第21話 獣人族領-ep.1


<獣人族領-ケーモスの街>


領主館にて


 今から15日前、我がケーモスの街中に突如として人族が現れた。


 その日の昼過ぎにはを超え、街中が大混乱に陥ったのだ。住民や衛兵の供述によると、なんの予兆も無く、突然目の前に沸いて現われたらしい。


 そのほとんどは黒髪に黒目であり――


 物語に登場する異世界人と酷似していた。


 その昔、何百年か前に転移してきた3人の異世界人。彼らのことは、物語として知っている者は多い。だがしかし、この数は何だというのか。あまりの突飛な現象に、思考がまるで追いつかない。

 

 今日までの15日間、街の外からも次々と現れ、その数はさらに増していた。日々訪れる人数は減ってきたが今もまだ続いている。幸いにして、彼らの気性が穏やかなこともあり、比較的容易に一時保護できたのが救いだった。



「領主様、首都ビストリアの議会から指令書が届きました」


 7日前の通達に続き、2度目の指令がようやく来たようだ。執事のゼバスが封書を渡してくる。


 我が獣人族領は、様々な獣人が集まってできた連合国だ。中央の連合議会が全ての政策を取り仕切っている。主要な街ごとに領主を置き、統治させている。かくいう私もそのひとりと言うわけだ――。


 我がケーモス領は、連合国の南東に位置している。南は海に面し、東は『大森林』と隣接している。ここ何十年と大規模な戦争は無いが、大陸北部の人族領とは敵対関係にある。我が領は最も南に位置しており、人族との抗争とは無縁なのが幸いだ。


 そんな中で、突如として人族が街中に現れたのだ。その対処について、議会からの続報を待つしかない状態だった。


「そうか、やはり異世界人で間違いないようだ。ほかの街でも同様の現象が起きている、か」


 議会からの指令書には、次のような内容が書かれていた。


1.連合国は、異世界人を保護し定住を許可する

2.戦力となり得るスキルを所持する者は、軍への加入を条件に好待遇を約束する

3.犯罪者及び反抗する者は、身柄を拘束し首都まで連行すること

4.協力的な者には優先して住居や仕事を斡旋。その際、領主権限で十分な支度金を与えること

5.引き続き、全ての異世界人のスキルを調査し、得た情報の一切を議会へ報告すること

6.連合国に危害を及ぼす可能性のある人物、およびスキル保持者は、領主権限で拘束、または処刑を許可する


 ほかにも細かい指示はあるが、大枠ではこんなところだろう。ようするに、人族に対する戦力として確保しろ。逆らうものは殺し、人族側の戦力とはさせるな、逃がすな、と――。


「まぁそうなるか……。なにせ異世界人全員がスキルを所持し、よくわからん『職業』なるものを持っているんだからな」

「領主様、如何なされますか」

「議会からも定住の許可が出た。異世界人は丁重に扱えとのお達しだ。反抗する者は遠慮なく捕らえて首都へ移送だ」

かしこまりました」

「私もすぐに兵舎へ向かう。保護している異世界人たちと、個別で面会できるよう準備しておけ」



◇◇◇


<獣人族領-首都ビストリア>


中央連合議会-議事堂にて



「では、本日の臨時会議を始める。議題は言うまでも無く、異世界人についてだ」


 連合国家の首都ビストリアにある中央議会では、各種族から選出された12名の議員により、連日の会合が行われていた。


「まずは、現時点における異世界人の人数から――」


 報告書に目を通すと、首都ビストリアに約9千人、5つの主要な街を合わせて約8千人、合計で1万7千人とある。


「また増えているな。……いったい、どれほどの数が現れたというのか」

「勢いは減りましたが、まだ首都や街に訪れる者もおり、小さな村々にも滞在しているとありますね」

「昨日、人族領でも同様の現象が起きていると確定したわけだが……。流石にその数までは把握できんか」

「それにはもうしばらく時間がかかるでしょう。ですが、大陸全土で起きていると想定した場合、国土の比率でいけば、我らの5倍はいると考えた方がよろしいでしょうな」


 大陸を東西に分断する『大山脈』、この西側だけが人類の生息領域だ。その南端に位置する2割にも満たない領土が、我ら獣人が暮らしている領域になる。


 何百年にも及ぶ領土争いの末、今では生存域の8割以上が人族の領土となっていた。さすがに5倍の人数というのは大げさかと思うが……、過小評価により国が蹂躙されては、それこそたまったものではない。


「となると当然、人族も異世界人を取り込むだろうな」

「遠からずのうちに、その戦力を利用して侵略して来るのは確実で御座いましょう」

「異世界人の数も重要だが、所持スキルの比率も考慮せねばならんぞ」


 異世界人全員が所持するという、スキルの内訳に話題が移った。


 剣術や槍術、魔法などの戦闘スキル所持者が約5割、農耕や畜産などの酪農関連が4割と続く。残りの1割は鍛冶や料理など、産業に関わるスキルを所持していた。

 また、全体の1%にも満たないが、忍術や医学、カリスマなんていう、聞いたことも無いスキル所持者も存在している。


「戦力で言えばこちらが8千人、人族は4万人の増強か。……非常に厳しいな」


 我ら獣人族領の連合軍は、全てかき集めても2万5千、冒険者ギルドへの強制依頼を見越しても、5千も増えれば御の字という所だ。


 対して人族領は王国軍5万、各領の軍合わせて5万、国や領の自治を考慮しても8万にはなる。そこに今回の異世界人が加われば……。


「「「……」」」


 議員たちも、人族領との戦力差に出る言葉も無い。


「まぁしかし、日本と言ったか。転移してきた異世界人は、皆そこの出身らしい。戦争もなく人殺しは禁忌とされる国、と報告にもあったな」


 暗い空気を誤魔化すように話題が変わる。


「全ての者が戦力となるかは怪しいところじゃな。そこに活路を見出すか」

「ただ、争いを嫌うという割には、ダンジョンやら冒険者に興味を持つ者が多いとか……」

「ヤツらの国では、そういう冒険譚や英雄譚が流行りらしいぞ。異世界ふぁんたじー? と言うらしい」


 なんとも良くわからん国だが……とにかく、うまく取り込まねばなるまい。



「さて、余談はこれくらいにして、具体的な施策について話そう。まずは食糧問題についてじゃ――」


 こうして、連日開かれる会合により、日本人たちの処遇が決定していくのであった。








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