第131話 第1回村人認定式


異世界生活313日目-1345pt



 翌日、開拓地の中心部では、記念すべき『第1回村人認定式』がおこなわれていた。



 認定式とはめい打っているけど、実際、それほど大層なものじゃない。結界の中に入れるかどうか、それを順番に試していくだけだ。

 無事に入れた者は台帳に登録し、そのまま転移の魔法陣を使って村へ行く。そのあとは村を見学したり、教会に行ってもらう予定である。


 弾かれた者は残念……次回、再挑戦だ。


 まあ、忠誠がめちゃくちゃ低いヤツは別として、開拓地に住み続けることは許しているので、頑張ってくれとしか言いようがない。



「それでは、結界に入れた人はこちらへ。警備隊と一緒に村へ転移していただきます。向こうにも担当者がいますので、村に住むことを希望する方は、そこで申し出て下さい」


 椿の説明を受けた40が、警備隊の指示に従い集合していた。


「みなさん、これだけはご注意を。……過去のことですが、村人になってすぐ、良からぬことを考えて追放された人がいます。その人たちがその後どうなったかは不明です」


 椿は最後に、そう付け加えて釘を刺していた。


(このタイミングでそれを言うとは……。みなさん、心にグサリと効いてるみたいですよ)


 新たな村人が転移したあと、今度は残った人たちに声を掛けている。


「今回入れなかった人も、諦めず頑張ってください。村に行った人の話を聞けば、必ず忠誠度は上がります。皆さんが村人になる日を心待ちにしています」

「はいはーい! 自分の忠誠度が知りたい人ー。日中、わたしが詰所にいるとき声を掛けてー。いつでも鑑定するから目安にしてねー。あ、あとね。メリナードさんの話を聞くと、抜群に忠誠が上がるかもよ?」

「私が伝えるのは、村長の素晴らしさと村のことだけですが……。村人になりたい方は是非おいで下さい。いつでも歓迎しますよ」


(三人とも上手いことやるな……。気落ちしてた人がもうやる気になってる。というか、すでに相談してるヤツもいるわ――)


 今回落選した人たちも、まだまだ諦めてないようだ。



 

◇◇◇


 認定式も無事におわり、村に行ってた者たちも昼過ぎには戻って来た。


 生産業に就いた者、警備隊に配属した者が大半を占めるなか、自ら志願してナナシ軍に入る猛者もさもいる。昨日出会った香菜たちもその中に入っていた。


 平和な日本にいた頃は、死と隣り合わせの日常なんて想像すらしてなかった。しかしこの世界はまったくの別物、ダンジョンに入れば同業者が敵になるし、街での安全が保障されてるわけでもない。


 彼女たち曰く、「死にたくないなら強くなるしかない」「ここなら魔物狩りに集中できるし、毎晩の安息が約束されている」「らなきゃ殺られるだけだ」ってのが志望理由だった。


 きっとほかの冒険者も、大なり小なり似たような思考に変化しているのだろう。異世界に飛ばされてからもう10か月以上経つのだ。そうでなければ当の昔に死んでいる。


(そう考えると、いま残ってる日本人は結構まともなのかも……? この調子で増えてくれるとありがたいな)



 ――と、変なフラグを建てたのがいけなかったらしい。



 詰所にいた春香から念話が入り……「なにやら怪しい集団が来た」と、お呼び出しをくらったのだ。


『春香、今からそっちへ向かうけどさ。警備隊はもう呼んであるのか?』

『うん、いまは8人待機してる。今日はラドさんと秋ちゃんもいるよ』

『ならじゅうぶんだ。私もすぐ行くよ』



 私が詰所に到着すると、門の前で仁王立ちしている春香と、警備隊の面々がいた。


 相対する集団の数は38人、そのすべてが日本人だ。レベル帯は40~55で、街の冒険者だと語ってるらしい。

 全員移住希望者で、開拓地の警備を志願している。だがその内の数名から、「なんか嫌な感じがする」と春香が言っていた。


「春香おまたせ、とりあえず居住の許可を出しとくよ」


 門に併設された詰所に着くと、すぐさま全員に居住の許可を出した。もちろん忠誠度を見るためだ。


「村長、呼び出してごめんね。って、あーやっぱり……わたしの勘もたいしたもんでしょ!」

「パッと見、怪しいのは8人だけだな。――よし、対処は任せる。初仕事だ、好きにやってみてくれ」

「了解しましたっ!」


 今さら念話でコソコソする必要もない。私は鑑定だけして、あとの対処を春香たちに任せた。


 この中で8人だけ、忠誠度が極端に低い。なんとか10以上はあるけど、殺意を持つ寸前って感じだった。逆に残りの30人は、忠誠度が40以上ある者ばかりだった。中には50を超えてるのもチラホラ混じっている。


「それでは順番に受付しますねー。名前を呼ばれた方はコチラに記帳して下さい。そのあと中に入って、待機をお願いしまーす」


 そう説明した春香は、忠誠度が高い順に呼び出し、どんどん受付を済ませていく――。


 やがて例の8人だけが残り、そこで受付を締め切った。


「はい! これで受付終了です。残念だけど、あなたたちは受入れできません。忠誠度が低すぎます」

「なっ、おかしいだろそんなの!」

「そうだそうだ!」

「責任者だせよ、責任者!」


 お約束の展開が始まると――春香も私のほうを見てニヤニヤしている始末だった。まあ、既にる気満々みたいだし、油断とは違うんだろうが……。


「んん、責任者はわたしです。それと、即刻退場するなら見逃しますが……ほんの少しでも抵抗すれば、命の保証はありません。威嚇も警告もないから、ほんとに気をつけてね」


「おいお前、馬鹿じゃねぇのか?」

「オレたちのレベルを見てよくそんな口が利けるな。マジでどうなっても知らねぇぞ?」

「この女、オレらがAランク冒険者ってこと理解してねぇだろ」

「こんな辺鄙へんぴなところに住んでるしな、しょうがないんじゃね?」

「いいからさっさと入れろ!」


(コイツら凄い……。同じ日本人とは思えないほどの逸材だ。ひょっとして、わざとやってるのか?)


 そうこうしてる内に、ナナシ軍に入隊したばかりの香菜が、春香に向けて話しかけていた。


「春香さん、先に入った冒険者の話を聞いてきました。彼らとは仲間ではないそうです。来る途中で合流しただけだと言ってました」

「おっ、ありがと香菜ちゃん。――ってことなので、皆さんすぐにお帰りを。帰らない場合はとみなし排除します」


「おい、ダメだコイツら。やっちまおう」

「だけど……中にいるヤツらはどうするよ? 結構人数が多いぞ」

「アイツら全員レベル40くらいだろ? どうってことない雑魚だわ」

「まあそうか。んじゃ、全部殺して占領してやるか」

「馬鹿野郎、女は残しとけよ。全部殺しちゃ意味ないだろ」

「ハハッ、そんなの当たり前だ」


 8人とも余裕の表情をしている。自分たちの力に絶対の自信があるようだ。レベルも高いし、街ではトップクラスの実力なんだろう。


(たしかにみんな、レベル50を超えているが……。動くとほんとに死んじゃうよ? って馬鹿、剣を抜いちゃったら……)



 ――――



 そこからはもう、一瞬の出来事だった。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る