第133話 『継承』能力の強化


異世界生活333日目-10,620pt

 ナナシ村拡張から3日後



 ナナシ村の食堂では、朝食を済ませた村人たちが今日も作業に出かけていく。その数は150人ほどだろうか、全体の半分もいない。開拓を担当している者たちは、朝早くに転移して開拓民たちと食事をともにしているからだ。

 朝からのんびりしているヤツなんて、この村には誰もいない。いや違うか。村長の私以外、誰一人いなかった。


(不謹慎極まりないけど……この背徳はいとく感がたまらねぇんだ)


 一応言い訳をしとくと、昨日と一昨日は、『転移の魔法陣』を設置するという仕事をしっかりやって来たよ……。



 ――――



 そんなことはさておき、ずっと気になっていた『オーク大発生』について動きがあった。当初の予想では、サクッと蹂躙じゅうりんされるもんだと思っていた。――が、しかし、獣人たちは実に見事な粘りを見せていたのだ。


 国中の冒険者が召集されてなんとか前線を死守してる。なんでも、日本人冒険者の活躍が目覚ましく、意外と持ちこたえているそうだ。

 ケーモス領主ウルフォクスの話だと、「防衛イベント」やら「特殊クエスト」という単語が、日本人の間で飛び交っているらしい。


(もう1年近く経つのに……まだそんなこと言ってるヤツがいるのか)


 まあ実際には、放棄した村や街もいくつかあり、徐々にではあるが避難民も増えている。領主の話では、「北の虎人領」「首都ビストリア」「ケーモス領」の3都市を絶対防衛ラインにする計画らしい。要は、西にある2つの領地を諦めるってことだ。


 現在、全国の土魔法使い、そして農民の職業持ちが集められて、この3都市を繋げるように防壁を建設中。北から南まで、巨大な壁で侵攻を防ぐつもりらしい。


 覚えているだろうか。オークが地上に出始めた頃、日本人の農民は農作業をボイコットしている。そのせいで大事な奴隷がいなくなった。

 ――とまあ、それは置いといて。それで食いっぱぐれたヤツらが、今回の防壁建設に駆り出されたというわけだ。


(これはしばらく、ここまで流れてくる難民は出そうにないな……。焦る必要はないけど、少し予想と違ってきた)


という村長の役目を済ませた私は、開拓地をうろつく、じゃなくて視察することにした。




◇◇◇


「あ、村長。視察ですか?」

香菜かな、今日は詰所の警備か。レベルは順調に上がってる?」

「いまレベル52ですね。あっ、昨日はオークジェネラルともやり合ったんだよ! まあ、こっちは3人がかりだったけどね」

「へぇ、調子よさそうだな。ところで、今日は春香もいるかな?」

「中にいますよ。どうぞ、ご案内します」


 一応お偉いさんなので、向こうも気遣って案内してくれた。


「やあ春香はるか、調子はどう?」

「あ、啓介さんいらっしゃい! ここは特に問題ないかなー。たまに変なのも来るけどね」

「でも、丁重にお帰り願ってるんだろ?」

「うん、と言っても渋々だけどね。あれ以来、抵抗する人はいないよー」

「なあ春香、忠誠度が見れないのは不便だろ。やっぱり『村長権限』を継承しとこうか?」

「んー。ふたり共が使えるなら欲しいけどさ。わたしだけが所持するのはちょっとなぁ……」


『村長権限』は居住や侵入、追放の許可権限を有している。忠誠度の設定もできるし、村の根幹とも言える能力だ。春香はその権限を自分だけが持つことに、ずっとためらいを感じていた。


「実はさ、いま信仰度が10,000ptあるんだ。『村スキル強化の秘密』を使えば、それの解決策が見つかるかもしれん」

「でもいいの? ポイントは結構ギリギリなんでしょ?」

「そりゃそうだけどさ。なるべく早い段階で知っといたほうが良くない? 今だって、知らずに損してることがあるかもだし」

「そっかぁ。ならやっちゃう? わたしもアドバイスするよー」

「おっ、ぜひ頼みたい。今から村に行けそうか? 忙しいなら後でも全然いいぞ」

「大丈夫だよー。誰か来ても待たせとけばいいし、警備隊もいるしね」


 そんなわけで、香菜たちに留守番をお願いして自宅のある村へと移動した。最近移住者も減ってきたし、時間もそこまでかからないはずだ。



 自宅の居間に到着してすぐ、モニターの前で女神特典を取得すると――お馴染みとなったアナウンスが流れる。


『<村スキル強化の秘密>が解放されました』


『詳細を知りたい能力を選択してください。一度の解放につき、選択できる能力は1つだけです。選びなおしは出来ませんのでご注意ください』



「おいおいマジか……ちょっと待ってくれよ。キャンセルさせてくれ!」

「うわっ、びっくりしたー! 突然どうしたの?」

「やらかした……。どれか1つの能力しか選択できないらしい。10,000ptも使ったのにだぞ?」

「ありゃりゃ、それはご愁傷さま……」


 せめて事前のアナウンスが欲しかった。もしくは説明文に書いといてくれてもいいだうろうに……。


「ふぅ、いまさらなげいても仕方ないな。この事実が判明しただけでもヨシだ。今回は、一番可能性のありそうな『継承』を選んでみるよ」

「へぇ、啓介さんにしては切り替えが早いじゃん? あ、別にあおってるんじゃないよ?」

「いや、悔しいことは確かだけど……ポイントはそのうち貯まるからな。それより早く詳細を見てみよう」



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『継承+』


・誰にでも継承できるようになる

※村人以外にも継承可能


・継承した能力を継承者からはく奪できる


・継承をしても能力が消えない 

※能力ごとに継承者は1名のみ

※『継承』能力は対象外

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 モニターに表示された強化先は3つ。上の2つも使い道はあるだろうけど、やはり3番目が有能すぎる。どう転んでも選択するならコレ一択だろう。


「これは迷うまでもないが……とってつけたような強化能力だな。もちろん、こういうのを期待してたから嬉しいんだけど」

「そこは普通に喜んじゃえば? ――もしかすると、さっきのポイント詐欺さぎに対するおびかもよ?」

「ソシャゲでよくある運営のび石みたいな?」

「そうそう、女神さまが気を利かせてくれたのかも……。まあとにかく、これで解決だね!」

「だな、さっそく強化しちゃうよ。このまま継承もするから、もうちょっと待っててくれ」

「りょーかい!」


『継承』の項目を注視すると、前回と同じようにアナウンスが流れる。すぐに「YES」を選択して表示された項目をしっかり確認する。うっかり間違わないよう慎重に選ぶと、無事に能力が強化された。


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『継承+』 

忠誠度が90以上の村人に能力を継承することが可能となる。

※能力ごとに継承者は1名のみ

※『継承』能力は対象外

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「これでよしっと――。春香には『村長権限』と『追放指定』を継承したからな。これからはすべて、自分の判断で使っていいぞ」

「うはー、なんか責任重大だけど……これをもらった意味はちゃんと理解してるよ。任せてくれてありがとう」

「今後もしっかりやってくれ」

「うん! さっそく椿ちゃんに報告してくるけど、村長も行くでしょ?」

「ああ、椿にもいくつか渡すつもりだからな。今から一緒に行こう」



 こうして春香も、私以外で唯一村人にする権限を持つことになった。これで入場時のトラブルも減るし、私の仕事もさらに減ったことになる。忠誠度のおかげで彼女が裏切る心配もしなくていい。


 このあと椿には『念話』と『徴収』能力を渡す予定だ。統括者として念話があると非常に便利だし、徴収を使ってレベルをあげさせたい。


 このふたりは開拓地の中核を担う人材だ。自身の強さを確保しながら、これからも貢献してくれると信じている。



(ポイント消費は激しいけど、やっぱ詳細が見れるのは助かる。さっきはつい文句を言っちゃったけど、欲張りすぎだな……。女神さま、聞こえてるかわかりませんけど、さっきはすいませんでした)


 女神さまのお怒りを買わぬよう、しれっと謝るおっさんであった。



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啓介 Lv104

職業:村長 ナナシ村 ★★☆

現在の信仰度:1025pt


ユニークスキル 村Lv-(380/5000)

『村長権限』『範囲指定+』『追放指定』

『能力模倣』『閲覧』『物資転送』

『念話』『徴収』『女神の恩恵』

『継承+』<NEW>

忠誠度が90以上の村人に能力を継承することが可能となる。

※能力ごとに継承者は1名のみ

※『継承』能力は対象外


村ボーナス

★   豊穣の大地

★★  万能貯蔵庫

☆☆☆ 女神信仰

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春香 Lv88

村人:忠誠99

職業:上級鑑定士

スキル:上級鑑定Lv4

対象を目視することで全てのものを鑑定可能

通常鑑定よりも詳細な鑑定が可能となる

自身に対する鑑定を完全に阻害できる

鑑定したスキルの一部を自身が習得する

※入れ替え可 習得限度数:1

習得スキル:剣術Lv3<NEW>


継承スキル:村長権限<NEW>

村への侵入・居住と追放の許可権限を持つ。※村人を対象に、忠誠度の値を任意で設定し自動で侵入・追放可能

継承スキル:追放指定<NEW>

追放の位置を設定できる。回数制限なし

※地上のみ

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椿 Lv47

村人:忠誠99

職業:農民

スキル 農耕Lv4

土地を容易に耕すことができる。

農作物の成長速度を早める。

農作物の収穫量が増加する。

農作物の品質が向上する。


継承スキル:物資転送

村の敷地内限定で、事前に設定した位置間で物資の転送が可能となる。※生物転送不可

継承スキル:念話<NEW>

忠誠度が90以上の村人との念話が可能になる

継承スキル:徴収<NEW>

村人が得た経験値の一部を徴収できる。0%ー90%の範囲で設定可能

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