第112話 そして世界が動き出す


異世界生活237日目

  街に来て2日目の朝



 朝食をいただいた私たちは、さっそく街へと出かけ――ずに、メリー商会で話し合いの最中だった。


 なんでも、人族の領土であるアマルディア王国内で、とんでもない事件が起きていたらしい。


 情報源はドラゴお抱えの諜報員からのようで、かなり詳細なことまで掴んでいた。なのでお出かけはキャンセル。椿とともにメリナードの話を聞いているところだ。



 ――――――



 一連の出来事は、『アマルディア王国』にオークが出現したことから始まる。

 


 今から2か月ほど前、アマルディア王国の各地でオークが目撃されるようになった。それを受けた国王は直ちに軍を派兵。同時に、各地の領主経由で冒険者ギルドへの全面支援を要請した。


 ――それから2週間が経過し、事態もようやく収束する。オークは相変わらず湧いていたが、被害はかなり軽微になる。軍と冒険者のおかげで、街や村の治安も守られていた。



 そんな矢先……王国北部の全域で、オークの出現数が爆発的に増加したのだ。


 森の中はもちろん、街道沿いや農地を始め、街や村のすぐ近くでも湧くように……。出現する数も尋常ではなく、被害はどんどんと、とめどなく拡がっていった。小さな村は壊滅、生き残った村人も近くの街へと避難している状態だ。


 国王はこれに対し、王国軍本隊3万の兵士を北方へ派兵、これは首都に所属する本隊の6割に相当する。当然、各地の領を治める貴族たちにも、私兵を北へ向かわせた。



 ――問題となるのはここからだ――



 北の勇者一行が、獣人領との国境に位置する王国南東部でまさかの独立。『日本帝国』を建国したのだ。


 国王とも良好な関係だったのに、いきなりの謀反むほんだった。


 北の勇者は初代皇帝の座に就き、もともと南部を治めていた辺境伯が軍団長に就任した。なお、どうやって懐柔かいじゅうしたのかは不明だ。


 

 実はこの建国、かなり前から計画されていたらしい。


 賢者の『転移魔法』により、各地(主に北部)の日本人奴隷を救いながら戦力を集め、聖女の『解呪魔法』で隷属を解き辺境伯領でかくまっていた。

 大量の奴隷が消えれば、普通バレそうなもんだが……各地にも支援者がいたのだろうか。もしくは特殊スキルの効果かもしれない。



 それとオークが大量に出現した原因――。実はこれも勇者の仕業だった。


 剣聖と賢者率いる日本人の冒険者集団が、北部数十か所のダンジョンに侵入、オークを地上に大発生させたのだ。


 ってことは、この勇者たち……ダンジョンとオークの関連性を知っていたことになる。――それが女神のお告げなのか、ユニークスキル関連なのかは不明。ただ、私たちがその事実を知る以前から、何らかの方法で入手していたのは間違いない。



 っと、話を戻そう――


 この時点での戦力は、日本帝国2万に対し、王国の総戦力は10万。


 とはいえ王国は、兵力の5割を北方へ派兵している。しかも北部のオーク討伐と避難民の保護により、食糧不足も深刻化。

 北にオーク、南に勇者。両方に挟まれ、日本帝国に制裁を加えることも難しい。


 そんななか、日本帝国は次の動きを見せる。王国に対して「日本人奴隷の無条件解放」を要求したのだ。


 もちろん、そんなバカげた要求を王国側が許すはずもない。激怒した国王は、王国北部に派兵していた戦力の半分を引き上げ、日本帝国への出兵を宣言する。


 ――だが、これがいけなかった。


 北方の戦力が半減したことで、オークの侵攻を止められなくなる。兵士が次々と死に絶え、負傷兵もどんどん増え続けた。そりゃそうだろう。オークはいくらでも湧くのだから。

 最北部に位置する領民はその地を去るほかなく、事態は悪化の一途をたどることに……。


 こうなると、もう戦争どころではない。結局は軍を送り返すことになるが、時すでに遅し。北からのオーク侵攻を阻止するために、さらに過剰な戦力を出すしかなかった。



 最終的に王国は、日本帝国の独立をしぶしぶ認めた。日本人奴隷を解放する代わりに、王国への帰化を希望する兵士の返還と、人族の国民を解放する条件を提示。

 対する日本帝国は、王国に住む日本人が自由に移住できる権利を主張した――――。



「それで結局、どう収まったんだ?」

「1年間の不戦条約を結び、国をまたぐ移住を双方で合意いたしました」

「それって完全に、北の勇者の思惑通りってことだよな?」

「そうですね。まさか魔物を利用するとは……無謀なことをしてくれたものです」

「いずれはこっちも、大陸東みたいになるかもな」

「それでも、助けられた日本人にとっては、まさに英雄なんでしょう」

「ちなみに王国と帝国、それに獣人連合の戦力はどんなもん?」

「はい、3国の状況は概ね――」



===================

『アマルディア王国』人口:100万人

※首都および20の領地総数


王国軍:8万人(北部防衛に5万を配備)

冒険者:5万人

日本人:7万人(一般5万、奴隷2万)

=================== 

『日本帝国』人口:5万人


帝国軍:1万人

日本人:1万人(冒険者5千、元奴隷5千)

===================

『獣人連合国』人口:25万人

※首都および5の領地総数


連合軍:2万人

日本人:1万5千人(一般9千、奴隷6千)

===================



 メリナードが聞いた情報をまとめると、大体こんな感じだった。


 単純な戦力なら王国が抜けている。しかし、オーク侵攻に兵力をいているので、各国の差はそれほどでもない状態だ。


「なあメリナード。日本帝国って、人口のわりに兵数が多すぎるんだが……食糧はどうやって調達してるんだ?」

「やはりそこが気になりますよね」

「だってさ。辺境伯が用意できる量にも限りがあるだろ。肉はいいとして、作物はすぐに育つわけじゃないしさ」

「ここからは未確定情報なのですが……どうやらここ半年ほど続いている食糧不足。その原因が勇者による買い占めらしいのです」


 確たる証拠がないので断定はできない。が……賢者の転移魔法を使い、各地を買い回っていたらしい。


 辺境伯が治める王国南東部は、大山脈に面している。当然、採掘業も盛んだし、大山脈から流れる川の恩恵もあり、農業も充実している。

 その豊富な資金を使い、各地で買い占めを行う。半年や1年なら、保存のきく食物はいくらでもあるだろう。


「なるほど。かなり前から水面下で動いてたのか。今まで勇者関連の情報がなかったのも、意図的に隠してたんだな」

「私からの報告は以上ですが……今後の対策はいかがしましょう」

「日本帝国の手が、獣人領にも延びるようなら村に撤退してほしい。あとは――別にないかな。今まで通りでいいよ」

「村長ならそうおっしゃると思いました。では、そのように致します」



 こんな感じで、メリナードがしてくれた話は、たしかにとんでもない事件だった。

 

 それでも、今日の話を聞いた限りでは、村に直接影響するような問題はない。これからどうなっていくかは気になるけど、あくまで傍観者としてだ。まあ、北の勇者も張り切ってるようだし、手段はどうあれ、自分の信念のもと行動してるんだろう。


 人族や獣人族、ましてや日本人たちがどうなろうと「私の知ったこっちゃない。好きにしてくれ」って感じだ。私がするべきことは最初から何も変わらない。「自分と村を守ることだけ」だ。



「ちょっと遅くなったけど街に行こうか。まだまだ見てない物もいっぱいあるしさ」

「いいですね。行きましょう!」

「ってことで行ってくるよメリナード、夕方には戻る」

「はい、お気をつけていってらっしゃいませ」




 ――ようやく世界は動き出した――
















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