第20話 田んぼと水路


 村に戻った私たちは、ステータスの確認をおこなっていた。私も早く確認したくて、表には出さないがずっとソワソワしている。


「そういえば啓介さん。片桐をったとき、レベルは上がらなかったんですよね?」


 と、順番待ちをしていた桜がそんなことを聞いてきた。


「ああ、私もそれが気になって確認してみたが変化はなかったよ」

「転移者を殺すと経験値が多い、とかのパターンでは無さそうですね」

「相当数の転移者がいそうなこの世界で、それだと危なかったな」

「ここにも襲撃がありましたし、当然ほかでも……殺し合いはあるでしょうね」


 大量殺戮者がどんどん強くなる世界、そんなの迷惑極まりない。


 

 現在、椿と桜がレベル3、冬也と夏希がレベル2となっていたが、スキルのほうは変化がなかった。椿と桜に関しては、ここ数日の罠ゴブ狩りで1つ上がっている。あとは、冬也と夏希の忠誠度も順調に上昇していた。


 最後に私の番となり、待ってましたとばかりに画面を見やる。


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啓介 Lv3

職業:村長 ナナシ村 ☆

ユニークスキル:村Lv4(4/50)

『村長権限』『範囲指定』『追放指定』

『能力模倣もほう』<NEW>

村人の所持するスキルを1つだけ模倣もほうして使用できる。1日1回のみ変更可能 ※効果半減


村ボーナス

☆ 豊かな土壌

村内の土壌品質に上方補正がかかる。作物が病気、連作障害にかからない。

※解放条件:初めての収穫

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「「チート能力キター!」」

「おい、ずるいぞ村長!」


 桜と夏希が口を揃えてそう言った。冬也は羨ましそうにしている。


「効果半減とはいえ……チートの一角、コピー能力ですか!」

「さすがユニークスキルだよねー」


 二人が言うように、効果が半減だとしても凄い能力だ。村人の所持するスキル限定ではあるけど、やれることが格段に増えるのはありがたい。


「っと、まずは順番に確認していこう」


 私含め、皆が興奮気味なので一旦区切る。


「村ボーナスの増加はなし。村人の最大数は20から50に増えてるな。今回は敷地も拡張できるみたいだ」

「じゃあ、あとで外へ行きましょう」

「そうだな、そして模倣能力か。1日1回しか変更できないから、よく考えて設定しないといけないな」

「肝心なときに使えないのでは、宝の持ち腐れですしね」


 スキルの確認を済ませたあと、村の拡張がどれくらいなのかを調べにいく。はやる気持ちを押さえつつ、全員で外に出て結界の際まで向かった。


「啓介さんの生存率が上がって、本当によかったです」


 となりを歩いていた椿がそう言ってくれた。それに続いて桜も――、


「啓介さんが死んじゃうと、たぶん結界も消えそうだしね」

「最悪、家すら消えるかもな」

「いえ、私が言いたかったのはそういうことじゃ……」

「わかってるよ椿、ありがとう」


 

 農場区域に到着したところで、さっそく敷地拡張を念じてみる。前回同様、結界が点滅しながら拡がっていくと――、初めて目にする冬也と夏希がその光景に驚いていた。


 既にある敷地と、新たに拡がった分を合算すると、総面積は10,000m2となった。長さに換算すると100m×100mの広さだ。


 どうするか悩んだ末、南北に50m、東西200mの長方形に決定した。自宅が、東西の中心よりやや西よりに位置している状態だ。横長の長方形、その中心から西側を居住区、川に近い東を農業区とする。川付近の視界を良くするために、対岸側も10mほど占有することにした。


「それじゃあ、敷地を固定するよ」


 改めて見渡してみるが、これだけ広いとかなり村っぽい感じになって来た。まあ、家は1軒しかないんだけど……。


「東側の農地はどんな感じにしますか」

「椿はどうしたい?」

「そうですね、今ある畑を野菜区画のまま残して、その北側を稲作用の田んぼにする。という感じでしょうか」

「それが良さそうだ。ところで、肝心の発芽状況はどう?」

「まだですね。試して2日しか経っていませんし、もう少し様子を見ましょう」

「水には浸してあるんだよね? 例えばだけど、椿が耕した土を入れてみてはどうだろうか」

「なるほど、いくつか小分けして試して見ますね」


 村ボーナスの『豊かな土壌』、それに椿の『農耕スキル』、これらの効果が出てくれるかもと提案しておく。


「じゃあ、昼からは自由行動にしよう。結界外での行動は複数でやること、監視役は必ずつけるように」

「はい」

「りょうかいっ」

「はーい」



◇◇◇


 昼休憩をしたあと、自由行動となった私は冬也のところに向かった。剣術スキルのコピーを頼むためである。


「冬也、コピーの効果を試していいかな」

「いいよ、模擬戦でもするつもり?」

「いや、伐採作業に使おうと思ってね」


 冬也も伐採に行く予定だと言うので一緒に森へと向かう。現地に着いて早々、剣術スキルをコピーして鉈を何度か振ってみる。


「なるほど、これが手に馴染む感覚か」

「な? なんとなくわかるだろ?」


 表現するのは難しいが、鉈の重さを感じるのに感じない、自然に迷いなく振れる感覚だった。冬也はこの倍の感覚なのかと思うと、スキルの効果は相当に高いんだとわかる。実際に木を切ってみても、明らかに昨日より早く倒すことができたし、疲労も少なかった。


 その後も交代で伐採を続けていくと、猪の魔物が襲ってきたが……二人であっさり倒せた。効果半減でも、剣術スキルの効果は大きいと実感したのだった。結構な量の伐採をしたので、日が暮れる前には水浴びを済ませ、猪の肉をみやげに家へと戻った。

 


◇◇◇


異世界生活15日目


 それから2日後の朝、顔を洗ってリビングに行くと、椿から待望の報告があった。


「啓介さん、ついに発芽を確認しました!」

「おお、やったな! これで主食確保の目が出てきたね」


 冬也の話だと、もっと時間がかかるらしかったが……4日目にして玄米からの発芽に成功した。芽が出たものから土に移し替えて苗づくりに移行する。


「これで田作りを進められるな。今日からしばらくは全員で取り掛かろう」

「割り振りはどうしますか?」

「ん-、椿は田作りを頼むよ。桜と冬也が水路担当、夏希と私は水路用の板材加工を担当しよう」


 分担を決めて各自の作業に取り掛かっていく。私と夏希も、木材集積場で細かい打ち合わせをしていた。


「私が杭の先付けをするから、夏希は板材をお願いしていいか」

「はい、厚みとか長さはどうすれば?」

「厚みは3cm、長さは気にしなくていいよ。設置するときに調整しよう。あ、余裕があれば1cmのも頼むよ。作業場の屋根を補強しておきたいんだ」

「おまかせあれ!」


 夏希の細工スキルは木材の加工にも効果がある。自在に、とまではいかないが、材木を板状にするくらいは余裕だった。


 ノコを引くと、がスルっと入る感じでまったく抵抗がない。しかも真っすぐ、断面もキレイに切れていく。なんならなたでもいけてしまう。夏希曰く、溶けかけのバターを切る感覚らしい。

 唯一の問題と言えば、加工した板材の運搬くらいだろうか。まだレベルが低いからなのか、少し重いみたいだ。


 そして今日判明したことがひとつあった。それは、細工スキルの効果が伐採作業には適用されないことだ。あくまで、素材に対しての加工や細工に適用されるもので、生えている木には何の補正も働かなかった。



 それから全員で作業すること5日、ようやく田んぼと水路が完成する。


 一応カタチにはなっているけど、これで合っているかはわからない。あとは『豊かな土壌』の効果で上手くいくことを願う。






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