第108話 村スキルの強化(SSR)
異世界生活235日目
村に戻ってから2日目、朝食を終えた村人たちが各自の作業へと向かっていく。
冬也たちダンジョン班も、いつものように馬車に乗り込んで出発の準備中だ。今日からはミノタウロスを相手にするので、初挑戦のメンバーも気合が入っている。
昨日は15階層のボス部屋へ挑戦した。
私は参加してないので戦いの詳細は説明できないが……まあ、お察しのとおりだ。戦力の大幅強化に、遺跡調査メンバーの飛びぬけたレベルアップが加わり、あっという間に攻略された。
聞いた話しだと、荘厳な扉を開いた先には、オーク種100体の大集団が待ち構えていたらしい。
オークキングが祭壇の玉座に居座り、それを囲うようにオークジェネラルが10体、そして部屋を埋め尽くすオーク上位種や通常のオークたち。普通なら絶望してしまうような状況だ。
だがしかし、魔法職の先制攻撃によりオークの大部分は消滅、虫の息だった残党も戦士団によって掃討された。
一瞬の出来事に、玉座でふんぞり返っていたオークキングは呆然としていたらしい。なんとか気を持ち直すが、結局、雄たけびを上げる間もなくやられたんだとさ。
と、まあそんな感じで――15階層の転移陣を解放したのち、ミノタウロスを試し狩りしてから帰還して来たのだ。
「冬也、桜。みんながミノ狩りに慣れるまで、無茶しないようにケアしてくれよな」
「ああ、わかってる」
「しばらくの間は、各パーティに交じってサポートするので大丈夫ですよ」
「そっか、なら安心だ」
軽く言葉を交わすと、みんなは馬車を連ねて出かけて行った。
「では村長、私もそろそろ行きます」
「ああ。レベルが上がったとはいえ、油断はしてくれるなよ」
メリナードがウルガンとウルークを引き連れて街へと向かっていく。交易品の運搬と情報収集を目的として、メリマスと交代するためだ。
三人とも、Sランク冒険者に匹敵するレベルだし、結界のネックレスも所持している。特殊なスキル持ちに絡まれない限りは、大事に至る心配は皆無だろう。
◇◇◇
見送りを済ませた私は自宅の居間でのんびりとしていた。
(はぁぁ、めっちゃ落ち着く。――しばらく村を離れるのはやめとこ。また情緒不安定になりそうで怖いし……なんかの呪いかコレ?)
馬鹿げたことを考えながら、なんとなくステータスを確認をする。
いくらモニターを眺めても、レベル以外の変化はない。スキルの解放条件がわからないので仕方ないんだが……。
(そういえば、能力の強化ができるわ。……やっちゃおうかな?)
杏子が加入した際に解放した『能力の強化』だが、何にするかを決められず放置していたのを思い出す。
(うん、使わないと勿体ないよな。どれを選んでもハズレはないんだ……やっちゃえやっちゃえ!)
こういうのは勢いが大事だ。ああだこうだと悩んだ末、使う前に死んだら意味がない。――なんて、自分を正当化する理由をひねり出し、「どれを強化すべきか」に思考を移していく。
私が所持している能力は全部で9つ。そのどれを強化しても、今より便利になるのは間違いない。まあ、だからこそ今まで悩んでいた訳なんだが……。
――――――
それから2時間は吟味し、私が選んだのは『範囲指定』だ。大森林以外でも拡張できるんじゃないかと、ひそかに期待している。
範囲指定の項目を注視すると、『強化しますか? YES/NO』の文字が浮かぶ。ここで迷えばまた何時間も悩むだけ……私は勢いのままYESを選択した。
『範囲指定の能力を強化します。強化先を指定してください』
(強化先って……スキルツリー的なものか?)
てっきり、そのまま強化されて終了だと思っていたら、なんと4つも選択肢がでてきた。
==================
『範囲指定+』
・形状、幅、高さを自由に変更できる
※最小値1m
・地域の制限なく拡張が可能となる
※地域により恩恵の制限あり
・視認できない遠方でも拡張が可能となる
※一度でも訪れた場所限定
・ダンジョン内での拡張が可能となる
==================
「SSRきたー! 地域の制限なくって……大森林以外でも拡張できるって意味だよな?」
待望だった内容が、選択肢の1つに表示されていた。
「……ふぅ。落ち着け、落ち着くんだ。他のもちゃんと見てから決めよう」
すぐに決めたい気持ちをグッとこらえ、他の項目を確かめていく。
何度も何度も読みなおし、様々なケースを想定する。どの項目も素晴らしく、できれば全部選びたいところだが……やはり選ぶならこれだ。
==================
『範囲指定+』
拡大する土地の範囲と方向を指定できる
※地域の制限なし
※地域により恩恵の制限あり
==================
選択が完了すると表示される項目が変化した。文面は以前と少し違うが、地域制限がなくなったのと、場所により恩恵が制限されるようだ。
恩恵ってのはたぶん村ボーナスのことだろう。ちゃんと確認する必要はあるけど、選ぶ前からそんな確信があった。
◇◇◇
それからの私は大興奮だ。一刻も早く確認するため、馬車を用意してすぐに村を出た。
出発寸前、異変に気づいた椿が駆け寄ってくると、「一緒に行く」と言うので承諾した。とにかく急いでいたので、あとのことなんて何も考えてなかった。
道中、詳しい事情を説明しながら馬車を走らせていると、
「啓介さん、ひとまず夏希ちゃんと桜さんに念話を入れて下さいね。村長が突然いなくなったら大騒ぎですから」
「あ……だよね。すぐ連絡するよ」
「それと、今日は元集落で泊まります? それとも森の終わる辺りにします?」
「え? どういうこと?」
「だってもう昼ですよ。現地に着いて色々検証してたら、暗くなるまでに戻れません」
「うわっ、マジか。どうしよう……戻る?」
「テントや毛布は積んであります。食事は転送できますし、連絡さえ入れたら問題ありませんよ」
「……何から何まですまん」
そういえば、ロクな準備もしてなかった。ていうか、泊るなんて頭の片隅にもなかったんだ。
(待て待て……。ってことは俺、今晩は椿とふたりきりで寝るのか……)
「今日は森の出口まで行って、そこで野営しましょう。明日の朝一番から検証すれば、夕方には村に帰れますしね」
「あ、うん。そうだね。そうしよう」
結局、日暮れ前には森の出口に到着した。
その頃にはすっかり落ち着き、結界内で野営の準備をしてから早めの夕食を摂る。まだ外は明るい。
「まだ夕方ですけど、明日も早いので休みましょうか」
「あ、うん。そうだね。そうしよう」
こうして長い夜が過ぎていく。
正直、いつ寝たのか全然覚えていないが、気がついたら朝だった。
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