第38話 村の最重要施設

 

 食事の間も、女性陣のお風呂談義は終わらない。今もルドルグを包囲して、楽しそうに話しているところだ。


 一見すると完全なハーレム状態、なのだが……ルドルグの顔はゲッソリしていて全然羨ましく思えなかった。


おさ、何とかしてくれ……」


 ボソッと呟きこちらを見てくるが、気づかない振りをしてやり過ごす。


(ごめんルドルグ、俺には無理だ……)


 昼食が終わると、ルドルグは浴場の方へ連行されていった。先に居間で待っていると、すぐにみんなが戻って来たので確認を再開する。むろん、「風呂はどうなった?」なんてことは絶対に聞かない。


 話しが変なほうへ行かないうちに、さっさと能力確認を進める。


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椿 Lv7

村人:忠誠96

職業:農民

スキル 農耕Lv4<NEW>

土地を容易に耕すことができる。

農作物の成長速度を早める。

農作物の収穫量が増加する。

農作物の品質が向上する。<NEW>

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 椿はレベル7になり、農耕スキルも上昇している。新たに、農作物の品質向上能力が増えていた。


「椿、品質向上の効果って目に見えて違うものなんかな?」

「すでに収穫した物には変化がないですね。でも、育成途中の物は味や食感が良くなっていると思います」

「私にはあまり違いがわからんな……」

「食事で出しているのは、倉庫に保管してある収穫済みのものですからね。今日の夕飯に獲れたてを出してみます」

「お、そういうことか。夕飯が楽しみだよ」


 忠誠度に関しては、90を超えてから気にする素振りは無くなった。常に自信を持って行動しているように見える。


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春香 Lv15

村人:忠誠91

職業:鑑定士

スキル:鑑定Lv4

生物や物に対して鑑定ができる

※鑑定条件:対象を目視

自身に対する鑑定を阻害できる

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 春香はレベルと忠誠度が1つ上がった。スキルは変化なし。


「春香の鑑定って、魔物に対しても有効なんだよな?」

「ええもちろん! 魔物の名称、レベル、スキルが確認できますよ」

「ゴブリンとか大蜘蛛とかって、どれくらいのレベルなんだ?」

「ゴブリンはLv1~6、ジャイアントスパイダーは4~10程度かな」

「大蜘蛛はそんな名称なのか。じゃあ、大猪はジャイアントボアか?」

「ですですっ!」


 異世界翻訳が手を抜いているのか、ほかの魔物も安易なネーミングだった。まあ、わかり易いに越したことはない。


「魔物のスキルはどんなのがある?」

「糸操作や突進、跳躍とかですねー。ゴブリンは『スキル:―』です」

「なるほどね、他に何かあるかな?」

「ほかにですか……。あ、そうそう、北の岩山なんですけどね」

「うん」

「鉄鉱石が採れますよ。鑑定では石灰岩や銀鉱石も確認してます」

「あ、そういえばあのとき確認してなかったわ……。じゃあさ、金とかミスリルとか――アダマンタイトとかは?」

「わたしもそれを期待したんだけど、見える範囲にはなかったねー。掘り進めればひょっとして? かな?」

「いや、貴重な情報だよ。いつかは活用できそうだ、ありがとう」


 最後に自分のステータスを見る。

 

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啓介 Lv12

職業:村長 ナナシ村 ☆☆

ユニークスキル 村Lv6(31/200)

『村長権限』

村への侵入・居住と追放の許可権限を持つ。※村人を対象に、忠誠度の値を任意で設定し自動で侵入・追放可能

『範囲指定』

村の規模拡大時に、拡大する土地の範囲と方向を指定できる

『追放指定』

追放の位置を設定できる。回数制限なし

※地上のみ

『能力模倣』

村人の所持するスキルを1つだけ模倣して使用できる。1日1回のみ変更可能 ※効果半減

『閲覧』

異世界人のステータスが閲覧できる

『徴収』

村人が得た経験値の一部を徴収できる。0%-90%の範囲で設定可能


村ボーナス

☆ 豊かな土壌

村内の土壌品質に上方補正がかかる。作物が病気、連作障害にかからない。

※解放条件:初めての収穫

☆☆ 万能な倉庫

村内に倉庫を設置できる。サイズは村人口により調整可能(品質劣化なし)

※解放条件:初めての建築と備蓄

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 ズラズラっと能力が映し出される。


 最近は徴収率も10%で固定しているので、レベルも1つ上がっただけ。ほかの部分にも変化はない。春香は鑑定で見ているだろうが、初めて詳細を見た秋穂は大層驚いていた。珍しく自分から話しかけてくる。


「すごい量の能力ですね。これはまだ増えていくのでしょうか」

「どうだろう。なんとなくそろそろ頭打ちな気もしてるよ」

「それには何か理由があるんですか?」

「今、村人口の上限が200人だろ? さすがに、これ以上増えたら村ってレベルじゃ無くなるよなー、とね」


 これは私の勝手な想像だから、人数に関する根拠があるわけではない。


「ユニークスキルが昇格する可能性もあるのでは? 街とか領とかに」

「あー、それはあるかも知れんね。まああったとしても、解放条件とか昇格条件がわからんけどな」

「村の人口が増えたり、街のように発展すれば良いのかも知れませんね」

「だね、ここからはじっくり腰を据えてやっていきたいと思ってる」

「はい、私もしっかり働いて貢献します」


 秋穂に頷いてから全員を見まわす。

 

「ステータスについては以上だ。次に、次回の交易について話したいと思う。何か欲しい物や、村に必要だと思うものを挙げていって欲しい」


 皆が思い思いに話し合っている。わいのわいのと騒ぐ者や、ひとりで黙々と考えてる者も数名いたが、しばらくするとポツポツ意見が出てきたのでそれを纏めていく。


<装備類>

 鉄製の剣と槍 革の防具 革の靴

<道具類>

 斧 鉈 つるはし 大工道具 ハサミ

<生活用品>

 石鹸 調理器具 灯りの魔道具

<その他>

 塩 作物の種 茶葉 下着 


 みんな遠慮してるのだろう、嗜好品の類を提案しなかった。改めて、個人で欲しい物なんかを聞いてみるが、口を揃えて「今はまだその段階じゃない」と拒否されてしまった。


「みんなの気持ちは良くわかった。だけど、もっと要求しても大丈夫だからな?」

「啓介さん、命が第一ですから。平穏ないまのうちに、軌道に乗せることを優先しましょう」


 椿のひと言に全員が納得顔で頷いていた。



◇◇◇


 ステータス確認を含め、長い長い村会議もお開きとなった。


 全員で浴場に向かうと、そこではルドルグと数人が忙しそうに作業を進めていた。私に気づいたルドルグが手招きをするので近づくと、コソッとつぶやく。


「おい長よ、先に風呂場を完成させんとダメだ。このままじゃ他に手が付けられんぞ……」

「わかってる。ほかは後回しでいいから、ここを最優先で頼むよ」

「嬢ちゃんらを見てみろ。……今日はお主も逃げられんぞ」


 周りを見ると、会議に出た全員が既に手伝いをはじめていた。冬也も夏希にアレコレと指示をだされ、材木を必死に運んでいる。


「ある意味ここが村の最重要施設だ……。苦労掛けるがよろしく頼む」


 当然、私も手伝うハメになった。



 みんなの献身的――かはさておき、協力があったおかげで、同時に10人は浸かれそうな大型風呂が完成。木のつなぎ目には、漏水防止のために以前購入した樹液もしっかり塗り込んである。


 大きな浴槽の前に仁王立ちした桜が、大量のお湯をドバドバと注ぎ込んでいくと、みるみるうちに湯が張られていった。すると、「キャー!」だの「ワァ!」だのと大歓声が上がる。あの秋穂ですら声を荒げていた。

 私は収拾がつかなくなる前に、「今日は女性専用風呂にする!」と宣言して、男性陣を連れて川へ水浴びに向かう。


 戻って来たあと、夕飯をせっせと準備する男性陣の顔も、まんざらではない様子だった。みんな、チラチラと風呂場の方に視線をやってはいたが――。


 のぞき見する勇者は、誰ひとりとして現れなかった。







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