第37話 それぞれの思惑
四人で村に戻ると、村のみんなが昼食の準備をしているところだった。
さっそく春香と秋穂の二人を紹介して、能力のことや北の状況についてを話し合う。新たな村人の登場に、村全体が歓迎ムードで終始賑やかに進行していく。
――と、二人の住居をどうするかの話題になったとき、夏希が唐突に、兎人用の竪穴式住居に移りたいと言い出した。
「啓介さん、わたしと冬也で住んでもいいですかね? ちょうど1軒空いてますし、ね、冬也」
「え? オレそんなの聞いてないぞ?」
「そりゃそうでしょ、いま初めて言ったんだし。冬也もいいよね?」
「ええ!? ま、まあいいけど……」
「建ててるときから住んでみたいと思ってたんですよー。で、村長どうでしょう?」
「別に二人がそうしたいのなら構わんよ。だが、お互い責任が伴うことは忘れるなよ」
「はい、ありがございます!」
(こっちでも戦いが始まったようだ。まあ好きにすりゃいいさ)
「なら、空いた部屋に春香と秋穂が入れるな。二人もそれでいいか?」
「はい」「わかりました!」
そんなやり取りがありつつ昼休憩も終わり、各自が作業へと戻っていく中、日本の女性陣全員が私の自宅へと消えていった――。
ひとりその場に残った私は、しばらくもの思いにふけっていた。
今、家の中では苛烈な戦いが繰り広げられているはずだ。男児が決して踏み入いってはならない禁断の領域……。
私は自分を、鈍感でも無自覚でもないと思っている。夏希と秋穂は別問題だろうが、椿と桜と春香に関しては、私の取り扱いについて話していると思う。
先ほど北の山脈から村に戻るまでの間、椿は自己紹介のとき以外、ただの一言も声を発していなかった。途中、春香と趣味の話で盛り上がったときは、やっちまったと反省もした。
三人とも、私に対する明確な恋愛感情はないし、もちろん私にもない。でもそのかわり、好意と依存は大いにある、という感じなんだと思う。
ただ、恋愛感情はなくとも、先に見つけたものを他人に盗られて良い気はしない。俺だって、もしあいつらを他人に盗られたら、かなりのショックを受けるだろうことは自覚している。
以前から、環境が整うまではなんて言っていたが、秋穂の登場によりその問題もほぼなくなった。たぶんそのうち、この話題について直接話し合うときがくるはずだ。
――そのときがきたら、自分の思いを正直に話そうと思っている。
◇◇◇
自分の気持ちに一区切りをつけ、村を見て回ろうとしたとき、冬也から伐採の誘いを受けた。とくに村で指示することもないので、了承して一緒に森へ向かった。
道幅4mほどを目安にして、邪魔な木を切り倒していく。その後方では、ロアと数名の兎人が切り株の掘り起こしをしていた。
開始して1時間くらいは、無言のままひたすらに伐採していった。レベルアップにより上昇した腕力のおかげで、サクサクと作業が進んでいくと、「そろそろ休憩しよう」となったので、切り株に腰を下ろして休んでいた。
「なあ村長、昼間の夏希どう思う?」
「どう思うって、何がだよ」
「なんで急に……い、一緒に住むなんて言いだしたのかなって」
「べつに急ではないだろ。秋穂が来たあのタイミングだからこそだ」
「やっぱ、そういうことなんかな……」
「知らんけどな。でもまあ都合のいいことに、この世界では15歳で成人らしいぞ」
「……そっか、ありがと。あとは夏希とふたりで考えるわ」
「家に帰ったらお助けアイテムをやるよ。あと、村と俺に被害を出したら追い出すからな」
「わかった。真剣に考える」
大した助言もないお悩み相談がおわり、そのあとはお互い、黙々と作業に取り掛かっていく。
伐採速度が異常に早く、倒した木が増えてすぐ邪魔になる。途中からは丸太の運搬と切り株の処理に移った。ここでもレベルアップの恩恵は凄まじく、冬也も私も、丸太を両脇に抱えて歩いても全然平気だった。
夕方、川で水浴びをしてから村に戻る。女性陣はいつもと変わらない雰囲気で食事の準備をしていた。
「おかえり啓介さん、もうすぐ出来上がるから座って待ってて下さいね。今日からついに、お米が解禁ですよっ!」
椿の話し方が少し柔らかく感じた。
「おおー、ついにこのときが来たのか。楽しみにしてるよ!」
「オレも楽しみ! なあ村長、腹いっぱい食ってもいいよな? な?」
「ああ、好きなだけ食え!」
その様子を見ていた桜たちも、いつもの楽し気な様子だ。お互いの主張と妥協に、上手く折り合いがついたことを祈るしかない。そして何でもいいから、派閥だけは作らないで欲しい……と、心から願った。
◇◇◇
異世界生活57日目
兎人族の十人と、日本人ふたりが村人になって数日が経過した。ここ最近は、これと言った問題もなく順調に各作業が進んでいる。そして今は、スキル所有者のステータスを確認中だった。
「春香と秋穂も加入したし、改めて全員の能力確認をしたいと思う。お互い気づいたことがあれば、そのつど意見を頼むよ」
「誰からいきますか?」
「ん、誰からでもいいけど――そうだな、若い順で見ていこうか」
異論もないようなので夏希から確認する。
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夏希 Lv7
村人:忠誠86
職業:細工師
スキル 細工Lv4<NEW>
細工や加工に上方補正がかかる
対象:木材、繊維、石材、金属<NEW>
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夏希はレベルが7まで上がった。細工スキルもLv4となり、金属も加工できるようになっている。
「金属なんですけどねー。これを生かす場が無いのが残念です」
「せめてインゴットが無いとダメだな。原石は対象にならんだろうし」
「今やってるのは鍋や包丁の修理くらいですかねー。木材の加工はさらに上達してるので、しばらくはそっちで貢献しますよ」
「もう既に達人級だろ、十分だよ」
建材加工については、すでに機械並みだ。ちょっと大げさだが、カッターナイフで紙を切るように木が加工できる。そんな領域に達していた。
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冬也 Lv15
村人:忠誠91
職業:剣士
スキル:剣術Lv3<NEW>
剣の扱いに大きく上方補正がかかる<NEW>
剣で攻撃する際の威力が上昇する
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冬也はレベルが15になり、剣術スキルもLv3に上昇。剣の扱いに大きく補正がかかるようになった。剣速が明らかに早くなり、剣筋のブレも無くなったと教えてくれた。
「結構戦ってるつもりなんだけど、いまいちスキルアップが遅い気がすんだよなぁ」
スキルレベルの上昇速度に不満、というか疑念があるようだ。
「そういえば、今使ってるのってゴブリンが落とした小剣だよな?」
「それしか無いからなー。できれば1本でいいからマトモなのが欲しい」
「わかった。今度の交易で剣と防具を優先して購入するよ」
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秋穂 Lv10
村人:忠誠83
職業:治癒士
スキル:治癒魔法Lv3
対象に接触することでMPを消費して傷や状態異常、病気を治癒する
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秋穂はレベルが1つ上昇して10になった。スキルはそのままだが、忠誠は少し上がっている。
「秋穂は、病気とか状態異常を治癒したことってあるのか?」
「ゴブリンに噛まれて熱が出たときは、病気扱いでした。その治療はできましたが、状態異常はまだ経験してないです」
「部位欠損なんかも――無いよね?」
「完全に失ったことはないです。ちぎれた肉を元に戻した経験くらいならあります」
「ゴブリンに噛み千切られたってヤツか……。秋穂は、血とかグロとかに抵抗はないのか?」
「もちろん最初はありましたけど、生き抜くために割り切りました」
「頼もしい、と簡単に言っていいかわからんけど、これからよろしく頼むよ」
「はい、全力で取り組みます」
普段の言葉数は少ないけど、こういう受け答えはしっかりしている。
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ロア Lv12
村人:忠誠78
スキル 土魔法Lv4<NEW>
魔力を捧げて土属性の攻撃をする<NEW>
形状操作可能。性質変化可能
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ロアはレベルが12に、忠誠が78に上がっている。土魔法も先日Lv4に上がった。建築の基礎や伐根作業でフル稼働していたからね。納得の成果である。
「スキルLvが4になって、詳細が変化しました。以前の土を出すから攻撃するになってます」
「なにか変化はあったの?」
「少ない魔力で魔法を使えるようになりました。あと、土を石に変質させる時間も大幅に短縮されてます」
「お、それは良いね。将来的には石壁なんかも作れるようになって欲しいな」
「はい! 今はまだ難しいですが、必ずできるようになります!」
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桜 Lv13
村人:忠誠97
職業:魔法使い
スキル 水魔法Lv4<NEW>
念じることでMPを消費して威力の高い攻撃する。飲用可。形状操作可。温度調整可
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桜はレベルが13に上昇して水魔法がLv4に上がっている。温度調整に関しては、氷を作ったり、蒸発するほどの高温にはできないらしい。
「スキルの詳細にもありますけど、威力の高い攻撃に変化しました」
「どれくらい上がったんだ?」
「魔法の威力が段違いでしたよ! 森の木や魔物なんかだと、ほぼ確実に貫通できます。――まあその分、消費も激しいですけどね」
「かなりの出力だね。水を出せる総量なんかは把握してるのか?」
「もちろんです、と言いたいところですが、計測できないのでザックリとになりますよ?」
構わない、と頷いて返す。
「学校にある25mプールで3杯分出しても、まだ余裕がある感じです。温度変化や形状操作をすると、その分少なくなりますね」
「なるほど、今ルドルグに大きめの浴槽を頼んでいる。近いうちには伸び伸びと浸かれるようになりそうだぞ」
「あー、新しいお風呂については、遅くとも明日には完成予定です。これは衛生面でも最優先事項ですからね」
「その通りです」「だよねー」
明らかに数人の私情が入ってるが、そこはスルーを決め込んだ。のだが、能力確認そっちのけで風呂談議に入ってしまった……。こうなるとしばらくは終わらない。
「なあ、もう昼も近いしさ……続きはまた昼食後にでもしようかね?」
そう言い放ち、そそくさと退散する。
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