第25話 初めての現地人


 西の森から現れた3人の現地人。


 たしかに、桜たちから聞いていた通り獣人のようだ。パッと見ただけでは、私たちとほとんど変わらない。――が、頭から長いが生えているので間違いないだろう。


 お互い、しばらく無言のままで向き合っていると、やがて3人のなかで一番貫禄のありそうな人物が声をかけてきた。


「突然の訪問、申し訳ない。私は兎人族の集落で長をしているラドと言う。あなた方に敵意はないので、どうか話を聞いてくれないだろうか」


(ふぅ、とりあえず会話はできそうだ)


 言語理解のスキルを付与された覚えはないが、私にも桜にもちゃんと聞こえている。意思疎通が可能なんだとわかってひとまず安心した。


「もちろんです。私はこの村の村長で啓介と言います。私たちも敵対する気はないので、どうぞ遠慮なく話して下さい」

「ありがとう。我々は今、15人でここに来ている。集落の全員でだ」


 報告にあった人数とも合致している。

 

「お願いだ。我々を数日、この村に滞在させて貰えないだろうか」


 そう言って、族長のラドと連れ立った2人が頭を下げる。


「滞在ということは、そのあと、どこかへ向われる予定が?」

「いや、行く宛てはないが怪我をしている者が数名いる。その治療をするのと、休息をお願いしたい」

「……もし良ければ、詳しい経緯を教えてもらえませんか?」

「ああもちろんだとも、実は――」


 族長のラドと言う人物はここまでに至る経緯を詳しく話してくれた。


 今からひと月前。日本人と名乗る者たちが、集落にちらほらと現れ始める。助けて欲しいと懇願され、やむなくその者たちを受け入れた。最初のうちは協力的だったが、日本人の数が増えるにつれて徐々に不満を漏らすようになった。


 最終的に13名の日本人が集まったが、それらをまかなう食糧の確保も難しくなっていき、彼らの不満はさらに増していった。中には集落の女性に乱暴をはたらく者もいて、出て行くように言ったのだが……。全く聞き入れずに居座っていた。


 そして3日前の夜、日本人たちが動きを見せる。集落の強奪をくわだてていたのだ。


 苦渋の決断の末、次の日の夜明け前、全員で村を捨てて逃げた。だが運悪く、ここまでの道中でゴブリンの集団に襲われ、数名が怪我を負ってしまう。

 そのときは、持っていた食糧を囮にしてなんとか逃げだしたが……けが人や子どももいる。「どこかで休息を」というところで、この村の存在を知って接触した――。



「なるほど、その日本人がしたことは許せませんね」

「最初は対抗しようかと考えた。だが、我々の力は弱い。敗退して仲間が凌辱されるくらいならいっそ……と、集落を捨てたのだ」


 たしかに、子どもを庇って戦うのは至難の業だろう。いずれにせよ、私たちも日本人だということは感づいてる。ここには、それを承知で来たわけだ――。


「そうですか……。もう見た目でわかっていると思いますが、私たちも日本人です。襲ったヤツらと同じに思ってほしくはないですがね」

「それは承知している。……実は少し前から、あなた方の会話を盗み聞いていたのだ。申し訳ない」

「と、言いますと?」

「我ら兎人族は聴覚に優れているのでな、ここよりもっと離れたところで、あなた方の会話を聞いていたのだ」


 なるほど、よほど優れた耳を持っているようだ。襲撃の計画もそのおかげで判明したわけか……。


「警戒するのは当たり前のことですから、気にしないで下さい。それより、こちらの方面に向かって来たのは何故か聞いても?」

「ああ、この先に川があるのは知っていたのでな。まずは水場まで行こうと考えたんだ」

「なるほど、良くわかりました」


 話の内容に変なところはないし、日本人絡みの話も嘘とは思えない。それに集落を奪われたという経緯もある。真摯に手厚く保護すれば、村に入れる可能性は高い。


「では本題に入りますが、私たちは貴方たちを受け入れます」

「っ! そうか、本当に助かる。どうかよろしく頼む」

「ただですね、受入れるためには村人にならないといけないんです」

「村人?」


 疑問符を浮かべるラド族長に向けて、村人になる理由とその条件、村のルールやスキルについての説明をした。


「――なるほど、先ほど桜さんと話されていたのはこの事だったのか。いや、そういうことならありがたく村人にしてほしい」

「なら、ほかの方も呼んで下さい。怪我人もいるなら早いほうがいい」


 ラド族長が頷くと、付き添いの1人が森の奥へと走っていった。



◇◇◇


 それからしばらくして、森の中から集団が姿を見せる。


 ほかの兎人たちを待っている間に、族長ともう一人には居住を許可して村人にしている。二人とも問題なく結界の中にはいれたので、残りの人たちも大丈夫なんじゃないかと期待しているところだ。


 聞いていた怪我もそこまで酷いものではなく、長時間歩くのに支障がでるかな、という程度だった。族長が結界の外に出て、仲間に経緯を説明すると――、兎人たちは安堵の表情を見せていた。


「ラドさん、ここがどれだけ安全なのかを確認してもらうために、この結界を武器で思い切り攻撃してみてください。あ、ラドさんは既に村人なので無理ですけどね」


 最初はみんな戸惑っていたが、族長の指示に従って恐るおそる結界を攻撃し始める。


「凄いぞこれ」

「ビクともしないぞ!?」

「魔物も入って来れないらしいわ」


 これで少しは信用が増したはずだが、もうひと押しするために言葉を投げかける。


「皆さん、先ほどラドさんから聞いたと思いますが、私たちも日本人です。ですが、この村で暴行や凌辱行為をする者は、即座に追放するという絶対のルールがあります。頑丈な結界もありますので、どうぞ安心して村人になって下さい」


 残りの人たち全員に対し、村人になる意思を確認する。居住の許可を出すや否や、ゾロゾロと村に入ってきた。


「良かった、全員村人になれたね」

「村長、滞在許可に感謝する。滞在中は可能な限り協力を惜しまない」

「歓迎するよ。まずは怪我人の治療と食事にしよう」



『ユニークスキルの解放条件<異世界人との共存>を達成しました』


『能力が解放されました』



 ラドたちを受け入れたところで突然アナウンスが聞こえる。兎人族の滞在で解放条件を満たしたようだが、能力の確認は後回しにして村への招待を優先した。

 

 ラドたちには広場で休憩してもらい、その間に桜たちが食事の準備を始める。私もラドと少し話をしてから準備を手伝いに行った。


「兎人族の方たち、苦手な食べ物はありましたか?」

「とくにはないそうだ。何でも食べられると言ってたよ」

「では芋を主食にして、あとは肉と野菜で良さそうですね」


 兎人だけに、肉類は食べないかと思いきや――。全然そんなことはなかった。大兎の肉も普通に食べるし、好き嫌いも全くないらしい。


「ああ、それと兎人族は耳がとても良いそうだ。村のなか程度なら、全て聞こえるらしいぞ」

「おお、そりゃすごい能力だな!」

「だったらどんどん聞いてもらって、ここが良い所だって知って欲しいねー」


 彼らに食事を振舞うと、みんな喜んで食べていた。とくに、じゃがいもとサツマイモに関しては大好評だった。さっきまで疲れ果てていたのが嘘のように、もの凄い勢いでほお張っていた。


 ちなみに、楽しい食事のあとは屋根のある浴場で寝てもらったよ。兎人族には申し訳ないが、家がないのでこればっかりはどうしようもない。




◇◇◇


異世界生活31日目


 翌日の朝、ラドたち兎人族と一緒に朝食をとり、私たちは日課のステータスチェックをしていた。


 桜と冬也がレベル7、残り三人はレベル4まで上昇している。探索に出ていた二人はレベルの上がりが早い。待機組も罠で魔物を倒しているが……追いつきそうにはなかった。

 スキルに関しては、冬也の剣術がLv2に、夏希の細工がLv3に上昇していた。そして私も村スキルがLv5に上昇、新たな能力を得ていた。


================  

冬也 Lv7

村人:忠誠78

職業:剣士

スキル:剣術Lv2

剣の扱いに上昇補正がかかる

剣で攻撃する際の威力が上昇する<NEW>

================

夏希 Lv4

村人:忠誠76

職業:細工師

スキル:細工Lv3

細工や加工に上方補正がかかる

対象:木材、繊維、石材<NEW>

================

桜 Lv7

村人:忠誠95

職業:魔法使い

スキル:水魔法Lv3

念じることでMPを消費して攻撃する。

飲用可能。形状操作可能。温度調整可能。

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椿 Lv4

村人:忠誠91

職業:農民

スキル 農耕Lv3

土地を容易に耕すことができる。

農作物の成長速度を早める。

農作物の収穫量が増加する。

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啓介 Lv4

職業:村長 ナナシ村 ☆☆

ユニークスキル:村Lv5(19/100)<NEW>

『村長権限』『範囲指定』『追放指定』

『能力模倣』

『閲覧』<NEW>

異世界人のステータスが閲覧できる


村ボーナス

☆  豊かな土壌

☆☆ 万能な倉庫

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