第135話 黒い蛇


「待てっ、魔物が湧きそうだ」



 異変に気づいた冬也に続き、私たちも部屋の中を覗き見る。


 普段なら、魔物が湧く前兆はもやだったはず――だが今回は、それがに変化していた。この兆候からしても、新種の魔物であることは間違いない。



 そう考えている最中にも、2つのもやはどんどん実体化していく。


『念のためだ、ここからは念話で話そう。鑑定したらすぐに伝える。それまでみんなも動かないでくれよ』


『『了解っ!』』


 それから数秒、完全に具現化した人型の魔物。その身の丈は約2mで、全身が青黒いウロコで覆われていた。両手には剣と盾を持ち、兜や胸当てなんかの防具も身に着けている。



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黒蛇くろへびの戦士 Lv95


所有スキル:

『剣術Lv4』

『盾術Lv4』

『自己再生Lv4』

・欠損した体の一部を、体内魔素を消費して瞬時に再生する


特長:蛇人型の魔物、首をねても消滅しない。自己再生能力に優れる。

弱点:胸部にある魔核を破壊する。もしくは体内の魔素量が一定値を下回ると消滅する。

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 すぐさま鑑定をして、全員に情報を伝える。すぐに反応したのはドラゴと桜、それに杏子だった。


『ほぉ、一応魔物なんじゃな。蛇人へびじん族、というわけではなさそうじゃ。意思の疎通は……出来そうにないのぉ』

『てっきりリザードマンかと思いましたけど、顔はたしかにヘビですね』

『自己再生のスキルが厄介かも……。『魔核』が胸部のどこにあるのか、個体差があるのかを確認したいところね』


 そう言いながらも、各自が腰を上げて戦闘態勢に入っていた。そのあとも、戦うこと前提でどんどん話が進んでいく――。



 いまも部屋の中央にいる2匹の蛇人へびじんは、スキルを3つも所持してるし、装備も良さげな感じだ。ただ、レベルに関してはこちらといい勝負なので、絶望するような相手には見えない。


『よし、オレと村長が1匹を受け持ちます。もう片方はドラゴさんとドリーさんで頼みますね。まずは魔法攻撃を――』


『じゃあ私が右のヤツを、杏子さんは左をお願い。虫類だし、氷系で良いと思うけど、属性はお任せします』

『こっちも貫通系の氷魔法にするわ。防具を貫けるか試してみたいの』


『冬也、狙うのは弱点の胸か?』

『いや、オレたちは部位破壊を狙おう。剣があるしな。胸部のほうは打撃班に任す』

『しかと心得た。儂とドリーで風穴を開けてくれるわっ』


『それじゃあ秋穂、よろしく頼む!』 

『うん、付与魔法いくよっ』


 秋穂の付与魔法を合図にして、ふたりの魔法使いによる一斉射撃が開始された。部屋の入り口に陣取りと――鋭く尖った氷の槍が次々と着弾、ドドドドドッっと轟音が鳴り響き、黒蛇くろへびの戦士が吹き飛んでいく。


 放たれた氷の槍は、盾も防具も貫通しているようだ。がしかし、体中に空いた穴も、すぐに再生されて元通りになっていた。

 しかもなぜだか、盾や防具まで修復されている。ひょっとすると、装備類も体の一部なのかもしれない。


「うわっ、再生するの早すぎません?」

「でもダメージは与えてるみたいよ。少し動きが鈍ってるわ」


 そんな会話をよそに、私と冬也は蛇人に詰め寄る。


 相手の起き上がりざまに首をねる。と同時に、冬也は両腕をぶった切っていた。床に転がったソレは、すぐに霧散むさんして消滅する。


「マジか、再生するのに3秒もかかってないぞ。自己再生凄すぎだろ……冬也、どうするよ?」

「とにかく切りまくろう。再生回数の限界を知りたい。どこでもいいから交互に飛ばしていくぞ!」

「了解っ!」


 時を同じく――ドラゴとドリーも、蛇人を前後で挟むように攻撃を加えていた。


 正面に陣取るドラゴは執拗しつように胸部を狙うが、相手の盾に阻まれてなかなか有効打にならない。とはいえ、こぶしで盾を破壊している様は、味方ながらに恐ろしかった。

 ドラゴの相手で手いっぱいの蛇人は、背後のドリーにまで対応できていない。何発もキツいのをお見舞いされていた。


「桜さん! 次に首を刎ねたら、切断部を凍らせて下さいっ。他の部位でもいいので」

「オッケー! こっちはいつでもやれるよっ」


 こっちをチラッと見た冬也は、それを合図に首を狙いにいく。それに続いて私も、太くて立派なしっぽを根元から切り飛ばした。

 すぐに間合いを取り桜の魔法に備える。が、その頃にはもう、ヤツの首根っこはガチガチに凍っていた。


 それから5秒ほど待つが――


「……生えてこないようね。当たり前だけど、視覚も奪ったみたい」


 首を無くした蛇人は、その場でやみ雲に剣を振り回している。


 私たちが再生阻止に成功したところで、ドラゴから声がかかった。どうやら向こうは決着したみたいだ。


「冬也よ! みぞおちを狙えっ。そこが弱点のようじゃ!」


 それを聞いた冬也は一瞬で間合いを詰め……見事にみぞおち部分を貫いていた。すると、「パリンッ」と何かが割れる音とともに、蛇人の動きが停止する。


 黒蛇の戦士が床に崩れ去るころには、薄緑色のもやが発生して、ほどなく消滅していった。



「ふぅ、こっちも終わったよドラゴさん。ドロップ品は、さっき見た魔結石と……青黒い、鱗? 村長、これ何だろう?」


 そう言って手渡された物は、手のひらサイズの青黒い鱗だった。ドラゴからも同じものを受け取り、早速鑑定してみると――


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黒蛇の鱗:傷ついても自動修復する蛇の鱗

※汚染された状態

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「黒蛇の鱗って名称らしい。それよりコレ、汚染されてるみたいだけど……持ってても大丈夫かな?」

「どう、なんでしょう? 啓介さん、どこか体に異常はありませんか?」

「今のところ無いけど……呪いのアイテムっぽくてなんか嫌だな」


(自動修復機能はたしかに素晴らしい。けど汚染されてちゃダメだろ)


 さてどうしたもんか、と考えているところで桜が驚いた顔をして話しかけてくる。


「啓介さん、何かしました? その鱗……だんだん白くなってますよ」

「ほんとだ。なんだろこれ」

「魔結石のときみたいに、村長の魔力なんじゃねぇの? 試しに魔力を込めてみろよ」


 言われてすぐに「ああ、なるほど」と納得した。冬也の言い分は当たっていたようで、私が魔力を込めると、みるみるうちに真っ白な状態へと変化した。


「名称が変わったぞ。『白蛇の鱗』らしい、汚染の項目も消えたよ」

「これで使えそうですね。村の鍛冶師も喜びそうです」

「黒蛇の戦士も、奇襲に気をつければやれそうだ。レベルも上げれそうだし、いい狩場なんじゃないか?」

「ふむ、対人戦闘の経験もできるしのぉ。実に素晴らしい相手じゃった」


 ここに来るまで、全員しっかりレベルを上げてきている。そのおかげもあり、たいして苦戦することもなく安定して狩ることができた。




 昼までにはまだ少しあるけど、コイツを倒せる存在のこともある。この先の部屋だけ確認して、今日は引き返すことに決まった。


 隊列を組みなおし、先の通路へ歩き出そうしたそのとき――



 対面の通路から、今度は蛇人の集団が現れた。















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