第44話 商会との交易


異世界生活87日目


 当初の予定どおりなら、今日の昼頃には集落での取引が行われているはず。


 商会が街まで食糧を運び出すのに、2日はかかると事前に聞いている。そうなると、ラド達が戻るのは早くとも明日の夕方になるだろう。斥候職の二人には、集落の様子を見てくるよう指示してあるので、今日の夕方には戻ってくる手筈だ。



 現在は昼過ぎ、今日は朝から麦の収穫をしている。交易路の伐採班も収穫のほうへ回して、大勢で次々と刈取っていた。


「椿、調子はどう?」

「順調ですよ。みんな稲刈りを経験してますから手慣れたものです」

「そっか、農民職も増えたしね。引き続き頼むよ」

「はい、お任せください」


 そのまま収穫を手伝って2時間ほど経った頃だろうか。斥候のひとりが村へ戻って来た。


「村長、ただいま戻りました」

「お疲れさま、取引はどうだった?」

「はい、順調に終わりました。芋も予定より高く売れたようで、製錬の魔道具にも次回で手が届くと聞いています」

「それは良かった。相手側に不穏な動きとかは?」

「我らが見る限りではないですね。とても友好的に感じました」

「わかった。他に何かあるか?」


 次回の取引日程と、取引時に相手の商会長が来訪する旨を伝えるよう、ラドから言いつけられたそうだ。


「次回は、今日から数えて10日後にしよう。取引量は今回と同量を、商会長の件も了承したと伝えてくれ」

「はい、では明日の夜明けに村を出て集落へ戻ります」

「ああ、よろしく頼んだぞ」


 それにしても商会長直々の来訪とは、取引相手として余程重要視している証拠だ。私欲を出さず、商売と割り切ってくれそうなら、村まで招くのもアリだと考えている。




◇◇◇


異世界生活88日目



 取引も2日目となり、日暮れ前にはラドたちが戻って来た。交易路の整備も進み、身体能力強化も相まって悠々と帰還してきた。そして、ラドたち全員が村の敷地に入った瞬間、実に45日ぶりとなるアナウンスが聞こえてきた。



『ユニークスキルの解放条件<他領との交易>を達成しました』


『能力が解放されました』



 以前から街と交易していたはずだが、なぜ今になって解放されたのかを疑問に思った。向こうが集落まで来たからなのか、交易路がある程度伸びたからなのか、いろいろ考えたが結局わからなかった。

 ――解放条件はさておき、スキルLvがまだ上がることに安堵し、ひとまず自分を鑑定してみることにした。


=================

啓介 Lv18

職業:村長 ナナシ村 ☆☆☆

ユニークスキル 村Lv7(32/500)<NEW>

『村長権限』『範囲指定』『追放指定』

『能力模倣』『閲覧』『徴収』

『物資転送』<NEW>

村の敷地内限定で、事前に設定した位置間での物資転送が可能となる。

※生物転送不可


村ボーナス

☆ 豊かな土壌

☆☆ 万能な倉庫

☆☆☆ 女神信仰

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 物資転送とは……これまた便利な能力が来てくれたもんだ。考察もしたいところだが、ラドたちがもう目の前まで来たので後回しにする。


「村長、滞りなく取引は完了したぞ。相手も大層満足した様子で帰っていった」


 商会が気を利かせたのか、塩や香辛料を街から運んでくれたそうで、背に見える籠にたんまりと持ち帰っていた。


「それは良かった。――それはそうと、次回の取引が早すぎることは、相手も当然わかってるよな?」

「ああ、集落に来た商会長の代理も、敢えて触れぬといった雰囲気を出していたぞ」

「会長からの指示だろうな。他に何か探られた印象は受けたか?」

「とくにはないが――運搬役も護衛の冒険者も、全員獣人で構成されていた。こちらに日本人の影を見て配慮したのだろう」

「なるほど、向こうなりの誠意ってところだね」


 どこまで事情を察しているかは不明だが、日本人を仕向けて来ないあたり相応の配慮が見えていた。


「それこそ次回、最大限の誠意として会長直々に来るのだろうな」

「ああ、次は私が商会長と会ってみるつもりだ。村で会うか、集落で会うかはちょっと試してみたいことがある」

「結界の外だと危――なるほど、集落を村の敷地にするつもりか」

「交易路の中継地だしな。ラドが構わないなら試したいと思ってる」

「我らは既に村の一員なのだ、今さら集落に未練もないさ」

「そう思ってくれて嬉しいよ。明日の朝にでも集落へ行くつもりで頼む」

「ああ、了承した」

 

 集落を村のように結界で囲めれば、安全確保はもちろんのこと、新しく覚えた『物資転送』で楽に食糧や交易品の運搬が行えるはずだ。他のメンバーからも賛同を得られたので明日さっそく試みることになった。


「なあ村長、そういうことなら交易路作りは中断か?」

「いや、むしろその逆だな。集落から街まで繋げても良いと思ってる」

「もう村の存在がバレても大丈夫ってことか?」

「商会との交渉次第だけどな」


 そこで何か思いついたように桜が、


「目的は村の人口増加ですかね?」

「そのとおりだ。せめて、鉱山で採掘できる程度には人を増やしたい」

「啓介さんは、どのくらいまで村を発展させる予定なんですか?」

「ひとまずは、快適な毎日を送れる程度に、かな。後は私が死んだときに結界がどうなるか次第だね」

「やはりその時は結界や村の効果も消えてしまうでしょうか」


 今まではそう思っていたが、結界が『大地神の加護』に変化したことが妙に引っかかっていた。


「教会を建てたとき、結界の色と名称が変化したろ? 大地神の加護にね。これって、なんとなく死んでも消えない気がするんだよね」

「何か根拠でも?」

「んー、根拠はない。ただ、村スキルの効果だったのが、土地そのものが受けた加護に変化したんじゃ? と思っただけだよ」

「そうですか、スキル保持者にしかわからない感覚かもですね」

「まあとにかく、私は死なないように注意して行動するよ。その先は余裕ができてからじっくり考えよう」


 私自身も先のことなんてわからない。今はただ思いつくままにやるだけだった。



 そのあと、ラドが商会から仕入れた情報を教えてくれた。


 ここ1か月ほど、人族領から入って来る食糧の輸送量が減り、その影響で食品の価格がじわじわ値上がりしているらしい。人族領の商人曰く、日本人なる転移者の出現が影響しているらしい。


「なるほどー、これはそのうち戦争でも起きる流れだねー」

「日本人のスキルを上手く利用して、みたいなあるある展開ですね」

「日本人集団が戦争をくわだてる、ってのもあるわよねー」


 春香と秋穂がそんなことを口走っていたが、たしかにどちらのパターンもありそうな話だと思った。


「そうなったら実に面倒臭い。巻き込まれる前に、少しでも早く村の充実を図ろう」





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