第22話 村ボーナス☆☆


異世界生活22日目


 片桐たち襲撃者の件が解決して、9日が経過していた。

 あれ以降、村に日本人が訪れることはなく平穏で忙しい日々が続いている。今日も朝から田植えに精をだしており、そろそろ全てを植え終わりそうだった。


 そんななか、今日は大きなイベント――


 じゃがいもとさつまいもの大収穫祭を迎えていた。



 家にある米は既に食べつくし、主食代わりの芋類は貴重な存在となっている。2日前から試し掘りをして成長具合は確認済み、そしていよいよ収穫の時がきたのだ。


 豊かな土壌と農耕スキルの効果は絶大だった。芽が出始めてから、たったの2週間で収穫までこぎつけたのだ。日数からして、成長速度は10倍ほどだろうか。病気にもかからず、植えてからの手間がないのも助かる。


 そんなわけで私と椿は、田植えをほかの三人に任せて芋たちの収穫に挑んでいた。


「どれだけ獲れるか楽しみだなぁ」

「ええ、とっても」


 自分で作ったものだし、その喜びも人一倍だろう。椿は笑顔でそう答えていた。


「よし、どんどん掘るぞ!」

「はい!」

 

 椿が次々と芋を収穫していくのを横目に、私も負けじと農耕スキルをコピーして参戦する。豊かな土壌で育てた芋は通常より一回りは大きく、獲れる量も2倍から3倍はあるようだ。芋ずる式とは良く言ったもので、半端ない数の芋が引っ付いていた。


 スキルを駆使して3時間、ようやく全ての芋を掘りおわり、日陰干しと保管を兼ねた屋根つきの作業場に運んでいく。夏希のおかげで、かなり大きな施設が完成している。


 昼を前にして、ようやく運搬作業が終わった。ドドーン! と効果音がしそうなくらい、とてつもない量の芋がそびえている。


「予想以上の大収穫になったな」

「はい、ここに来て一番の充実を感じています」

「そうだな、椿には感謝しかないよ」

「私は啓介さんのお役に立ててます?」


 なんて返すのが正解がわからないので、正直な気持ちを答えた。


「最高に役立っている。私にも村にも、無くてはならない存在だよ」

「ならよかったです」


 椿は満面の笑みで喜んでるように見えた。


 田植えから帰って来た三人も、目の前に見えるおびただしい量の芋に驚愕していていた。そのあとも全員で大収穫を祝い、喜びを分かち合うと共に椿に感謝と称賛を伝えていた。




◇◇◇


異世界生活23日目


 次の日の朝、恒例となったステータス確認をしていた。


 冬也と夏希は、忠誠度は上がっているがその他に変化はない。しかし、私と桜と椿の三人には、新たな変化が生じていた。桜と椿はスキルLvが上昇し、私はなんと、新たな村ボーナスを獲得していたのだ。

 

================

桜 Lv3

村人:忠誠95

職業:魔法使い

スキル:水魔法Lv3<NEW>

念じることでMPを消費してする。

飲用可能。形状操作可能。温度調整可能

================


「やっと攻撃魔法になりましたよっ!」


 文面は短くシンプルになっているが、たしかにスキルの説明文には『攻撃』と表記されていた。普段の生活水や農場の水まきに加え、川での訓練が実を結んだんだろう。


「おお、毎日頑張ってた甲斐があったな!」

「これで私も戦力になれるはずです。しかも温度調整となれば、お風呂や氷だっていけるかもしれませんよ!」

「お、お風呂!? すごいです桜さん!」

「桜さん最っ高ー! ああぁ、楽しみー!」


 女性陣は、ちょっと狂気を感じるくらいに大喜びしている。もちろん私も嬉しいが――


「ああ、もうダメっ。私、今すぐ確認してきますね! すぐ戻りますから!」


 そう言うや否や、外へ走って行く桜を誰ひとり止めることはできなかった。それからしばらく待ったが……、戻ってくる気配が一向にないので椿の確認をはじめる。


================  

椿 Lv3

村人:忠誠90

職業:農民

スキル 農耕Lv3<NEW>

土地を容易に耕すことができる。

農作物の成長速度を早める。

農作物の収穫量が増加する。<NEW>

================


 ステータスを確認した椿が黙ってこちらを見つめている。まあ流石の私も理解している。これは忠誠度が90の大台に乗ったことのアピールだろう。


「ついに90か。ありがとう、私も嬉しいよ」


 そのひと言を聞いた椿は、とても満足した表情で話し出した。


「収穫量の増加は良いですね。昨日の大収穫が引き金でしょうか」

「その線が濃厚だね。今後の収穫も期待が持てそうだ」

「椿さんは村の救世主ですね! オレ、すごく感謝してます!」

「わたしもです!」

「私だって、冬也くんや夏希ちゃんには感謝していますよ。これからもよろしくね」

「「はい!」」


 微笑ましいやり取りを横目に、自分のステータスを確認してみる。


=================

啓介 Lv3

職業:村長 ナナシ村 ☆☆ <NEW>

ユニークスキル:村Lv4(4/50)

『村長権限』『範囲指定』

『追放指定』『能力模倣』


村ボーナス

☆  豊かな土壌

村内の土壌品質に上方補正がかかる。作物が病気、連作障害にかからない。※解放条件:初めての収穫

☆☆ 万能な倉庫<NEW>

村内に倉庫を設置できる。サイズは村人口により調整可能(品質劣化なし)※解放条件:初めての建築と備蓄

=================


 村名称の横にある☆マーク。1個だったのが2個に増えている。とくに意味はないが、なんとなくガチャのレア度みたいだなと思った。


「万能倉庫か、随分と都合のいいタイミングで来てくれたもんだな」


 口ではそんなこと言っているが、内心では小躍りしながらめちゃくちゃ喜んでいる。もちろんみんなには内緒だ。


「え、今更だろそんなの。村長のスキルは全部そんなのじゃん」

「ユニークスキルなんだし、まあこの程度はあり得るよね」


 なかなかに辛辣な物言いの若者がいた……。


「いえ! これは素晴らしい能力ですよ。食料の備蓄が可能となれば、生活にもかなりの余裕が持てます!」


(そうそう、こういう反応を待ってたんだよ)


 椿の言葉に気を良くして考察を進める。


 品質が劣化しないのは非常にありがたい。作りすぎても食料がダメにならないし、生肉の保存もできる。大きさにもよるが、これでどれだけ量産しても無駄にならなくなる。あとはサイズ調整ができそうなので、その辺りを実際に試してみたいところだ。

 

「よし、外で確認をしてみよう」

「啓介さん、楽しみですね!」

「おうよ!」


 皆で庭に出ると、スキルの確認を終えたのだろう桜が戻って来た。


「啓介さん、大体は把握しました。今回は中々エグいですよー!」


 興奮している桜の話はこうだった。


 魔法の威力は十分な殺傷力があり、MPを多めに使えば威力も多少向上するらしい。森の木を目標に試したところ、ウォーターボールは木を大きく揺らし、ウォーターアローやバレットは、貫通までとはいかなくとも木に穴をあけるほどの威力がある。

 高圧水流のウォータージェットに至っては、一瞬では無理だが、少しずつなら木も削り倒せるほどの威力があると、嬉しそうに語っていた。


 温度については、凍る直前くらいの冷たい水から、沸騰直前の熱湯までの範囲で調整できるようだ。凍らせたり蒸発させたりについては、今後も訓練を重ねて研究していくらしい。


「と言うわけで、これからは戦力としても扱って下さいねっ」

「ナナシ村の最強魔法士よ、今後ともよろしく頼むぞ」

「ハッ、お任せください村長!」

「うむ、桜の異世界ファンタジーが始まって良かったな」

「やっとですよぉ、このために毎日頑張った甲斐がありました!」


 私と桜でそんなロールプレイしていると、椿と夏希が口を揃えて、


「「桜さんお風呂は?」」

「大丈夫、バッチリ毎日いけるよ!」


「「!!!」」

 

 歓喜している女性陣は、その後もしばらく緊急会議に突入してしまった……。議題は言うまでもなく風呂だ。


「……えっと、そろそろ私の検証に入ってもいいだろうか」


 風呂より倉庫のほうが重要だろ? などとは口が裂けても言わないが、 意を決して話しかけ、桜にも新たな村ボーナスについて説明した。


「コピーに続いて疑似アイテムボックスとは、流石は啓介さんですね」

「容量制限はあるし、持ち運びはできないけどな」

「村にいる限りは問題ないですよ。早く見てみたいです」


 ホントかよ、と思いながらもさっそくイメージをしてみる。サイズ変更が何度もできるのかは不明なため、まずは最大でイメージした。


 目の前に出現した倉庫のサイズは、高さ10mで広さは5m×5mだった。見た目はなんてことはない普通の倉庫に見える。


「現在の人口×1mが上限みたいだな」

「ずいぶんと縦長に見えますね」

「まあ今はそうだけど、人口が増えて横幅が拡がれば気にならないさ」

 

 場所をどうするか話し合った結果、家の北側に設置することになった。ここなら畑にも近いし、ちょうど良いと思ったからだ。他にもいろいろと検証した結果、形は四角で固定のようだが、サイズ変更はいつでも可能だった。



 倉庫を設置したあとは、案の定、風呂祭りに突入する。家の浴槽を使って、久しぶりのお風呂をみんなで堪能した。


 ちなみに、昼前には女性陣から入りだしたのだが、私と冬也の順番が回ってきたのは、日もどっぷりと暮れた頃だった――。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る