第134話 26階層への挑戦
異世界生活335日目-2855pt
継承能力強化から2日後
昨日、都度4回目となる村人認定式が開かれ、新たに70人の村人が誕生した。今日現在で開拓地に来た者はちょうど600人、そのうち296人が村人に昇格していた。
これで村の人口は450人。もちろん自分の手柄だとは思っていないけど、素晴らしい発展速度なんじゃなかろうか。
それはそうとして、いま開拓地に訪れているのは元々街に住んでいた人たちだ。理由は様々だが、全員、村人になる意思を持ってここへ来ている。
しかしこれが、難民の受入れとなればどうだろうか?
なにせ、平穏な生活を奪われて命からがら逃げてくる連中だ。「受け入れてやるからやる気を出せ」というのも到底無理な話だろう。忠誠度の上昇率はかなり鈍いと考えている。村人になるまでには相当な期間を要するだろう。
とは言っても、人が来なければ話にならない。「何人まで受け入れるか」「どんなヤツを受け入れるか」は、しっかり計画しておく必要がありそうだった。
「――い。おい、村長聞いてるのか?」
「あ、すまん冬也。ちょっと考え事してたわ、もう出発か?」
「おいおい大丈夫かよ? ダンジョンでもそんなだと、いくら村長でもアッサリ
「いや、もう平気だ。ここからはしっかり切り替える。悪かった」
(いかんいかん、今日は遺跡のダンジョンへ行くんだ。余計なことは後回しにして集中しないと……)
昨日の夕方、冬也と桜から申し出があり、遺跡ダンジョン26階層へ挑戦することになった。主力メンバーのレベルも十分に上がって、装備も万全の状態でのチャレンジだ。当然私も、戦力のひとりに数えられている。
11~15階層:オーク上位種
16~20階層:ミノタウロス
21~25階層:巨大牛
さて次はどんな魔物が出てくるのか――
◇◇◇
遺跡に転移した攻略メンバーは、パーティー編成の最終確認を行っていた。
ここにいる全員、『巨大牛の硬質革』で補強された魔鉄製防具を装備している。各部位には、夏希のセンスで格好いい意匠が
もちろん、なにがしかの特殊効果も付与されている。この姿を見ただけでも、只者じゃない雰囲気をビンビンに感じられた。
(なんか俺だけ浮いてない? 大丈夫かな……)
レベルは一番高いくせに、実戦経験の少なさからか、ついそんなことを考えてしまうおっさんだった。
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26階層探索班
啓介、冬也、桜、杏子、秋穂、ドラゴ、ドリー
巨大牛討伐班
勇人、立花、葉月、春香、メリナード、マリア、ドルト、ドレス
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未知の領域に挑むのは上記7人のパーティー。そしてもう1班は巨大牛を狩りに行くパーティーだ。勇人、立花、葉月の3人は、今回が巨大牛初挑戦となる。残りのメンバーを経験者で固め、こちらも万全の編成を組んでいる。
それぞれの鑑定役は私と春香が担当する。近接職と魔法職、それに回復職も配備しているので、どんな状況にも対応できる。
これが現在考えられる、ナナシ村の最強編成だった。
「じゃあ、勇人たちも気を付けてな。何があっても絶対無茶はするなよ」
「はい! 先輩たちの指示に従って頑張ってきます! 啓介さんたちもお気をつけて」
「俺もこの中じゃ下っ端だからな。後ろのほうで隠れてるから大丈夫だ」
「何言っちゃってんの? 当然、村長はオレと一緒に前衛だぞ?」
「……だよね。わかってる、ちょっとビビってるだけだ」
のっけから弱音を吐いておき、逃げ出す時の保険をかけておく作戦だ。正直、ちょっとどころじゃない、めちゃくちゃビビっている。
勇人たちと別れ、26階層への階段を下る。
てっきり、今まで見たいな広い空間だと思っていたら――意外とそうでもなかった。その先に見える通路もそこまで広くないし、高いとはいっても飛べるほどではない。
一方、周りの景色に変化はなし。「これぞ洞窟ダンジョンだ」って感じで、ゴツゴツした石の壁面と床が見えている。至るところに光る鉱石のようなものがあり、光源を保っていた。
桜もそれを感じたようで、階段を下りてすぐ言葉を発していた。
「巨大牛ゾーンよりは狭いですね……。オークのいた階層よりかは、少し広い感じでしょうか」
「ふむ……しかしアレだな。ダンジョンに森が出現したり、太陽があったりとかはしないのな。1階層からずっとこんな感じの雰囲気だ」
「私もそれは思いました。異世界ものにかぶれ過ぎて、ついつい考えちゃいますよね」
「とりあえず、鑑定ではとくに引っかかるものはないぞ。このまま進んでも大丈夫だと思う」
「わかりました。では冬也くん、ここから先は先導をお願いね」
パーティーの陣形を組みなおし、冬也と私が前に出て通路を進んでいく――。
それから程なくすると、通路の先に開けた場所を見つけた。部屋の中を覗いてみるが、何かがいる気配はない。私たちパーティーは、奥にある通路に注意しながら部屋の中へ入ってみることにした。
周りをよく見渡すも……壁はもちろんのこと、天井にも床にもおかしなところは――いやまて、アレはなんだ?
部屋の中央、その床に何か光るものを見つけた。
「これは……『魔結石』だよな? うん、間違いない。鑑定でもそうなってる。でもなぜこんなところに……?」
「啓介さん。魔結石って、魔石を加工して作るアレですよね」
「ああ、通常よりも高純度の魔石だ。大地の魔素が定着することで変質するはずなんだが……」
この魔結石は、私が触れる前からこの状態だった。ってことは、これを落とす魔物がこの階層に存在するってことか。
「なあみんな。たぶんコレ、魔物が落としたんだと思う。つまり、魔物を形成する魔素の濃度が高いってことだ。当然、強いと考えるのが妥当だ」
「村長、それはちょっとマズいぞ」
「ああ、冬也も気づいたか。ここに魔結石が落ちてるってことは……コイツを倒した何者かが存在するってことだよな」
「倒された魔物でさえ強敵っぽいのに、それ以上のヤツもいるんだ。これは撤退も視野に入れないとヤバそうだ……」
さすがの冬也も、今回ばかりはいつにも増して慎重になっている。「敵の姿が不明」ってところも、それに
「どうする? 引き返してもいいし、ここでしばらく待機してもいい。冬也と桜の判断に任せるぞ」
「ひとまず通路まで戻りましょう。どちらにせよ、部屋の中にいるのはマズい気がします」
「オレも桜さんに同意しますよ。すぐ動きましょう」
ふたりの意見もそろい、私たちは元きた通路へ素早く移動した。
それから2時間は過ぎただろうか――相変わらず、部屋の中は静かなもんだった。
秋穂の付与魔法を常に更新して、いつでも戦闘に入れる状態をとっていたが、物音ひとつ聞こえてこない。お互い小声で話しながら様々なケースを想定するも、ついには誰も言葉を発しなくなっていた。
そんな張りつめた空気の中、ようやく桜から次の指示がでる。
「あと1時間、それで変化が無ければ今日は撤退します。明日、改めて出直しましょう。……冬也くん、それでどう?」
「いいと思います。オレもそろそろ潮時かなっておも……! まって、どうやら魔物が湧きそうだっ」
慌てて部屋の中を覗くと――
薄緑色のモヤが2つ、今もだんだんと実体化していくところだった。
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