第49話 新たな狩場


異世界生活108日目

 

 次の日、新たな狩場開拓に向けて朝早くから東の森へ向かった。既に拡張している道を、ゾロゾロと列を成して進んでいく。


 現状は約3kmまで敷地を延ばしている状態だが、これまでに遭遇した魔物はオークのみ、ほかの魔物は誰も見たことがないらしい。ラドが獣人の街で聞いた情報では、奥に行くとさらに強力な魔物もいるらしいので、油断は禁物だ。

 

「村長、このまま真っすぐ東に延ばすつもりなのか?」


 結界のつきあたりに到着したところで冬也が聞いてきた。


「ん、それでいいだろ?」

「わかりやすいしねー」

「我らは村長に任せるぞ」


 聞いてきた冬也も他のみんなと同様に、とくに意見はないようなのでこのまま延ばすことにした。そもそもが未開の地だし、どっちに進んでいいかなんてわからない。


「レベルの高い魔物が出てくれるといいですね」

「そんなこと言ってると、手も足もでない強いのが出るかも知れんぞ」

「それは困ります、気を引き締めないとですね!」


 桜がそんなことを言っていたが、冗談抜きにトンデモないのが居るかもしれない。結界を延ばしつつ慎重に進んでいく。


 ここまでの道中にもオークの群れと二度遭遇したのだが、みんなの戦いぶりは見事の一言だった。


 一度目は2匹のオークを発見したのだが、私が視認したときには、すでに冬也と春香が結界から飛び出しており、その勢いのまま剣を振るって首を刎ねた。躊躇など全くなく、2匹のオークは悲鳴をあげることすら許されずに、一瞬で絶命させられていた。


 二度目に現れた3匹のオークも、桜とロアが次々と魔法を放ち、全身ハチの巣状態だった。そこにラドたち戦士が一斉に襲い掛かり、確実にとどめを刺していた。全員、かなりの戦闘経験を積んでいるようで、それぞれの連携も含め、まさしく戦士と言える存在になっていた。


「みんないつの間にかずいぶんと強くなったんだな。油断のかけらもない見事な戦闘だったよ」

「そんなのしてたら死んじまうからな」

「油断と躊躇は命取りです」

「我らも過信は絶対にしない」


 全員、自分の強さに酔っている感覚もないようで安心した。それと同時に、私だけ取り残された気もして……ちょっぴり寂しかった。



◇◇◇


 それから2kmほど進んだところで、森の中にかなりひらけた場所を見つけた。


 学校の校庭くらいはあるだろうか。その空間は、地面が土でむき出しになっていて、中央には大きな岩山が鎮座していた。岩山の側面には空洞があり、地下へと下る階段のようなものもチラッ見える。


「村長よ、あれはダンジョンではないか? 街の近くにあるものと入口の風貌がよく似ている」


 ラドはそう言うが、ここにいるメンバーは誰もダンジョンを見たことがないため判断がつかないでいた。


「結界を延ばすのにも限度がある。まずはあの岩山まで固定しよう」

「これだけ広ければ、視界も確保しやすいですしね」

「ダンジョンだったら、なおさら好都合だよねー」


 皆の賛同も得て、結界を岩山まで延ばそうとしたときだった。3匹のオークが森の中から現れ、手慣れた感じで洞窟? の中へと侵入していく。


「おい、ダンジョンじゃなくてオークの住処なんじゃないか?」


 冬也がそう言って警戒を高める。斥候のレヴにスキルの『探索』を頼むが、外からだと洞窟内の状況はわからないそうだ。兎人の聴覚強化を以てしても、穴の中の音は拾えないらしく判断がつかない。


「あれがオークの住処にしてもダンジョンにしても、結界で囲ってしまったほうがいいと思います」


 安全確保のためにも桜の提案は正しいと思い、ここまでの道程と合わせて、岩山の周りを半径20mほどで囲う。


 ドーナツ状の結界の中に岩山が隔離されている、というのがわかりやすい表現だろうか。岩山が結界でグルッと囲われて、洞窟から魔物が出られない状態だ。


「これで魔物が出てきても結界で防げる。広場を拠点にして洞窟探索もできそうだ」

「なあなあ、このまま中を調べてみるのか?」


 冬也がワクワク顔でそう聞いてくるんだが、誰がどうみても調べる気満々のご様子だった。


「戦力的にはこれ以上ないメンバーが揃ってるしな。ここに待機する班と侵入する班に分かれて、少しだけ覗いてみようか」


 いきなりオークの大集団と遭遇することも十分考えられる。安全確保のため、鑑定役の春香と回復役の秋穂は絶対に外せないとして――。


 皆で話し合った結果、火力として冬也と桜とロア、火力兼鑑定の春香、回復の秋穂の五人で潜ることになった。まずはここが、オークの住処なのかダンジョンなのかを確認、危険があればすぐ戻るよう言った。


 私は当然のように留守番となったので、残りのメンバーと結界内で待機する。



◇◇◇


 五人が中に入ってから40分ほど経っただろうか。冬也たちがゆっくりと洞窟から出てきた。


「みんな、どうだった?」


 待機組の皆も真剣な顔で聞いている。


「さっきのオークが、中にいた大猪を狩ってた。んで、ドロップした肉を食ってた」

「ゴブリンや大兎もいたよ。レベルは外にいるヤツらよりも全体的に高めだったよ」


 話を詳しく聞くと、洞穴の中は割と広い空間になっており、岩肌がほんのり光っていてそこまで暗くないそうだ。小部屋と通路で構成されているらしく、最初の小部屋には魔法陣のようなものと、その中央に真っ黒な石柱が鎮座していたらしい。


 オークたちは、何部屋目かで大猪を狩っていたようで、ドロップした肉や魔石を食べていたそうだ。実に異世界ファンタジーしていて、逆に違和感を感じない、というのが正直な感想だった。


「村長、やはりここはダンジョンで間違いないぞ。黒い石柱と魔法陣、それは転移陣と言われるものだ」

「それってダンジョンの階層を一瞬で移動できる的な?」

「そうだ。どのダンジョンにも必ずそれがある。5階層ごとにいる階層主を倒すと解放される仕組みだ」


 ラドからダンジョンについての話を聞いて、転移者メンバーの興奮も最高潮だ。ラドの解説そっちのけで盛り上がっていた。


 この世界に転移して以来、魔法や魔物などのファンタジー要素は目にしてきた。そこに待望のダンジョン発見と来ればそれも納得である。

 異世界ものと言えばダンジョン、ダンジョンと言えばお宝だ。ゲームや物語ではないとわかっていても、心躍るのも仕方がない。


「今回の趣旨はレベル上げによる戦力強化だ。このダンジョンなら絶好の狩場になりそうだし、ほかの転移者や対人の心配がないのもいいな」

「調査は必要ですが、階層ごとに魔物の強さが変化するタイプならうってつけですね」

「ああ、戦力をバランスよく分散して攻略するのが良さそうだ」

「洞窟の広さ的には4~5人でパーティーを組むのが良いかなー。それ以上多いと身動きが取りづらくなるかも?」


 しばらくダンジョン考察が続き、日本人メンバーを攻略班にして、兎人の戦士を二班にわけることになった。ダンジョンの詳しい知識や野営の道具もないので、朝から挑戦して、最長でも夕暮れ前には村へ戻ることを徹底させた。


「村長はどうする? 深い階層に行かなきゃ大丈夫だと思うけど」

「すごく魅力的だけど……、暫くはダンジョン周りの整備でもしながら、周辺のオーク狩りをしようかなと思う」

「そっか、行きたいときはいつでも声かけてくれよ?」

「ああ、そのときは頼むよ」


 オーク狩りの目的は、村にいる非戦闘職をレベルアップさせることだ。ダンジョンがオークたちの餌場になっているのなら、勝手に集まってきそうだし好都合だ。村人が戦わなくても、近くにいればいいだけだから危険もない。


「ついでに伐採したり小屋を建てたりする感じですか?」

「転送用の倉庫と、休憩所にトイレ、簡単な調理場くらいは作っときたいかな」

「連れてくる人の職に合わせて、狩りながら整備していくのが良さそうですね」

 

 まだ昼前ということもあり、私以外の面子はこのままダンジョンを調査することになった。私はひとりで村に帰還し、ダンジョン発見の報告と整備計画についてを皆に話した。



 ダンジョン発見の報告もおわり、集会所でしばらく休憩していると、


「長よ、移民用の長屋が一軒完成したからあとで確認してくれ。問題なけりゃもう一軒建てるぞ」

「おお早いな、このあとすぐ見にいくよ」


 ルドルグに頼んでいた長屋が完成したようだ。一軒で20人は住めるはずなので、一時的な受け入れにはあと一軒もあれば十分だろう。


「おおー、内装も整ってるとはな。恐れ入ったよ」

「家具は夏希の嬢ちゃんお手製だ。相変わらず器用なもんだぞ」

「これならすぐにでも住めそうだな、この調子でもう1軒も頼むよ」

「おう! あとな、そろそろ川にある便所だけじゃ数も距離も都合が悪い。この辺にも建てるけどいいか?」

「そうだな。さすがに人数が増えれば、場所がどうのこうの言ってられないよな。わかった、任せるよ」


 敷地外の長屋用にも必要なので、居住区に数か所建ててもらうことにした。土に埋めれば自然と分解されるため、衛生面はそこまで気にしなくて良い。


「それじゃあ、明日から東の森に来る人材を手配しといてくれよ」

「ああ、大工道具と武器を持って行きゃあいいんだな? ったく、儂らがオークを狩る日が来るとはなぁ!」



 その日の夕方、ダンジョン攻略組が全員揃って村へ帰還した。


 今日は地下2階層まで潜り、3階層への下り階段を発見したところで戻ったみたいだ。兎人たちは、1階層で狩りながら魔物のリポップを検証していたらしい。


 初めてのダンジョン探索で疲労もあるかと思いきや、皆の顔は満足げで楽しそうに武勇伝を語っていた。


 充実はしているが、毎日繰り返しの作業をしているところに、このダンジョンの出現は良い刺激になっているようだった。




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