第90話 竜人の家族


異世界生活192日目

 兎人の双子誕生から5日後



 もうまもなく、ドラゴ一家が村に到着する予定だ。少し前にメリナードから念話が入り、街をいったことを知らせてくれたのだ。


 飛び出してってのは、文字通り、家族全員で飛行しながら向かっているという意味で、障害物のない空の移動に竜人の飛行速度が加われば、到着までそんなに時間はかからないはず。

 以前ドラゴが来訪したとき、その圧倒的な飛行能力を目にしたので間違いないだろう。



 連合議会についてだが、議長に就任したのは、虎人族の族長タイガンという人物に決まったらしい。てっきり、隆之介りゅうのすけがなるもんだと予想していたので驚きだ。

 自分は表舞台に立たずに影から操るつもりなのか、ほかの思惑があるのかは不明。ただ、日本人奴隷の所有権を引き継いだのは隆之介だと聞いたので、まだ何かやらかすつもりだろう。


 とはいえ、村に被害がない限りは正直どうでもいい。私と村が最優先だということは、ドラゴにも魚人のマリアにも徹底してある。それを承知で村への移住を決断したんだと考えている。

 仮に獣人領で何かが起こり、情にほだされ向こうに肩入れするようなら、問答無用で追放すると念を押してある。



「啓介さん、あの人たちじゃないです?」


 椿が指さすほうを見ると、上空に4人の人影が確認できた。向こうも私に気づいたようで、滑空しながら手を振って答えている。

 私と椿も結界際まで歩いていき、いよいよご対面と相成った。



「啓介殿、久しぶりじゃの!」

「ドラゴも元気そうでなによりだよ」

「この日が来るのをずっと心待ちにしておったでの! っとすまん、これが儂の家族じゃ」

「初めまして、ドラゴの妻ドリーよ。こっちは息子のドルト、そして娘のドレス、魔物狩りならウチらに任せて下さいね」

「ドルトです! 歳は16、戦闘には自信があるんでよろしく!」

「わたしはドレスよ、わたしたち双子なの。ああ、ちなみにわたし、ドルトより強いから、そこのところよろしく」


(おい、なんだこの戦闘民族、自己アピールがひど過ぎるだろ……)


 初対面の家族に辟易へきえきしながら居住の許可と鑑定をしてみるが、忠誠度はそこそこあるので村には全員入れそうだ。


「まあ、なんだ。たくましい家族だね?」

「すまん啓介殿、どうやらわかっとらんようじゃ」

「え? なにが?」


 いきなりドラゴが思わせぶりなことを言うんだが、なんのことだかサッパリわからない。


「……のぉお前たち、目の前にいる男の力量がわからんか? 強き者には敬意を持って接する、そんなこともできんとは情けないぞ」

「しかし父上、この人どう見ても強そうには……」

「ドルトの言うとおりだわ。覇気も感じとれないし、とても父様のおっしゃるようには思えません」

「上辺だけ見てるようでは、いつか足を掬われるぞ。お前らより強い者など、世にはいくらでもいると言うのに」


(うわー、この状況って……。主人公に舐めてかかり、真の実力を知って驚愕、改心して尊敬しちゃうという展開まんまじゃん)


「啓介殿、ひとつ儂と手合わせ願えんかの。こやつらにお主の実力を見せてやってくれんか?」


(ほらきた、やっぱそういう流れかよ!)


「嫌だよ、別に私の強さなんて関係ないし。竜人が強さを売りにしてるんなら、その力で村の役に立ってくれたらいいだけだ」

「ぬ? そこは普通、やれやれしょうがないな……とかなるところじゃろ?」

「そういうのは他に任せてるんでな。うちの戦闘班とでもやってくれ」

「そうか、いずれにせよ失礼した。どうかよろしく頼む」


 危うくバトル展開になるところを回避して、結界の中へと誘ったんだけど……。


「え?」「あら?」


 どういうわけか子ども2人は結界に阻まれ、自動追放されてしまった。念のため、追放位置をすぐ隣にしておいたので良かったものの……わけが分からず混乱する。


「なんでだ? さっきまで忠誠度はじゅうぶん足りてたはずだぞ?」

「啓介さん、たぶん先ほどのやり取りで下がってしまったのでは?」

「マジ? あんなことで下がるか普通……」

「この子たちにとっては、信用の大きな判断基準なんでしょうね……」

「すまんドラゴ、子どもたちは忠誠が足りないようだ。残念だが今すぐには村に入れんぞ」


 戦闘力の高さが信用の基準になるなんて夢にも思わず、適当にあしらったのが失敗だったらしい。思い通りに事が運ばず、正直ちょっとイライラしている。


「重ね重ね申し訳ない……」

「あたしからもお詫びを、ごめんなさいね」

「いや、別にいいけどさ。そんなことより、が信用の基準てのはちょっと困るぞ。ここで力を示しても、いずれ私のほうが弱くなれば信用が落ちるってことだろ?」

「いや、それはない。あくまで気概きがいの問題じゃての、さっきのは儂があおったのも悪かった」

「あ……なるほどね。竜人の矜持きょうじを踏みにじったことになるんだな。それは私も悪かったよ」


 この子たちが欲しているのは単純な強さじゃなく、戦いに対する意欲とかプライドみたいなものだったらしい。

 私自身、『徴収』で得たまがい物の力だからつい遠慮したんだけど、それが裏目にでたみたいだ。


「よしわかった。手合わせするよ、もちろん本気でやらせてもらう」

「おお、それはありがたい!」

「どうせなら、当の本人たちとやりたいんだがどうだ?」

「願ってもない、遠慮なく村長の力を示して欲しい」

「ふたりもそれでいいか?」

「「っ、ぜひに!」」


 ってことで結局はお決まりの模擬戦が始まる。こんなことなら最初から受けときゃ良かったなと思いながら、ふたりと順番に向き合う。


 ここでヘタに手を抜けば、余計にややこしいことになる。そう考えた私は、ドラゴの竜闘術をコピーして万全の状態で挑むことにした。ふたりとのレベル差は20もあるので、単純なフィジカルだけでも押されることはないだろう。




◇◇◇


「村長、すいませんでした! ぼく(わたし)が間違ってました。あなたの実力、しかとこの身で受けることができ、光栄です!」


 過程はわかりきってるから省略するけど、思う存分、ボコボコにしてやった。足腰立たないようにしてやると、案の定、ふたりして私を褒めたたえている。

 やれやれ系は嫌いなのに……。他人の力で粋がることは避けたかっただけに、気分は全然スッキリしない。


「いやもうわかったから……。何度も言うけど、この力は全部借り物だからな。逆に言えば、ふたりが強くなればなるほど、私も力がついて安全に生きられるんだ。だから精進して村のために尽力してくれ」

「「もちろんです村長!」」


 さっき竜闘術をコピーしたので忠誠度は鑑定してないけど、ふたりは無事に村に入ることができていた。こんなので大丈夫なのかと今後の不安は多少残るが、もう後のことは知らん、なるようになれだ。



「はぁ。なんかもうお腹いっぱいだぞ……」

「啓介さん、おつかれさま」


 椿のねぎらいが心に染みる。


「ドラゴ、何はともあれ今日から三人も村人だ。奥さんもふたりも、村のためにしっかりやってくれ」

「うむ、啓介殿の真価をみれて儂も大満足じゃ。今度は儂とも手合わせしてほしいもんじゃて」

「あ、だったらわたしも混ぜてよね」


(だめだこりゃ……この親にしてこの子在りだ。ここだけ見ると、ほんとに議長やってたのか疑ってしまうぞ)


「もうそれはいいから。それより、女神さまに挨拶はいいのか? 本来、最大の目的はそれのはずだろう」

「そうであった。なにせ、長い人生の中で初めて迎えたなのだ。ついつい欲が出てしまっての」

「まあわからんでもない。私も、議長時代の知識と経験は求めるが、議長としての責務を負わせるつもりは毛頭ない。自分の得意分野で貢献してくれたらいいよ」

「その言葉、ありがたく頂こう」


 重責から解放された反動もあるのだろう。しばらくすれば落ち着きそうだったので様子見を決め込んだ。



 少しだけ同情しながらドラゴたちと一緒に教会へと向かう。熱心な祈りを捧げたあとはステータス確認をして、竜人族の受け入れもようやく一段落ついた。

 三人とも、ちゃっかり職業を授かっていたのには笑ってしまったが、これもひとえに、日々の鍛錬と意志の強さの賜物たまものなんだろう。家族全員が『闘士』ってのも納得の結果だったので、さして驚きもなかった。



 戦力が大幅に強化されたのは間違いないんだが……、いろいろとにぎやかなことになる気配がプンプンする。上手く馴染んでくれれば、と思案しながらも、うちの戦闘班と合流したときのことを考えると、少し憂鬱な気持ちでいた。


 あっ、それはそうと――


 ドラゴの持つ竜闘術、その中にある『竜の翼』なんだけどね。「私も空を飛べちゃうのか?」と試したんだが……残念ながら、元々翼がないとダメみたいだった。




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ドラグニアス(ドラゴ) Lv52

村人:忠誠88

職業:竜闘士

スキル:竜闘術Lv2

竜の力:竜気を纏い全身を強化する

竜の血:竜気により回復を促進させる

竜の翼:翼による飛行が可能となる

竜の咆哮:竜気を放出して攻撃する

※スキルレベル上昇により各効果が向上


大地神の加護

・竜気の吸収速度が大幅に向上する

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ドラリアーナ(ドリー) Lv44

村人:忠誠77

職業:闘士

スキル:格闘術Lv4

無手での攻撃に絶大な上方補正がかかる

身体能力が大きく向上する

スキル:飛行Lv4

翼による飛行が可能となる


大地神の加護

・竜気の吸収速度が大幅に向上する

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ドラガルト(ドルト) Lv35

村人:忠誠78

職業:闘士

スキル:格闘術Lv3

無手での攻撃に大きな上方補正がかかる

身体能力が向上する

スキル:飛行Lv3

翼による飛行が可能となる


大地神の加護

・竜気の吸収速度が大幅に向上する

==============

ドラレスティア(ドレス) Lv37

村人:忠誠80

職業:闘士

スキル:格闘術Lv3

無手での攻撃に大きな上方補正がかかる

身体能力が向上する

スキル:飛行Lv3

翼による飛行が可能となる


大地神の加護

・竜気の吸収速度が大幅に向上する

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