第138話 村人、500人突破!


異世界生活345日目-20,200pt

 


 ダンジョン26階層に挑んでから、すでに10日が経過していた。


 あれ以降も、蛇人族とは度々遭遇している。白蛇の鱗は彼らにとって相当貴重なものらしく、私たちと会うために、遺跡ダンジョンを重点的に回るようにしたらしい。私が加工した鱗も結構な数を渡しており、蛇人たちも大喜びしている。

 

 彼ら曰く、「祭壇で浄化しているものとなんら遜色そんしょくない。今後も是非譲ってほしい」ということだった。さらに、「我らがとくをし過ぎだ。せめてコレを貰ってくれ」ってことで、黒蛇の戦士が落とす魔結石をたんまり渡してくれた。


 彼らの村には魔道具もなく、装飾品くらいしか魔結石の使い道はないようだ。最初の部屋に落ちていたのも、「さして集める理由がない」ということだった。こちらとすれば、いくらあっても困らないので、ありがたく頂戴している。



 話しは変わって――開拓地の状況については、「まあ程々に」って感じか。訪れる人の数も減り、この10日間で20人しか増えていない。

 それでも、新たに45人が村人になり、これで村の総人口は500人になった。毎日祈るだけでもがっつりポイントが手に入る。まさに入れ食い状態だ――


 他にも、獣人の子どもが生まれたり、職業を授かる人が増えたりと、いい方面のイベントが続いていた。



 あと、戦力面の充実もすこぶる順調だ。

 警備隊とナナシ軍への志願者も増え、今では100名の大所帯となっている。開拓地の警備を持ち回りしながらダンジョン狩りに励む毎日、非戦闘職のレベル上げもしっかり継続中である。


 ちなみに、椿の報告による現在の状況は、だいたいこんな感じになっている。


===================


村の総人口:500人(内、子ども62人)

開拓民人口:279人


<村人の作業分布>(人数)

農業班 :70 建設班 :60

警備隊 :50 ナナシ軍:50

調理班 :40 採掘班 :30

機織り班:20 木工班 :20

伐採班 :15 漁業班 :15

教育班 :10 飼育班 :10

染物班 :10 製塩班  :10

工房職人:8 鍛冶職人:7

商会運営:5 商会補助:5

開拓補佐: 椿、春香、メリナード

===================


 このリストを見たとき、「めちゃくちゃ人が増えたな」ってのが最初の印象だ。

 約半年前、ドラゴが視察に来た頃なんて、70人ちょっとだった。それでも多いと思ってたけど……それがもう500人だ。相変わらず私の職業は村長のままだけど、規模だけでみたら、村のそれを大きく超えているだろう。


 そんな感慨にふけりながら、椿のいる農地新設エリアへと向かった。



「椿、農地の移設もずいぶん進んできたね。――ってか、めちゃくちゃ早いけど、みんな無理はしてない?」

「あ、啓介さんおつかれさまです。もちろん無理はさせてませんよ。むしろ、午後からも働きたい、ってのを止めているくらいですから」

「そっか、ならいいんだ。それにしても早いな……」


 川の東に新設した農地ゾーンなんだが、あれだけ閑散かんさんとしていた場所が、すでに半分ほど整備されていた。今も何十人、子どもを含めたら100人近くが耕作作業をしているところだった。

 農民の職業と農耕スキル、それにレベルアップの相乗効果が加わり、ものすごいスピードで畑を耕していた。


「既に芋畑は仕上がっています。米と麦についても、次の収穫が終わり次第、こちら側に移行する計画ですよ」

「もう敷地の半分は整備されてるみたいけど……このまま全部農地にしちゃうの?」

「はい、そのつもりです。作業量はまったく問題ないですからね。果樹園や、芋以外の野菜畑も3倍に増やします。あと、南側の一部は、厩舎と飼育スペースを建設中です」

「なるほど、建築班が建ててるアレは厩舎だったのか。あの広さがあれば、馬たちも走り回れちゃうよな」

「近日中に乳牛も手に入る予定ですし、クルック鳥もたくさん増えました。今回の拡張は、いいタイミングだったと思います」


 そうか、ついに牛もやってくるのか――。

 乳製品の加工についても色々と調べている最中らしい。料理のレパートリーも増えそうだし、今後がとても楽しみだ。


 ちなみに、全ての農地をフル稼働させた場合の年間収穫量は、米と麦が630人分、そしてなんと、芋は7万人分らしい。

 村の獣人たちは、米や麦よりも芋を好んで食べるし、開拓民の主食にもなるので、こんな生産比率になっているようだが……とてつもない収穫量だった。


「食糧問題については、どれだけ人が増えようと揺るがないな。ていうか、フル稼働させたら倉庫が持たないんじゃない?」

「そうでもないですよ。今の倉庫ですと、1年分は優に保管しておけます。一応、万能倉庫の移設と増設を計画しているので、そのときはよろしくお願いします」

「わかった。村人も増えたし、いくらでも大きくできるからね。言ってくれたらすぐやるよ」


(さすがに常時フル稼働はしないと思うけど……7万人分てのはすごいな。どんな量になるのか想像もつかない)


 予想をはるかに上回る計画に驚きつつも、椿と別れて居住スペースへと視察に向かった――。



 現在の計画では、居住区画の北側に独身者用の長屋を、南側に家族用の一軒家を建てることにしている。南北ともに敷地がひろがり、今も順調に建築作業が進んでいた。


「やあルドルグ、調子はどうだい?」

「おっ、また今日も来やがったか。毎日ご苦労なこった」


 そんなことを言いながらも、ルドルグは私が来るといつも嬉しそうにしてくれる。だからついつい来ちゃうわけだが……。


「そんなつれないこと言うなよ。それより今日は、ずいぶん人手が多くない? 余計なお世話だけど、開拓地のほうはいいのか?」

「向こうにも指導役は行ってるぞ? まああれだ。自分の家は自分の手で、ってな。開拓民のヤツらにやらせとる」

「なるほど、私としても村優先のほうがありがたい。――こっちはとくに問題ないのか?」

「長よ……昨日も同じこと聞いてたぞ。そんなポンポン問題が起こっちゃ、たまったもんじゃねぇ! なんも心配いらねぇから、黙って見とけっ」


(いかんいかん……。すべてお任せしてるというのに、また口を出してしまった)


 あきれ顔のルドルグを尻目に、しばらくは大人しく建築作業の様子をみていた。


 長屋の建築をしている村人は、パッと見ただけでも30人。南のほうでも一軒家を建ててるだろうから、全体ではもっといるはずだ。

 それにしても、これだけ人数がいると作業速度が半端ない。職業やスキルの補正があるとはいえ、通常では考えられない効率で家が建っていく。


 農業と建設業に人手を多く割いたが、大正解だ。これなら黙っていても、村がどんどん発展していくだろう。人員配置の意見をくれた補佐官たちには感謝しかない。


「さて、そろそろ行くよ。たぶん明日も見に来ちゃうけど……優しくしてくれよ?」

「こんなじじいに何言ってんだ? それより、今日は酒盛りに付き合ってくれ。たまにはいいだろ?」

「ん-、じゃあ夕食がてらな。あんま飲めんけど、話し相手ならいくらでもするよ」

「おうよっ、飲むほうは儂に任せろっ」


(まだ午前中だってのに、ルドルグはホントに酒が好きだな。やっぱり兎人じゃなくてドワーフなんじゃないか?)



 夜の宴会を約束した私は、「そろそろ魔石の加工をしておくか」と、ひとまず鍛冶場の方へと歩き出した。

 魔結石を作る作業は、唯一、私だけができる仕事だ。まだ在庫はあるだろうけど、作れるときにやっとかないと、あとで慌てるハメになる。いいのか悪いのか、蛇人がくれる魔結石のおかげでこの作業もそれほど重要ではなくなったが、鍛冶場に顔を出す口実にはなるのだ。


 そんなことを思っていると、鍛冶場の目の前まできたところで、街にいるメリマスから念話が入った。


『村長、メリマスです。今いいですか』

『やあメリマス、どうした?』

『はい、先ほど領主から書状が届きましてね。西の領地からの難民受け入れについて、議会から正式な要請が来たみたいです』

『おっ、ついに来たか。それで具体的な内容は? もしかして、私が出向いた方がいいのかな』

『書状によると、直接会って話したいようですよ。経過報告も含めて詳しく説明する、と書いてあります』

『そうかわかった。日にちの指定が無ければ明日の朝にでも行くけど、そのへんのことは?』

『村長の都合に合わせるそうなので、明朝にうかがうことをメリー商会から伝えておきますね』


 書状の内容によると、3日後に避難民が集団移動を開始、それから7日のうちには、全ての受け入れが完了する予定だと記されていたらしい。

 開拓地にまで来るかは置いといても、事情だけは早く知っておきたいところだった。


『連絡ありがとう。今日中に準備して、明日の朝一で転移するよ』

『はい、お待ちしてます。それでは』



(さぁて、いよいよ忙しくなるぞ! 何人来るのか知らんけど、村人を増やす大チャンスだ)



 ベリトアたちには悪いけど、魔石の加工はまた後日だ。椿たち補佐官と打ち合わせをして、本格的な受け入れ準備にとりかかる方を優先したい。


(あーあと、マリアも連れてってやるか。黙って行くとヘソ曲げそうだし……ルクスもきっと喜ぶだろう)
















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