第136話 白い蛇
部屋の対面に現れた7体の白い蛇人
気配を消していたのだろうか――。ここにいる誰もが、ヤツらの姿を目にするまでその存在に気づかなかった。
突然の登場に息をのんでいると、冬也が静かに指示を出す。
『……こっちと同じ数か。みんな、ゆっくり下がるぞ。退路を確保しながら戦おう。村長、頼む』
『わかった、すぐにやる』
理由はわからないが、こちらをすぐに襲ってくる気配はない。私はすぐに鑑定をして、その結果をみんなに伝えた――。
==================
スネイプニル Lv125
種族:
スキル
槍術Lv4
自己再生Lv4
欠損した体の一部を、魔力を消費して瞬時に再生する
==================
『え、蛇人族なんですか? 今度のは魔物じゃないと……。しかもレベル125って――これはかなりマズイ状況ですよ』
『俺の鑑定だと、スネイプニルってのが一番高い。けど残りも全員、レベル110を超えてる』
『体色は違えど、見た目はさっきのヤツと変わらんの。一見すると魔物にも見えるんじゃが……』
種族とか名前とか、今は正直どうでもいい。肝心なのはこの状況を打破できるかだ。とにかく相手のレベルが高すぎてヤバい、「全員無事に逃げられるのか」それが全てだった。
『しかしアイツら、なんで襲ってこないんだ? 武器も構えてないし、ずっとこっちを
『というより……さっきから啓介さんだけを見てませんか?』
『……なあ村長、ちょっと話しかけてみてくれよ。魔物じゃないんだし、言葉が通じるかも』
こうして会話しながらも、私たちは徐々に下がり続ける。だが相手も、それに合わせて間合いを詰めてくるのだ。手を出してこないというのが、逆に不気味でしょうがなかった。
やがて部屋の隅までたどり着いた。いつでも通路に逃げ込める体制となったところで、意を決して話しかける。
「私の名は啓介、ナナシ村で村長をしている。――あなた方に、この言葉が通じているだろうか」
表情は掴めないが、一瞬動揺したのかビクッとする蛇人たち。お互いに顔を合わせたあと、全員がスネイプニルを見ていた。
すると――
「ああ、理解している。我が名はスネイプニル、蛇人族の長を務めている者だ。――お主らは地上人だな? こちらに敵意はない、出来れば武器を収めてくれぬか。話がしたい」
どうやら話し合いは可能のようだ。ドラゴたちにも聞こえてるみたいなので、この世界の共通言語だと思われる。
(素直に従っていいものか……いや、このまま戦う方がよほど危険だな)
相手の強さを考えると今は従うほかあるまい。「いつでも逃げれるように」と念話を送り、みんなの武器を収めさせた。
「私たちにも敵意はない。ここがあなたたちの領域だというなら、即刻退場する」
「いや、この階層は我らの
私の手にあるのは2つの白い鱗だ。さっきから私を見ていたのは、コレのせいだったらしい。
「教えるのはもちろん構わない。だが、コレのせいで襲われる……なんてことにならないよな? 出来れば先に、蛇人族にとってコレが何なのか教えてくれないか?」
「……うむ、よかろう。それは『
「そうか、教えてくれてありがとう。それともう1つだけ答えてくれ。黒蛇の戦士、あれは敵か? それとも味方か?」
「ふむ……難しい質問だな。だがまあ我らも、ヤツらを狩るためにここへ来ている。そういう意味では敵だ」
危なかった……。同族だったらどうしようかとヒヤヒヤしていたところだ。言い方は少し引っかかるけど、敵というなら大丈夫なはずだ。
そんなやり取りをした後、黒蛇の戦士と戦ったことや、鱗を入手して私の魔力で変質させたこと。ついでに、村のことや大地神のこともひと通り説明した。
「なるほど。お主、いや啓介殿は、大地の女神の使徒なのか?」
「いや、たまたま貰ったスキルのおかげだ。女神さまのお告げもないし、使命なんて何ひとつ受けてない」
「そうか――。そちらがここまで話してくれたのだ。我らのことも知ってもらわねばな」
そう語ったスネイプニルは、そのあと淡々と一族のことを話してくれた。もちろん、この部屋の中でだ。黒蛇の戦士が湧いたところで、彼らにかかれば瞬殺だろう。
<蛇人族>
彼らはダンジョンの30階層に住んでいる。大きな村を先祖代々にわたって守り続けてきた一族だ。
彼らの信仰対象は、私たちや竜人と同じく『大地の女神』である。大昔の始祖が神託を受けて以来、ずっと地下で暮らしている。地上に出ることは禁忌とされ、一番重い罪となるらしい。
「蛇人族は地上に出るとすぐに死んでしまう」なんて言い伝えがあるようだが……試した者がいないので、真偽のほどは定かではない。
ここでひとつ、驚くべき事実が判明した。
この世界のダンジョンは、30階が最下層となるらしい。そしてさらに、全てのダンジョンは30階層でひとつに繋がっていると言うのだ。
とはいえ、大陸の地下全土に、広大な空間が広がっているわけではない。広さでいうとせいぜい、ナナシ村のある大森林跡地程度みたいだ。
その30階層には無数の登り階段があり、それぞれが別のダンジョンに繋がっている。蛇人族はその全てを把握していて、長年にわたり狩場として利用している。
狩りの目的は、主に『黒蛇の鱗』を入手すること。あとはまれに、巨大牛やミノタウロスを狩ることもあるらしい。こちらは、肉や革を手に入れるためだ。
入手した『黒蛇の鱗』は、女神の祭壇に捧げることで浄化され、『白蛇の鱗』に変質する。これには、約1年ほどの期間を要するみたいだ。
それを今回、私が持っていたのに驚き接触を試みたらしい。
「この鱗がないと、黒蛇の魔物になってしまうってのは本当なのか?」
「ああ、本当だ……。同胞が魔物堕ちするところを、この目で何度か見て来た。全てあの黒蛇へと変貌してしまったよ」
「でも、白い鱗を体に貼れば防げるんだろう? なぜそうしなかった?」
「ふむ。まずはこれを見てくれ――これが汚染された証だ」
そう言い放った族長は、自分の素肌を晒した。具足を外すと、足先から膝のあたりまで、青黒い刺青のような模様が浮き出ている。彼曰く、これが体中に広がり、やがて頭部までくると魔物になってしまうらしい。
「本来、浸食が完全に進むまでには2年、早い者でも1年はかかる。だがしかし――ごくまれにだが、急に全身へと広がる者が現れるのだ。そして間に合わずに魔物化してしまうというわけだ」
「なるほど……。『白蛇の鱗』を携帯しておくほどの余裕は――あったら防げてるよな」
「ああ、祭壇で浄化できる期間も一定ではないからな。常に相当量の貯蔵が必要だ」
「ちなみにだけど、ダンジョンを徘徊しているのは元同胞か? それともただの魔物なのか?」
「全て魔物だ。魔物堕ちした者は、すぐに消滅してしまうからな」
ここまでの話で大体の全貌は掴めてきた。まあ、彼らが嘘をついてない前提だけど……。作り話にしては、話している時の悲壮感がハンパなかった。少なくとも、大すじに関しては事実なんだろう。
ひとまず、蛇人族が敵対者でないことは確認できた。もちろん、向こうの欲するものはこの『白蛇の鱗』で間違いないはず。
だったら、こちらの条件を提示しても……争いごとにはならないだろう――。
「話はわかったよ。私たちの目的は魔物を狩ること。ひいてはレベルアップをすることなんだ。その対価として、『白蛇の鱗』を提供したいと思うが……そちらの意向はどうだろうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます