に浸らせてもらった。



 次の仕事は、村と開拓地の調理場に『永遠のともし火:500pt』を設置したことだ。村のほうに10基、開拓地には5基置いてある。


 食材の煮炊きには、かまどで薪を燃やしていたわけだが、どうしても温度調整の手間がかかる。しかしこの『永遠のともし火』なら、その必要はない。

 形状はたき火のそれと同じだけど、薪の位置を少しずらすだけで、炎の勢いを自在に調整できるのだ。かまどの底に設置しておけば、ガスコンロとほぼ変わらない性能を発揮した。あまりに便利なため、迷わず全部のかまどに採用してしまった。


 みんなからの賛辞については言うまでもないだろう。ああ、また良い仕事(7,500pt消費)をしてしまった。



 そして最後は医療のしご――いや、もう仕事と言い張るのはやめよう……自分がどんどん惨めになってきた。これらはただのポイント交換だ。


 結果を先に言うと、『治癒の霊薬:100pt』を100個交換しました。はい、10個ではなく100個です。「なぜそんなにいるんだ?」、それについての経緯を話したいと思う。



 きっかけは2日前の夕方――東の森ダンジョンでミノタウロスを狩っていた班から、急に念話が入ってきたことに始まる。


『村長! 村長聞こえますか!』

『っ、そんなに慌ててどうした?』


 ものすごい喧騒けんそうで話す兎人の戦士職――


『至急治癒魔法をっ! 仲間のひとりが大けがをしました! 間もなくダンジョン入り口まで着きますので!』

『マジで? 大丈夫、じゃないわな。わかったすぐ行く』


 それ以降プツリと念話が切れた。向こうも相当慌てているし、かなりヤバそうな感じだった。


(今日、開拓地の番をしてるのは……たしか杏子だよな)


 すぐに念話を入れて、ダンジョンへ転移するよう指示をする。もちろん、私もすぐに向かったのだが――転移した先、ダンジョンの入り口には血だらけで倒れている狼人と、そのパーティーが待機していた。


「これは相当ひどいな……。だが、すぐに杏子が来るから大丈夫だ。気をしっかり持てよ」

「うっ……村長。すみ、ません……油断しました」


 これまでもケガ人は何度も見て来たが、ここまで重症なのは始めだった。杏子もすぐ来ると思うが、ひとまず1つだけ携帯していた『治癒の霊薬』を使う。


「コレを飲めるか? ダメそうなら傷口に直接かけてみるが」

「ぐぅ……飲めます……」


 痛みに耐えるケガ人が霊薬を飲むと――その体中がホワッと光に包まれ、みるみるうちに傷口が塞がっていった。部位欠損はしてないものの、ミノタウロスの斧にやられた箇所は見るにえない状態だった。それがものの見事に治っていくのだ。

 霊薬を使うのはこれが初めてだったので、どこまで効果があるか心配だったけど……予想以上の効き目だった。


「あれ……治った、のか? もう痛みも感じません」

「良かった。でもしばらくは動くなよ?」


 それからまもなく杏子が駆けつけてくれた。なにやらちょうど同じタイミングで、開拓地でも怪我人がでたらしい。伐採作業中に、斧で自分の足をバッサリやっちゃったそうだ。



 念のため治癒魔法をかけると、完全に回復したようで本人はケロッとしていた。さっきまであんなにひどい状態だったのが嘘のようだ。


(これに関しては、異世界ファンタジー様さまだな。アレは日本の医療でも助からんレベルだろ。体から出てきちゃいけないものが……いや、これ以上はやめとこう)



 そのあと詳しく事情を聴いたんだが、ミノタウロス2匹交戦中、たまたま運悪く背後の通路から増援がきたらしい、しかもその数3匹。

 こっちは5人構成だったが、目の前の魔物に集中し過ぎて接近に気づくのが遅れたんだと。兎人の戦士も、「おれが聴覚強化をおこたったせいで……」とやんでいた。


 さすがに戦闘しながらの索敵は難しい。警戒を怠ったのは事実だが、それはパーティー全体のミスだ。彼だけを責めるのは筋違いと言うものだろう。



 と、言うわけで――事の重大さと霊薬の効果を知った私は、『治癒の霊薬』を大量交換するに至った。


 現在、毎日狩りにいく人数は約100人ほどいる。霊薬は万能倉庫に保管、その日にダンジョンへ行く者が持ち出し、夕方に返却することに決めた。在庫が減れば、その都度補給するつもりだ。



 結局、この一連の出来ごとで使用した信仰度は、合わせて19,500ptとなった。ドデカい消費となったが全然後悔はしてない。最後のなんかは、死亡者が出る前に気づけてよかったくらいだ。



 ハッキリ言って、赤の他人が野垂れ死のうがどうでもいい。だが、村人だけはなんとしても守らねばならない。これは使命感とか責任感の話ではない。どこまでいっても自己満足の領域だ。


 それでも、共に生きる者として助けたいし、助けてもらいたいと思う。



 あっ、それはそうと――


「おい村長! お前のスキルコピーでさっさと治癒魔法使えよな!」というツッコミは、今回に限りご勘弁願いたい。


(だってケガ人見たとき、おっさんマジで焦っちゃったんだよね……。1個だけでも交換しといてホント良かったわ)














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る