第48話 異世界生活100日目


異世界生活100日目


 朝一番、メリナードたちが街へと戻っていった。もちろん、空間収納には大量の芋と米を持たせている。


 メリナードの予想では、議会との交渉や他の商会との調整をするのに、最低でも20日程度はかかるようだ。もし途中で何かの不都合があれば、商会から伝令が来るようになっている。こっちは気長に待つだけだ。


 一方、村ではその間、住居の建築と交易路の開拓を重点的に進めることになっていた。西の居住区画に20人程度が寝泊まりできる長屋を2棟建て、それが終わり次第、一軒家を順次建てていく予定である。これに関しては、村の道路整備も含めてルドルグとロアを中心に任せている。



 と、そんな私も、交易路の伐採班に交じって、地中に残った切り株の根をせっせと除去していた。今日の伐採班は、春香と戦士の兎人二名、そしてまだ職業に就いていない兎人の計六名編成だ。


 春香が力に任せて木々を切り倒し、兎人二人が枝打ちすると、あとに残った切り株まわりを土魔法で陥没させる。そのあと、戦士二人が根を切って森へと放り投げていく。


「村長、これはただの疑問なんですが」

「ん、どうした?」

「村長のスキルで敷地を拡張しちゃえば、交易路なんてアッと言う間にできません?」


 一緒に除根作業をしていた戦士職のひとりが、何の気なしにそんなことを聞いてきた。


「まあ、そうなんだけどさ……」

「何かあるんですか?」

「なかなか次の敷地拡張が解放されないんだよ。たぶん、次のスキルアップで可能になると思うんだけどね」

「あー、スキルの解放条件ってやつですか」

「そうなんだよ。集落までの道が開通すればさ、ひょっとして能力が解放されないかな……とね」

「まあ、道が通れば集落との往来も楽になるし、無駄にはならんですよ」

「わかっちゃいるけどさ、ついつい淡い期待を抱いちゃうんだよなー」


 次の敷地拡張が解放されれば、今までの傾向からしても相当な広さになりそうだった。そうなれば、街までの交易路と、南の海までの道を拡張したいと思っている。


 とくに南への拡張が成れば、大森林の東西を結界によって完全に分断することになる。東の森からの脅威や街方面からの干渉も防げるし、海で魚介類や塩の調達も可能となり、良いこと尽くめなのだ。


「集落まで開通したら交易路はひとまず保留かな。メリー商会から連絡が来るまではみんなのレベル上げに専念したいと思う」

「おおぉ、東のオーク狩りですね! 我らも参加したいです!」

「ああ、ナナシ村の戦士団には期待してる」



 

◇◇◇


異世界生活107日目

-メリナードが村をでて7日後-


 今日、集落までの道がついに開通した。伐採を開始してから、実に55日かけての大工事となった。


 非常に残念ながら、スキル上昇のアナウンスは聞こえてこなかった。それでも、やり遂げた達成感はみんな感じていたのでヨシとしよう。


 ただ、私のスキルは上昇しなかったものの、兎人の夫婦に『木こり』の職業と『伐採』のスキルが発現したのは朗報だった。今後の伐採作業は、この二人をメインに任せられるので、あとは夫婦で仲良くやってくれれば良いなと思う。



「春香、戦略ゲーム的には、今後どういう展開が好ましいと思う?」

「ん-どうだろ……街や首都を攻略するつもりは無いんだよね?」

「ないない、領土防衛に重点を置いて考えてみてくれ」


 今は、元集落で春香と休息がてらに雑談しているところだった。

 

「まずやるべきなのは、獣人領への食糧支援ですかね。戦争になっても、戦力は人族に劣るみたいだし、獣人たちは防衛するしかないでしょ」

「長期戦になると食糧問題がネックだもんな」

「ですです。支援しながら、じわじわ押される程度に調整できれば、困窮者や難民を村に引き込めるチャンスかも?」

「たしかに、そこは期待したいね。追い込まれた者なら忠誠度も上がり易そうだしな」


 春香の言うとおり、「獣人領を盾にして人族からの干渉を防ぐ」というのが今の村にとっては理想的だった。人道的にソレってどうなの? という気持ちもあるけど、村が蹂躙されて全滅なんてことだけは避けたい。


「あ、忠誠度と言えばさー。移住者とか難民とか、数値がギリギリ足りなくて村に入れない、なんて人が出てくると思うんだよねー」

「今までも数人いたな。とはいえ基準を下げる気はないぞ?」

「そこはいいのよ。ただそういう人の中にも、村の様子を見るうちに忠誠度が上がる、って人もかなりいると思う」


 村の安全性を理解すれば、たしかに忠誠度は上がると思う。だけど、村の外で何日も生活させるのはどうなんだろう。


「まあ言いたいことはわかるけど、何か妙案でもあるのか?」

「例えばさ、村に隣接した敷地外に、宿泊所みたいなのがあればいいんじゃないかな? そこにしばらく住まわすの」

「でもそれって色々と危険じゃないか?」

「敷地外で村人にすれば、わたしの鑑定で忠誠度は確認できるし、殺意がある人や勝手に入ってくる人は、自動追放で罠に落とせばいいでしょ」

「なるほど、来訪者の人数確認を徹底すれば事故も起きないか」

「そのへんはわたしに任せてよー。というより、わたし以外の適任者はいないっしょ!」

「そりゃ違いない。じゃあルドルグに宿泊所のことを伝えとくよ」


 村に帰りながら移住計画の詳細を詰めていき、途中に出くわした大兎の肉を手みやげにして村へと帰還した。


 村に戻ったあとは、みんなで夕ごはんを食べながら交易路開通の報告会となった。兎人族にとっては、自分たちの集落を完全に取り戻した形になるため、その喜びもひとしおだ。


「聞いてくれ、交易路の開拓もみんなの協力でひと段落ついた」


 村全体から盛大な拍手と歓声があがる。


「メリー商会から連絡が来るまでまだ2週間ほどある。明日からは戦闘班を中心にレベルアップ期間にしようと思う」

「おお」

「やるぞー!」

「でも啓介さん、そうなると少し狩場が足りないかと」


 桜が言うには、結界をもう少し奥地まで延長して欲しいそうだ。


「ん-そうか……そうだね、少し延ばそう」


 拡張できる敷地が減るので少し迷ったが、レベルが低いせいで村人が死んでは本末転倒だ。狩場を増やし、村人全体の強化を優先することに決め、延長距離や班編成などの具体策を話し合った。


 桜たちも、オークが相手だとレベルの上りも鈍くなりつつあるみたいで、結界を延ばして新たな狩場を開拓したい、と言っていた。


 集落奪還作戦もようやく幕を下ろし、新たに村人強化作戦の開幕となった――。


 

107日目現在のステータス

================

啓介 Lv26

職業:村長 ナナシ村 ☆☆☆

ユニークスキル 村Lv7(36/500)

『村長権限』『範囲指定』『追放指定』

『能力模倣』『閲覧』『徴収』

『物資転送』


村ボーナス

☆ 豊かな土壌

☆☆ 万能な倉庫

☆☆☆ 女神信仰

================

桜 Lv30

村人:忠誠98

職業:魔法使い

スキル 水魔法Lv4

念じることでMPを消費して威力の高い攻撃する。飲用可。形状操作可。温度調整可

================

椿 Lv15

村人:忠誠98

職業:農民

スキル 農耕Lv4

土地を容易に耕すことができる

農作物の成長速度を早める

農作物の収穫量が増加する

農作物の品質が向上する

================

冬也 Lv30

村人:忠誠95

職業:剣士

スキル:剣術Lv4

剣の扱いに大きく上方補正がかかる

剣で攻撃する際の威力が大きく上昇する

================

夏希 Lv14

村人:忠誠92

職業:細工師

スキル 細工Lv4

細工や加工に上方補正がかかる

対象:木材、繊維、石材、金属

================

ロア Lv24

村人:忠誠88

職業:魔法使い

スキル 土魔法Lv4

念じることでMPを消費して攻撃をする

形状操作可能。性質変化可能

================

春香 Lv28

村人:忠誠95

職業:鑑定士

スキル:鑑定Lv4

生物や物に対して鑑定ができる

※鑑定条件:対象を目視

自身に対する鑑定を阻害できる

================

秋穂 Lv28

村人:忠誠89

職業:治癒士

スキル:治癒魔法Lv4

対象を目視することで、MPを消費して傷や状態異常、病気を治癒する

================

ラド Lv19

村人:忠誠96

職業:戦士

スキル:身体強化Lv2

身体能力を強化する

※常時発動

================

ルドルグ Lv14

村人:忠誠90

職業:建築士

スキル:建築Lv2

建築物の強度と品質に大幅な上方補正

建築作業時に限り、身体能力が上昇する

================

ベリトア Lv10

村人:忠誠84

職業:鍛冶師

スキル:鍛冶Lv3

武具や道具の加工速度と品質が向上する

対象:革、金属、魔物素材

================




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る