第51話 未来のこと


異世界生活120日目


 異世界に飛ばされてから4か月、もうすっかりここでの生活にもずいぶん慣れてきた。以前のような『日々を生きるのに必死』と言う状況ではなくなっている。


 獣人たちとの共同生活、そしてダンジョンでの冒険。ほかのメンバーも異世界ファンタジーを満喫していた。


 メリー商会が村を出てから3週間近くが経つ。が、未だに何の連絡もない状態だった。議会との交渉が難航しているとかだろうけど、何か厄介ごとに巻き込まれている可能性もあるので、つい心配になってしまう。


(まあ、今は待つしかないか。ステータスを見ても村人は減ってないし、命に別状はないだろう)


 メリナードたちが上手くやってくれると期待して、こちらも日々、受け入れ準備を進めていく。



 村では二軒目の長屋が完成し、選定にあぶれた移民用の長屋もあと数日で完成しそうだ。結界の外では、いまも建築作業が進んでいる。ダンジョンのほうにも、10人ほどが寝泊まりできる長屋が完成、炊事も含めた一応の生活はできる環境になっていた。


 村人のレベル上げも順調に進んでいて、早い者ではレベルが20に達しており、今後も継続する予定。レベルは高ければ高いほどいい。


 当初は、結界に寄ってくるオークを私が倒していた。が、ラドたち戦士団が倒せるようになってからは、村人の選出も含めて丸投げした。私自身、それほど忙しいわけでもなかったが、ラドの方から申し出てくれたので好意に甘えておいた。


 ダンジョン攻略についても、無理をしないことを大前提とするが、攻略方針や進行速度についてはみんなに任せている。


 ダンジョン産の肉や魔物素材が手に入り、村では安定して食料が生産できる。住居に関してもそこそこの余裕がある。ベリトアや夏希の活躍により、生活に必要な器具や家具なんかもかなり充実してきた。何よりも結界の存在、これが村での生活に多大な安心感を与えている。


 と、そんなこんなで、ようやく村長っぽい立ち位置になってきたわけだ。暇な時間も増えてゆっくり考える余裕が――。


(そろそろ未来についてじっくり考えるべきだよなぁ)


 目先の目標ではなく、もっと先のことを思案するべき。そう思い、じっくりと考えを巡らせていく――。



 まずは何と言っても『日本に帰れるのか』問題だろう。異世界言語が理解でき、ゲームのようなシステムがある時点で、まず間違いなく何者かが介入しているはず。

 私も含めた転移者たちは、異世界転移の理由も目的も知らされてない。けど、人族領にいる勇者や聖者なんかは超常のナニカと接触している可能性だってある。


 いずれにせよ、わざわざ大規模な異世界召喚をしているんだ。おいそれと返してくれるとは考えないほうが良い。しかも転移場所は適当、すぐ魔物に殺された人もたくさんいたのだ。この世界に呼び出したヤツは絶対にロクなもんじゃない。


 それにぶっちゃけ、私自身は帰りたいと思っていない。これはたぶん、『村スキル』なんていう特別な力を得たからだと自分でもわかっている。

 過ぎた力におぼれ、自ら破滅の道を進まない限りは、日本にいた頃より楽しい人生を送れる。そう考えると、帰りたいなんて気持ちは沸いてこなかった。これに関しては頃合いを見て、村の日本人たちの考えも確認するつもりだ。



 次に考えるのは、『この世界との関わり方』について。


 現状わかっている範囲だと、この大陸に存在するのは人族と獣人族の2種族のみ。どうやら戦争が起こるっぽいけど、それをどうこうしようとも、できるとも思っていない。


 戦争行為自体についても、結局は勝ったほうが正義。どちらが善で、どちらが悪か、なんて考えても意味がないし、心底どうでもいい。

 とはいえ人族が獣人族を飲みこめば、ナナシ村にも危害を及ぼす可能性は極めて高い。獣人領が村の防壁になっている以上、ある程度の支援は必要だと考えている。


(まあこのへんはメリナードからの報告次第だな)



 そして最後に『敷地の拡張関連』のこと。拡張できる余裕があまりないので、スキルレベルが上がってくれる前提の話だが……。


 まずは南の海岸まで敷地を延ばして、塩や海産物の確保をしたい。これには、大陸の東と西を完全に分断する利点もある。村の拡張については、まだまだ空き地があるので後回しだ。

 それよりも北の山脈付近を拡張して、鉱山を発展させた方がいい。すぐ近くに川もあるし、生活するための条件は整っている。


 今までの傾向から察するに、次の能力解放時には、とてつもない面積を獲得できると思う。南の海岸や北の鉱山の拡張をしても、かなりの余裕があると期待しているところだった。


 

(あ、肝心なことが1つ残ってた……)


 生活基盤も整ってきた以上、『彼女たちとの関係』もハッキリさせないといけない。そう思い、意を決して彼女らのもとへ伝えにいくのだった。




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