第50話 魔物のリポップ


異世界生活109日目


 今日も朝からダンジョンへ向かっている。――とはいえ、私は周辺の整備を担当するので、冒険が始まるわけではない。


 それはさておき、昨日のダンジョン初探索では、ゴブリンや大猪、大蜘蛛を確認したようだ。2階層も同じ魔物だが、全体的にレベルが上がっていたらしい。それでも、今のところは罠なんかもなく、順調に進めているようだ。


 ちなみに、ダンジョン内で魔物を倒しても『徴収』スキルはちゃんと発動していた。外にいた私もレベルが1つ上がっている。


「今日は3階層の攻略からだったよな」

「はい、その予定ですよ」

「くれぐれも慎重に進んでくれ。時間はいくらでもあるんだ。焦る必要はない」

「了解です! マッピングしながらじっくり探索して来ますね」

「我らも1層と2層に別れて魔物狩りの予定だ。引き続き、魔物の出現頻度の検証もしてくるぞ」

「ああ、何か法則が見つかったら教えてくれ」


 そんな話をしながら目的地へと歩いていくと、広場外周の結界を殴っているオークたちの姿が見えた。自分たちの餌場であるダンジョンへの進入を妨害されて、さぞお怒りのご様子。

 

「ここに結界を張って正解だったな。魔物を集める罠として上手く機能してるようだし、これなら外でもレベル上げできそうだ」

「とりあえず魔法で倒しちゃいます?」

「んー、ちょっと待ってくれ。いい機会だし、2匹同時に相手できるか試してみたい。何かあればみんなもいるしな」

「じゃあ私たちは離れていますので、椿さんたちと一緒に行って下さい」

「よし、三人とも近くまで行くぞ」


 椿と夏希とルドルグの三人を引き連れてオークのいるほうへ向かう。こちらに気づいたオークたちの怒りも最高潮といった感じで、興奮しながら雄たけびをあげている。


「フゴォォォ!」「フガフガァ!」


「私が瀕死の状態までもっていくから、そのあと可能ならとどめを刺してくれ。無理にはしなくてもいいぞ」


 さすがにオーク相手はキツいかな、と思って声をかけたんだが、三人とも、顔を見るぶんにはやる気満々の表情を見せている。


 結界を挟んでオークと対峙した私は、剣術スキルをコピーして結界内から剣で切りつける。まずは右にいるオークの腕を狙って一閃、武器を持つ腕を切り飛ばした。ドサッと音を立ててオークの腕が落ちる。


「ッガアァァァ!!」


 切られた腕を押さえて叫んでいるオークを横目に、もう一匹の足を狙って剣を薙ぎ払った。剣術スキルと上昇した力により、さした抵抗もなくオークの足を切り飛ばす。


「ウガァァ……」

 

 返す刀で最初の一匹目の足も切り落とし、


 バランスを失い倒れているオークに追撃を与えていき、完全に身動きが取れない状態を確認、三人にとどめを刺させる。すると、二匹のオークが黒い霧を放ちながら霧散して、オーク肉と魔石を残し消えていった。


「啓介さんお見事です! これなら3匹でも対処できますよー」

「みんなにもらった経験値と、剣術スキルのおかげだよ」

「おっ、三人ともレベルが一気に3つも上がってるよー!」


 鑑定をしてくれた春香にそう言われて、椿たちも喜んでいた。



◇◇◇


 私の戦闘風景を見届けたあと、攻略組はすぐにダンジョンの中へと入っていった。

 

「さて、儂らも作業に取り掛かるぞ! まずは伐採と資材確保からだ」


 ルドルグの号令がかかり、それぞれの作業に取り掛かる。私と椿で木々の伐採と枝打ちをして、夏希が木材をどんどん加工していく。その資材を利用してルドルグが作業台を作っていた。


 この場所に作る予定の施設は、10人ほどが寝泊まりできる長屋とトイレ、それに調理場と水を貯めて置ける大きな桶だ。桜の水魔法がないと湯を沸かすのが大変なので、風呂はひとまず保留にした。


「長よ、ダンジョンで得た戦利品の保管場所はどうするんだ?」

「ああ、転送専用の保管倉庫を作りたいな。長屋の隣にでも頼むよ」

「よし、まずは倉庫からやってくからな。夏希の嬢ちゃんもそのつもりで頼むわ」

「ルド爺、任せて!」

「おう、何種類か用意してくれりゃあ、後はこっちで調整しとくわ」

「かしこまりっ!」


 この二人の連携も様になってきた。たいした打ち合わせがなくとも、お互いの意思疎通はバッチリみたいだ。

 


 それから作業は順調に進んでいき、昼前には倉庫が完成、現在はトイレを建設中だ。昼休憩の最中にオークが二匹現れたが、難なく仕留めて経験値も肉も美味しく頂いた。


「なんか腕力が上がったかも? 木を運ぶときの負担が全然ないよ!」

「儂もだ嬢ちゃん、木材の重さをほとんど感じんわ!」


 二人ともレベルアップの恩恵を感じているみたいだ。とくにルドルグなんかは、スキルの補正もあるから余計にそう思うだろう。


「啓介さんは、村人のレベルをどれくらい上げる構想なんですか?」

「ひとまずはレベル20くらいかなぁ。それだけあれば、村周辺の魔物は余裕で倒せると思うんだよね」

「村人全員が、オークと同程度のレベルになるってことですもんね」

「ああ、ある程度自衛できるようにしたい」


 それだけ上がれば魔物の脅威だけじゃなく、変なのに絡まれても逃げることはできる、と考えての指標だった。


 トイレや桶の設置が終わった頃、ダンジョンからみんなが帰還してきた。そのまま村へ帰りながら今日の進捗を報告しあう。


「みんな、怪我もないようだね」

「今日は4層まで下りましたよ。出てくる魔物も少し変化があります」

「ほぉ、どんな?」

「魔物のレベルも15前後と高くなってて、ゴブリンの名称が変化していました。ゴブリンファイターとかゴブリンアーチャーです」

「そりゃまた定番だな。見た目なんかも違うの?」

「ファイターは剣と革鎧を装備してましたよ。アーチャーは弓を使ってきます。あと……体格も少し大きくなっている気がしますね」


 残念ながら、剣や鎧はドロップしなかったようだが、まだ試行回数が少ないので結論を出すには早い、と桜たちは言っている。ほかにも、大猪や大蜘蛛も体躯が大きくレベルも高いみたいだ。その分素材の量も多いらしく、森で狩るよりもかなり効率的だと話していた。


「我らからも報告がある。魔物の再出現についてだ」


 ラドが言うには、魔物は小部屋でのみ生成されるらしく、通路を歩いていることはあっても、通路上で生成されることは無いみたいだ。


 生成されるときは黒いモヤが地面から出てきて、20秒ほどかけて形成される、と教えてくれた。一度倒してから次に出現するまでの時間はランダムで、早くて1時間くらい、その日に再出現しなかった部屋もあるみたいだ。



◇◇◇


異世界生活115日目


 ダンジョンを発見から1週間が経過した。今日も村に戻ったあと、夕食がてらに情報共有をしているところだった。


 5階層のボス部屋には、大きな鉈を持ち、革製の鎧を装備したホブゴブリン1体、取り巻きのゴブリンファイターやアーチャーが3匹ずつ待ち構えていた。とはいえ、レベル差や魔法による先制攻撃もできたため、とくに危なげなく倒せたそうだ。


 ボス部屋を一掃してしばらくすると、部屋の中央に黒い石柱が地面から出現する。その石柱を中心として魔法陣が展開したらしい。他のダンジョンよろしく、魔法陣の中に入って石柱に触れることで、1階層の転移陣に一瞬で移動できたそうだ。


 ちなみに、階層ボス討伐で宝箱が出現したとか、レアな素材がドロップした、なんてことは無く、いつもの腰蓑と魔石が落ちただけ。みんな期待していたので、この結果にはガッカリしていた。


 6階層に降りると、出現する魔物がガラっと入れ替り、オークのみが現れるようになる。現在は7階層を調査しながら攻略しているのだが、オークのレベルは25前後で、部屋によって3~6体の集団で遭遇する。

 ただ、オーク以外の魔物は見ておらず、オークファイターだとかメイジだとかの上位種もまだ出てこないみたいだ。


「ラドたちの方はどんなだった?」


 ラドたち兎人の戦士メンバーには、引き続き5階層までの狩りと調査を頼んでいた。


「今のところ、魔物が再出現する間隔に法則性はないようだ。同じ部屋でもその都度バラつきがある」

「湧く魔物の種類や数なんかも?」

「ああ、5階層までに出てくる魔物はゴブリン種と大猪、あとは大兎と大蜘蛛だ。その中から数体が選ばれて湧いている感じだな」

「5階層のボス部屋はどうなんだ?」

「何度か足を運んでいるが、石柱が出現してからは一度も湧いてないな」

「一度倒せば解放されてセーフゾーン的な扱いになってるんじゃないでしょうか」

「……まあ、転移した瞬間にボスが湧いていた。なんてことになったらヤバいわな。とにかく、念には念を入れてくれよ」

「そうですね。心構えだけはしておきます」


「なあ村長! そういえば今日は―――」


 そのあとも、ダンジョンでの健闘ぶりや村の開発状況なんかを話しながら、みんなで楽しい時間を過ごしていた。




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