第111話 たけし
街中で見かけた『特務隊』と呼ばれる日本人奴隷の集団。
偶然目を合わせた日本人のひとりが、こっちに向かって歩いてくる。
『椿、後ろに下がってて』
『あれ……? あの人、知り合いかも……』
『ええ? 誰だかわかる?』
『たぶん、職場の同僚……だと思います』
念話でやり取りしてる間にも、向こうはどんどん近づいてくる。
やがて小走りになると、アッと言う間に目の前まで来たので、私もあわてて鑑定する。
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職業:
スキル:
刀の扱いに上方補正がかかる
刀で攻撃する際の威力が上昇する
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(こういうのなんて言ったかな。……名は体を表す? いや全然違うか)
ついつい名前に気を取られたが、これならじゅうぶん制圧可能だ。
「あの……椿さん……っすよね?」
「
「やっぱりそうだ! でもなんか若……じゃなくて――もっと美人になってて驚いちゃった」
「武士くんも元気そうで、って言っちゃダメかな」
武士の首をチラ見する椿だったが、当の本人は気にした素振りを見せない。
この
「少し前まで最悪だったけど、最近はそうでもないよっ。今では街の人気者なんすよ。――椿さん、おれたち特務隊の活躍とか聞いてない?」
「……最近、街を離れてたの。もしよかったら、その話詳しく聞かせてくれないかな」
「あ、じゃあちょっと待ってて。仲間に伝えてくるからさ。近くの酒場で話そうよ!」
(こいつ、俺を完全に無視しやがったな)
「啓介さん、このチャンスに情報を集めましょう。当事者に直接聞けば色々わかるでしょうし」
「私も同席していいのかな」
「もちろんです。啓介さんと一緒じゃなきゃ、絶対に行きませんよ」
(ふっ、勝ったな……)
おっさんはひとり、勝利に酔いしれていた。
◇◇◇
酒場に移動した3人は、テーブルを囲んで30分ほど談笑していた。ただ、話しているのは椿と武士のふたりだけだ。
それはさておき、椿が聞きだした情報を整理するとこんな感じだ。
1.『特務隊』は5人1組で行動している。行動計画と戦果報告は、隊のリーダーが行う。領主館にいる記録係に毎日報告する義務がある。
2.隊員の休息や交代については自由。ただし、一定以上の成果を上げる必要あり。(オーク討伐やパトロール時間など)
3.配属された街(村)を離れたり脱走すれば、隊の連帯責任を問われる。最悪の場合、隊全員が死罪となる。
4.街には当初、250人の特務隊がいた。が、2日前に議会からの緊急招集があり、高レベルの者は北の国境へと移動していった。いま街に残っているのは50人で、レベル35以下の隊員だけ。
5.日本人奴隷のレベルは20~45が大半を占めており、50を超える猛者も100人ほどいるらしい。最高レベルは57で、オークジェネラルとタイマンを張れる。
「武士くん。その首輪の拘束力って、どれくらいかしら。街から離れ過ぎると死んでしまうとか?」
「それはないっすよ椿さん。こっちに配属されたとき、首輪の種類が替わったんだ。だから今は、奴隷所有者を害さない限りは大丈夫」
「何で替わったの? ――温情みたいなものかしら」
「ああそれね。結構前に、日本人で議員になった人がいてさ……その人が提案してくれたんすよ」
「それって日本商会の隆之介って人のこと?」
「おっ、椿さんも知ってた? オレたちみんな、隆之介さんには凄く感謝してるんだ。あれから奴隷の扱いがめちゃくちゃ改善されたんすよ!」
(なんだなんだ? ドラゴから聞いてた話とかなり違うな。もっと悪どいイメージだったけど、路線変更か?)
「今のオレたちならオークも倒せるし、街の人たちにも歓迎されてるんだ。転移した時は失敗したけど……やっとスタートを切れた感じっすよ」
「奴隷の人たちも、逃げる気はないってこと?」
「オーク討伐で成果を上げたヤツは、奴隷からも解放されるって噂だよ。だからみんな張り切ってるんだ」
「そうだったのね……いろいろ教えてくれてありがとう」
「人族との国境に召集された」ってのは気になるけど、待遇はかなり改善されてるし、隆之介の人望も厚いようだった。
(この調子だと奴隷の反乱もなさそう……?。ひょっとしてそれが狙いだったとか)
そんなことを考えていると、武士がやっと話しかけてきた。
「ところで……隣にいるお兄さんは、椿さんの彼氏さん?」
「ん? お兄さんて俺のこと?」
「ええ、ずっと怖い顔してたんで……話しかけづらかったんすよ」
「うわっまじか。そんな顔してたのか俺……。ごめん
「誤解? いやまあ、オレも久しぶりに知り合いと会えて、つい嬉しくなっちゃって……なんかすんません」
無視の原因は私にあったらしい。しかもお兄さんて……武士、めっちゃいいヤツだったわ。
「啓介さん。彼氏かって質問には、まだ答えてませんよね」
「「え?」」
椿の発言に私と武士の声が重なり……野郎ふたりは沈黙していた。
「――仕方ありません、私が答えましょう。この人は命の恩人であり、私の上司です。あと、彼氏です」
「あ、やっぱそうだったのね。今さらながら……どうも武士っす」
「私は啓介、よろしくな」
そのあと、これまでのことを話したり、店の情報なんかも教えてもらった。あっ、念のため村のことは秘密にしといたよ。
転移早々、暴れて捕まったらしいけど、元々はわりと真面な青年だったらしい。椿とも仲が良かったみたいで、お互い、再会を喜びつつ別れることになった。
好青年の武士と別れたあとは、街をのんびり歩いて回る。
露店街には見たこともない野菜が並び、衣類のお店には高級そうな服も並んでいる。
パン屋に寄ったときなんかは、その品揃えに驚いた。黒パンしか置いてないかと思ったら全然違う。日本にあった食パンやクロワッサン、総菜パンも沢山の種類が並んでいる。
それもそのはず、店員は全て日本人。経験者が何人かで集まり、店を切り盛りしていると言っていた。――器材も違う。材料も違う。そんななか、試行錯誤の末にここまでたどり着いたらしい。
周りを見ても、道行く人々のなかには日本人が結構いる。運よく街にたどり着いた日本人たちも、それなりにやってるようだった。
「さあ、今日はこれくらいにして戻ろう」
「はい、明日も楽しみですね」
「街の治安も良さそうだし、この分なら明日も気楽に過ごせそうだ」
明日はどこへ行こうか。そんな会話をしながら商会へと戻っていく。
――だが、事態は思わぬ展開を迎えることになる。
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