第140話 獣人族領-ep.4
<獣人族領-首都ビストリア>
中央連合議会-議事堂にて
啓介が領主館を訪問した2日後のこと――
「それでは、今回取り扱う議題についてですが――」
11種族の議長が集まるなか、進行役の議員により今日の議題についての説明がなされていた。
ひとつ目の議題は、アマルディア王国との同盟締結についてだ。
この同盟の主旨は、帝国に対する制裁協定と、王国と獣人国との恒久的な
王国および獣人国で起きた『オーク大発生』、これが帝国の仕業であることは明らかである。よって、人類の存続を
そして和睦については、お互いの国で奴隷となっている者たちをすべて解放し、祖国へと返還する。魔物の脅威に晒された現状、もはや現地人同士で争っている場合ではない。憎き異世界人の集団である帝国を滅ぼし、お互い手を取り合う必要があった。
「前回の交渉では、両国ともに合意の方向で話が進んでおります。奴隷の返還、そして対等な立場での同盟です」
「今はとにかく、帝国を叩いておかねばなるまい。それが成っても、オークのことがある。王国との和睦は進めるべきだ」
この件に関しては全ての議員、そして議長も同意していた。
「隆之介殿はどうお考えですか?」
「もちろん賛成だ。帝国の馬鹿どもは絶対に許すな。奴らの
「……では、王国との和睦についても問題ないということで」
「そっちは好きにすればいい。まずはとにかく帝国を潰すぞ」
「わかりました。本件については、全会一致により可決といたします」
2つ目は、獣人連合国の軍備について。
現在、連合軍の総戦力は約3万である。これに各地の冒険者1万5千人が、予備兵力として数えられていた。それが今回、西の領地を放棄したことにより、軍の再配置をする必要がでてきた。
<帝国へのけん制部隊>
北東部を治める狼人族(1万)
<王国・帝国との国境警備と増援部隊>
北部を治める虎人族(1万)
<首都防衛と西全域のオーク警備>
北西部を治めていた猿人族(1万)
前回の会議により、ここまでは決まっていた。なお、西に建設中の防御壁の警備は、冒険者ギルドにも発注済である。
「まず防御壁についてですが、現在の進捗率は55%。首都付近の壁は完成しており、南北へと順調に延びております」
「報告書にもあるが、すべてが完成するまでにあと20日もかかるのか。いや、じゅうぶん早いのは理解しているが……」
「土魔法使いを100名、そして農耕スキル所持者1,000人を動員しております。これ以上完成を早めるのは不可能です」
「そのほとんどが日本人なのだろう? 原因を作ったのも日本人、それに対処するのも日本人とは……なんとも愚かなことだ」
「そのせいで、我が国は領土の1/3を失ったのです。なんとしてでも報復しなければなりませんよ」
――その後、西部の防衛壁が完成次第、北部の国境にも壁を作ることで合意した。
「おいお前ら――」
話がまとまったところで、イラついている様子の隆之介が、議員たちに向かって言葉を放つ。
「各地の冒険者にも戦争参加の命令を出しておけよ。これは獣人が生き残れるかの瀬戸際だ。拒否することは絶対に許さん」
「……しかと承知。ギルドへの強制依頼として、直ちに要請します」
そして最後の3つ目が、西の2領からの難民対策についてだ。
これについては、本日から一斉に避難が開始されている。2つの領を合わせて約2万2千人の大移動。7日後には、その移動もすべて完了する予定となっていた。
受け入れ先は首都ビストリアに8割、北部の虎人領に1割、南東部のケーモス領に1割と既に決定している。
今日の議会で決議するのは、ケーモス領を統治する領主の件と、ナナシ村からの食糧接収についてだった。
「では本日最後の議題となりますが、まずはケーモス領の統治についてです。現領主には、交渉失敗の責をとらせる形で辞令を出しております」
「ドラゴ元議長の反応はないのか? 今の領主は元議長の子飼いであろう。おいそれとすげ替えはできないぞ」
「そこは考えなくともよいのでは? ドラゴ殿は自らの意思で議会を去ったお方。いつまでも気に掛ける必要はないと思います」
「たしかに……。村の監視と言いつつ、あれ以来、何の情報も提供されてませんしね」
「――ならば予定通り、狐人領の領主に任せるということで決まりか」
「あの者ならば実績も十分です。何の問題もないかと」
狐人領の領主は統治実績も十分、内政に長けた人物で有名だ。オークが大発生し、さらに難民の受け入れもある現状、経験の少ない現領主には任せられない。
問題となる元議長の存在も、今となっては過去の偉人だ。議会を去ったあとまで気に留める余裕はなかった。
結果は最初から決まっているので、採決するまでもなく議長が次の話題へと移る。
「領主の件は片付いたとして、ナナシ村からの食糧接収はどうする? 強硬手段にでた結果、取引中断とならないか? 一応、獣人国の属領ではないし、独立権も認めているのだ」
ナナシ村との契約では、移民の受け入れを認める代わりに、一定の食糧を購入している現状だ。しかもそれほど法外な金額というわけでもない。
提供される量は決して多くないが、軍の士気向上には確実に貢献している。我ら虎人族の者たちからも、絶大な人気を誇っている代物なのだ。
「彼らが欲しているのは村人です。ならば、避難民の中から希望者を募るというのはどうでしょう」
「ふむ。むろん強制はできんが……移住してくれる者もいるであろうな」
「そういえば――少し前、隆之介殿が話されていましたよね。開拓地での食糧提供についてのことを」
その発言により、議長を始め、議員たちの注目が隆之介に移る。
「あ? ……ああ、アレか。開拓民になれば、芋が食い放題らしいな。何人行ったかは知らんが、ケーモスで噂になってるらしい。人を集めるのに必死で笑っちゃうわ」
「……ならば、避難民を移住させる条件で交渉してみては?」
「別にいいんじゃないか? 新領主にやらせてみろよ。もしそれでダメなら、軍を送り付けて押収してやればいい」
「狐人の領主は、いったん首都へ来ることになっております。そこで話を詰めたのち、ケーモスへと向かわせましょう。その頃には、避難民もまとまっているはずです」
「村人が増えれば芋の生産量も上がるはず……。上手くいけば、購入量もさらに増やせる妙案ですな」
全ての議案が採決され、そのあとも細かな調整が続いていくのだった。
こうしてアマルディア王国と獣人連合国は、長く続いた対立の歴史を破り、同盟を組むことになる。
日本帝国、ひいては北の勇者たちも、こうなる可能性は考慮しているはずだが――
王国と獣人国の動向。そして帝国の思惑。
今後どうなっていくのかは、まだ誰にもわからない。
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