第23話 露天風呂?
異世界生活24日目
ひさしぶりの風呂を堪能した翌日、私と夏希は、屋根付き作業場の改造をしていた。朝からせっせと木材を加工して、周囲から見えないように目隠し板を設置しているのだ。
新たな村ボーナス『万能倉庫』を設置したことにより、食料保管用として建てた作業場が無駄になってしまった。その話がでたときに、「じゃあ露天浴場にしちゃいましょう」と、桜から提案があったのだ。
昨日は浴槽のお湯を何度か入替えながら入ったのだが、排水管が繋がっているはずもない。お湯の排水は桜の水魔法操作に頼るしかなかった。
水の操作自体は問題ないのだが、風呂場の小窓からお湯を外に出し、さらにそこから森のほうまで浮かべながら運ぶ……。さすがに、毎日これでは手間がかかり過ぎる。
そこで、「作業場なら屋外だし森も目の前なので丁度いい」と、女性陣の総意で風呂場の移設が決まった。
「ふー、大体こんなもんですかねっ」
「いいんじゃないか? 浴槽はこじんまりしてるくせに、空間だけは無駄に広いけどな」
木組みで浴槽を作る技術があるはずもなく、家に取り付けてあったものを半ば強引に外して運んできている。
「露天風呂みたいでいいと思います!」
「そんなもんか? まあ満足してるんなら良かったよ」
夏希と一緒に作業場改め浴場の片付けをしていると、万能倉庫の整理をしていた椿が戻って来た。
「完成したんですね。素晴らしいです」
「ああ、そっちはどうかな」
「はい、こちらも倉庫への移動が全て終わりました」
椿には、収穫した芋や野菜の移動をお願いしていた。途中、テキパキと運んでいるのを何度か見かけていたが、随分な量があったので大変だっただろう。椿本人は、「お風呂のためなら何の苦もありません」と言い放っていたが……。
「ご苦労さま、桜と冬也もそろそろ帰ってくる頃だと思うからさ、昼の用意をして待とうか」
昨日、長い長い入浴タイムの合間に桜と冬也から提案があった。 レベルアップと狩りを兼ね、結界外の探索を申し出てきたのだ。転移者や現地人との遭遇、魔物の脅威や未知の環境など、死に繋がる危険があることも十分承知している上での提案だった。
私自身もいつか外に出なければと考えていたので、食料生産の目途が立ったこのタイミングは悪くないと思った。なにより私たちの中で、探索するのに最適な人材が桜と冬也なのも明白な事実。
結局、人と遭遇したときはすぐ逃げること、昼までに戻ることを条件に許可を出すことに――。そして昼頃、桜と冬也が森の探索から戻って来た。見た感じは怪我もなさそうだし、元気いっぱいな感じなので安心する。
「村長、帰ったぞー」
「ただいま帰りましたー」
「おかえりー」
「おかえりなさい」
「おかえり、昼の用意はしてあるよ」
揃って昼食を食べながら、二人に今日の成果を聞いてみる。
「今日は村の北側を探索しました。戦果はゴブリン4匹と大兎が1匹、大猪が2匹です」
「動物も何種類かいるのを確認したぞ」
「そいつらが魔物じゃない根拠は?」
「気づかれてすぐ逃げられた。仕留めてみないとわからんけど、たぶん魔物じゃないと思う」
「逆に襲ってきたのは全て魔物でしたね。これが今日の戦利品です!」
ドンッとテーブルの上に置かれたのは、小さな魔石が数個に肉の塊が数キロ、他にも大小の牙や猪の皮、少し錆びたナイフも1本あった。
「ゴブリンの腰蓑は捨ててきました。異様に臭いので」
「それでいい、戦利品はあとで倉庫に保管しといてくれるか?」
「桜さん、俺がやっときますよ」
「しかし半日にしては、案外たくさんの魔物と遭遇したんだな」
「そうですね。ゴブリンは2匹ペアが2回、他の魔物は単独でした」
「戦力的には問題なかったのか?」
「余裕をもって対処できるレベルですね。もちろん油断はしてませんよ。あ、あともう1つ報告が……、転移者がいたと思しき痕跡がありました」
頷いて続きを促す。
「人数は4~5人でしょうか。衣服はズタズタに喰い破られていたので回収してませんが、明らかに元の世界の物です」
「そうか、大概もう死んでるだろうけど、生き残りもいると思って明日からも頼むよ」
「わかりました」
「任せてくれ」
(やはり相当数の転移者が来ているな。うまいこと村人にできるといいんだが……そう簡単には行かないか)
「明日は南側の探索をしてくるよ。オレたちがいた拠点と……放置したアイツらも見てくる」
「ああ、よろしく頼む」
◇◇◇
異世界生活29日目
探索を開始してから7日が経ち、段々と周辺の状況や生態などが判明してきた。今日も探索を終えてからみんなで集まり、桜が纏めてくれたメモを確認している。
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◇生息している生物◇
シカ イノシシ サル ヘビ 川魚
カエル 鳥類 昆虫類
◇周辺の魔物◇
ゴブリン 大兎 大猪 狼 大ガエル
大蜘蛛 オーク
◇魔物が落とすもの◇
共通:魔石(小豆サイズからビー玉サイズ)
肉(200g~2kg)
棍棒 ナイフ 小鉈 腰蓑 牙 爪 皮
毛皮 糸
◇周辺の地形◇(周辺8km圏内)
北 川が上流に続き、絶壁の山が見えた
南 川は蛇行せず真っすぐ、川幅も同じ
西 森以外に特徴なし
東 川向こうにオークを確認
※東はオークがいた為1kmで探索打切り
◇転移者や現地人◇
<集落>
発見できず
<日本人の痕跡>
北で3か所 南で4か所
東はなし 西で2か所
※いずれも転移者と推測
※遺体発見なし 生存者なし
<収集物>
衣類 靴類 カバン類 腕時計 スマホ
ライター 鍵 ペットボトル 包丁など
=============
「ほとんどは昨日までの報告通りだね」
「ですね、今日探索を始めた東の様子が更新されたくらいですかね」
「オークの特徴について教えてくれるか?」
ファンタジーと言えば定番のオーク、それがいったいどんな容姿なのかは気になるところだ。
「体長は2m程度で太った短足、動きは遅いです。接敵してないので戦闘に関しては不明です」
「ファンタジーによく出てくる見た目と思っていい感じかな?」
「でっぷりとしたエロオークそのものでしたよ。体色は灰色でしたけどね」
「なるほどな。あと気になるのは転移者関係だけど」
「今日は見ませんでしたが、森全体に散らばっている印象ですね」
転移者のいた痕跡が、この範囲でも9か所見つかっている。
「この周辺だけの限定転移ならまだしも、広域だとすると何百何千単位の人数になるんじゃないか?」
「この世界の広さ次第では、もっと大勢が来ている可能性もありますね」
「案外、日本人全員来てたりして……」
「それにしちゃ、小さな子供の服は1つも無かったぞ」
「年齢的な制限があるのかもですね」
「そうかも知れん。……っと、他に何か意見あるかな」
「意見てか、探索での印象なんだけどさ」
冬也は何か気になることがあるようだ。
「俺の印象だと、西の方は魔物が少ない感じがした。そのぶん動物は多かった気がする」
「あー、私もそんな感じがしますね」
「そうか、逆になんか怖い気もするな」
「そう? 魔物が少ないなら、そのぶん安全でいいんじゃないかな?」
「少ない理由がわからないのが怖い、ってことな。根拠はないよ」
「でしたら、あまり奥には行かずに近場から慎重に探ってみましょうか」
「……そうだね、あくまで慎重にな」
少し悩んだが、探索は二人に任せているので桜の意見を尊重した。
東にいたオークも気になるところだけど、ひとまずは西の森を重点的に探索することになった。
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