第45話 ごめん、もう1回言って?
異世界生活89日目
次の日の朝、集落に結界を張るため、調査隊を編成して出発した。
調査メンバーは私とラドの他に、護衛役の桜と冬也、回復役の秋穂、村との伝達要員として斥候職の2人が同行している。
集落までの道も、開拓を開始してから40日ほどが経過し、既に7割以上が完成している。次の交易までには集落まで開通しそうな勢いだった。
「これだけ整備されてると楽に歩けるな。開通すれば集落まで半日かからないんじゃないか?」
「少し早めに歩く程度でも、既に半日かかっておらんぞ。開通すればさらに早まるだろうな」
集落に向かう途中、一度だけ3匹のゴブリンを探知したが、冬也と桜が一瞬で仕留めて処理した。東の森での経験で相当強くなっており、もはやこのレベルの魔物は相手にもならない。
集落に近づいてきたので、斥候職に先行させて様子を見させたが、辺りに人の気配もないそうなのでそのまま進んだ。
「ここが我らが住んでいた集落だ。しばらく放置していたから草臥れているがな」
集落に到着して辺りを見渡すと、広さは転移直後の村くらいだろうか。竪穴式住居が何軒か見え、畑だった場所は雑草が生い茂っていた。
「結界を出てこんな遠くまで来たのは初めてだ。異世界の雰囲気に触れられて感動してるよ」
「街に行ければもっと感じるだろうな。さあ、早速始めるんだろう? 私はいつでも構わんぞ」
ラドにうながされたので、集落周りの土壁ごと囲う感じで拡張のイメージをする。いつものように結界がググッと拡がり点滅している。以前と違うのは、その色が薄緑色なことだけだ。
「じゃあ固定してみる。建造物ごと敷地化するのは初めてだ。どうなるかわからんから一応離れていろよ」
皆が下がったのを確認してから、集落ごと固定するように念じた。
「「おおー」」
点滅がピタッと収まり、無事に建物を残したまま結界が張られた。
「成功したようだ。建造物丸ごと村の敷地にできることが証明されたね」
「あとは、人が住んでいる場合や他人の土地でも可能なのか、ってところですかね」
「そうだね。そのあたりは追い追いな」
今はまだ難しいが、そのうち街に行ける日が……来るといいな。
「じゃあ次に、『物資転送』の位置を決めたい。ラド、住居を1軒利用していいか?」
「構わんよ。好きなところを使ってくれ」
「なら一番大きな家にするよ。物資の保管が目的だからな」
村では既に、『万能倉庫』を転送位置として設定済み。さっそくこの場所に転送できるかを試してみることにする。最初はどうやって転送するのか不明だったのだが、何度か試しているうちになんとなく感覚が掴めてきた。
転送元をイメージすると、その場所の映像が頭の中に浮かんでくる。その中から転送対象と分量をイメージ、最後に転送先を指定して念じると、その瞬間に物資が転送されるみたいだ。
ゴロゴロッ……ゴトッ
今回は、芋を籠1杯分転送してみたのだが、ほぼイメージ通りの量が住居の土床に転がった。魔法陣のような演出があるわけでも無く、唐突に床の上へ現れる感じだった。
「おお、これは便利だな」
「ちょっと地味ですけど、機能としては申し分ないですね」
◇◇◇
集落の結界化と転送の確認も無事におわり、みんな揃って村へ帰る途中のことだった。
「村長、実はひとつ報告があるんだが……」
いつもと違い、少し煮え切らない感じのラドがそう言った。
「ん、どうした?」
「実はな……村にいる独身の者を娶ろうと思っていてな」
「え? なんだって?」
「種を残すのは我らにとって重要なことなのだ! まあ……私欲も少なからずある事は認める」
「ふーん、なら仕方ないな」
「そうかっ!」
他種族のルールだから口は出さんが……非常に羨ましい。普段は真面目なラドも、根はスケベなおっさんなのだと親近感も湧いていた。
「みんなー、いま戻ったぞー」
「ただいま帰りましたー」
村に戻ってからは、今日の出来事をみんなに報告をしていた。
と、そんな中、ラドは緊張した面持ちでロアと話をしている。村長である私の許可もとりつけたので、娘のロアにも事情を説明しているんだろう。隣には、お相手だろう兎人の女性が同席していた。そういうのは見えない場所でやってくれ……と思ったが、兎人の聴覚があればどこにいても一緒だよな、と気づいて考えるのをやめた。
その日の夜、ロアの許しも出て正式に夫婦となった、とラドが報告しに来た。今夜から一緒に住むらしく、ロアは女性と入れ替えで住居を移るようだ。せいぜい励んで、村の人口増加に貢献してくれれば良いと思う。
◇◇◇
異世界生活96日目
集落を村化してから1週間が経過。交易路の開拓も順調に進み、魔物狩りについても、ラドたち戦士職を優先してレベルアップさせていた。
商会との取引を2日後に控えた今日は、待望だった水車小屋の完成を迎えている。自信満々のルドルグに案内され各所を見て回る。
「遂に完成したんだな。やっぱり実物を見ると感動するよ」
「どうだ、なかなか見事なもんだろ?」
そこには、小屋とは思えない立派な建物が鎮座し、川では2基の水車が景気よくグルグルと回っている。小屋の中を確認すると、水車からの動力が杵や石臼へと伝わるような歯車構造になっていた。
「試運転は済ませてある。椿の嬢ちゃんにも太鼓判をもらってるからな、いつでも稼働できる状態だぞ」
「そうか、これで籾摺りや精米作業が格段に早くなるよ。良くやってくれたな、みんなもありがとう」
ルドルグはこのあと、椿たちを呼んで使い方のレクチャーをするそうだ。私も興味はあるが、邪魔してもなんだと思い自宅に戻ることに。
「ちょっと相談があるんですけど、いいですかね?」
と、途中で夏希が声をかけてくる。切羽詰まった感じでは無い。が、いったいどんな相談なのだろうか。
「どうした、冬也と何かあったのか」
「いや、そっちは順調ですよ。あ、でも折角だし報告しとこうかな」
二人の間に何かあったわけではないらしく、上手くやってるみたいだが……何かの報告はあるみたいだ。
「実はですね。近々、秋ちゃんも一緒に暮らすことになりましてね」
「え? ごめん、もう1回言って?」
「私と秋ちゃん、冬也の三人で同居することになりました」
「……」
嘘……だろ……。冬也の野郎、そんな素振り全然見せてなかったのに、何勝手にハーレム作っちゃってるの? あまりの驚きに一瞬言葉を失ったが、格好つけて冷静さを装おう。
「そうか、三人で話し合って決めたなら好きにしていいぞ。村に不和だけは起こさんようにな」
「うん、そこらへんは秋ちゃんとバッチリ決めてあるから大丈夫っ! そんなことよりも相談の方なんだけどね」
(こんな重要案件がそんなこと、だと……)
「あ、ああ、何だっけか」
「村での生活を豊かにするためにさ、家具とかベッドなんかを私に任せてくれないかなって」
「お、それはいい案だな」
「建築用の木材加工は、細工師になった人に任せて、私はしばらく自由に作らせて欲しいな、って相談です」
村には家具やベッドなんてほとんどない。夏希のスキルを考えればとても良い提案だと思った。
「よしわかった。ルドルグと一緒に引継ぎをしてくれ。あと、作業場はどうするんだ?」
「ベリトアさんの鍛冶場を借りるつもり。もう許可はとってあるよ。金具なんかも頼みたいしね」
「そうか、本格始動したら加工場を新設するから、そこもルドルグと調整してくれればいいぞ」
「うん、ありがと村長!」
自発的に行動してくれて助かる。夏希の貢献度は非常に高いし、今回も上手いことやってくれそうで楽しみだった。
「ちなみにさ、秋穂の件ってどれくらい前から動いてたの?」
「えっとね、最初に秋ちゃんが村に来たときかな。あの頃から、こうなるように誘導してたんだよ」
「なるほど……」
「お互い気も合うし、この収まり方が村にも私にも一番いいんだよね」
「仲良くやってくれればそれで良い」
夏希には、私の家にある家具類を自由に調べて良いと言っておいた。どこまで参考になるかわからんが、少しでもいいものを作ってもらいたいものだ。
にしても冬也のヤツ、これでもかと言うぐらい問い詰めてやりたい。
が、それをやると自分が惨めになるのは目に見えている。村の主人公は冬也なんだと諦めて、とぼとぼと自分の作業に戻り1日を過ごした。
はー……マジか。
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