第47話 商人の情報網
昼食後、メリマスたちが村に来るのを待つ間に、メリナードに発現した『空間収納』のスキルを試していた。
スキルLv1で収納できたのは物置き小屋サイズだったが、それでも本人はとても喜んでいた。なんでも、空間収納のスキル保持者は、獣人領全体で3人しかいなかったそうだ。
現在は日本人の登場により保有者の数が増えたが、それでも商人にとっては夢のようなスキルだと語っていた。
それからたっぷり2時間は待っただろうか、ようやくメリマスやラドたちが村へと戻って来た。
「村長、いま帰ったぞ」
「みんなおかえり。取引の方は大丈夫だったかな」
「ああ、製錬の魔道具も入手できたから転送してくれ」
「おお、ついに手に入ったか!」
メリナードがあらかじめ手配してくれてたようだ。芋の売却益も目標額に達しており、魔道具の他にも塩や砂糖、果物類なども集落から倉庫へ転送しておいた。
転送が完了して交易品の確認をしていると、メリマスたちが騒ぎたてながら戻ってくる。私が倉庫の確認をしているうちに、教会に行くよう言っておいたのだが……。
「村長さん、私たちも女神さまの祝福を頂きました!」
メリマスも隣にいる護衛のウルークも、感極まった感じで喜びを表現していた。商会の四人が祝福を受けたことからも、村での滞在期間は、能力を授かる条件とは関係ないみたいだ。
メリマスは職業『商人』と『交渉術Lv1』を授かる。交渉ごとが有利にはたらく、というフワッとした効果だったが、本人はそんなこと関係なしに喜んでいる。メリナードと同じ職業だが、授かるスキルも全て同じというわけではなさそうだ。
狼人族の護衛ウルークは、『剣士』と『剣術Lv1』を授かり、もうひとりの護衛ウルガンと抱き合っている。よく似ている顔だなと思っていたら、実は双子の兄弟だったらしい。二人の興奮が収まったところで、今後の計画を話し合うために集会所へと向かった。
「先に聞いとくけど、四人とも村人のままでいいよね? 支障があるなら解除もできるけど」
「とんでもありません。女神さまの祝福も受けられましたし、店のことが無ければすぐにでも村に移り住みたいくらいです」
「それは困るぞ。街との交易はまだしばらく続けたい」
お互い笑顔でそう語り、気もほぐれたようなので本題にはいった。
「まず通貨の確保については芋や米、麦を売れば問題ないと考えている」
「そうですね、倉庫の在庫や収穫のサイクルからしても、潤沢な資金が調達できます」
「人材確保もそうだが、問題となるのは連合議会や街の商会への対応に尽きると思うんだが……」
「ええ、相手の介入があるまで穏便に動くか、初手から議会に話を持ち込むか。どちらを選択するかを早急に決めましょう」
「メリナードはどちらが賢い選択だと思う? どのみち、向こうの介入を避けられないのは理解しているつもりだ」
議会や街のことについてはサッパリわからない。こういうときは地元商人の意見を尊重するのが一番だ。
「どんな方法であれ、かなり早い段階で干渉があります。であれば、最初にこちらの要望を含めて話を通したほうが良いかと」
「仮に話し合いをしたとして、交渉が決裂した場合は?」
「そうですね、交渉が決裂すれば街は食糧難を解決できません。強行手段に出たとしても、この村を攻略することは不可能です」
「村を占領できないにしても、街との取引は妨害されそうだな。そうなると少し困るが……」
村は大丈夫だとしても、取引ができないのは困る。少なくとも、もうしばらくは継続したいところだった。
「議会が余程の欲を出さない限り、交渉は通ると思います。最悪の場合、メリー商会の全てを持参して村に移住しますよ」
「ほぉ。わかってると思うが、村人になれない者は受入れないぞ?」
「もちろん承知しております。この村にはそれ以上の価値と未来がありますので問題ありませんよ」
「わかった。議会や商会連中との引き合いは任せていいか?」
「お任せ下さい。では、具体的な方針や要望を纏めていきましょう。まずは――」
その後もメリナードと話し合いを続け、以下のような条件を定めて動くことになった。
1.食糧品の売買や金品の受渡しは、全てメリー商会を通すこと
2.議会及び他の商会がこれを反故にした場合は、今後一切の食糧販売を取りやめること
3.街からの移住者募集、奴隷の購入を認めてもらうのを条件に、定期的な食糧品の販売を約束すること
随分とシンプルに纏めたが、相手の意向もあるのだし、最低限譲れない条件を決めるに留め、今後の交渉を進めていくことにした。
「ところで、メリー商会は奴隷の売買もやっているのかな?」
「直接はしておりませんが、信用できる奴隷商会がおりますので、そこで手配する予定ですよ」
「くれぐれも、犯罪奴隷とか日本人奴隷はナシで頼むよ。村人になれる見込みがなきゃ意味ないからな」
「奴隷に限らず、日本人の移住は議会が認めないでしょう。そもそもが人族と戦うための戦力として受け入れてますしね」
「構わないよ、それより戦争が近いってのは信憑性のある情報なのか?」
以前、人族領からの食糧輸入が減ったと聞いたが、もう何十年も大きな戦争はしていないとも聞いていた。
「時期までは分かりませんが、可能性としては高いです。人族領には日本人の転移者がとても多いようでしてね。冒険者はもちろんのこと、軍に加入する者もいて、随分と厚遇されているようです」
「なるほどね。他に何か情報はあるかな」
「あとは……そうですね。人族領には『勇者』や『聖女』などの特別なスキルを持つ日本人が存在するらしいです」
やはりいたか、という印象だった。多分そいつらがこの世界における主役なんだろう。
(厄介な使命を授かってなきゃいいが……。勇者の性格次第では、こっちにも飛び火はありそうだな)
議会との交渉や人族のことを聞いたあとも、街の様子を中心に様々なことを教えてもらった。やはり商人だけあって幅広く情報を集めており、今まで不明だった街の状況もだいたい把握することができた。
話しが一段落した頃には夕暮れが近くなったので、夕食を交えながら他のメンバーとも情報を共有する。そんな折にベリトアから、鉱山採掘までの繋ぎとして、金属のインゴットを多めに確保したいと提案がある。
「戦争となれば、食糧と金属は値上がりしますからね。さっそく私の空間収納がお役に立てそうで嬉しいですよ」
「啓介さん、私からもいいですか?」
椿も何か提案があるようだ。頷いて続きを促す。
「そろそろパン作りに着手できそうです。乳製品やタマゴの確保が可能ならお願いします」
「おー、それは良いね。メリナード、その辺りも頼めるかな」
「はい、では次回お持ちしましょう。さすがに牛は連れてこれませんが、鶏は何羽か連れてきます」
「ありがたい、よろしく頼むよ」
そのほかにも、果樹の種や苗があればとお願いした。数種類は村に植えて育てているが、どうせなら色々な種類を食べてみたい。
「みんなもそろそろ、嗜好品とか生活を豊かにする物なんかを提案してくれよ。なにより私が贅沢したいんだから、遠慮はナシだぞ」
商会とも容易に取引できるようになり、村も安定期に入りつつある。もっと快適生活が送れるように発展させていきたい。
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