第18話 夏希と冬也
新たな村人を引き連れて家に戻り、濡れている体や服を水魔法で処理してもらう。さすがに泥まみれのまま家の中にあげたくない。多少濡れているのは目をつぶり、パソコンのある居間へと向かった。
「聞きたいことや言いたいこともあると思うけど、まずはこのモニターに触れてほしい」
五人をモニターの背面に立たせて、順番にステータスの確認をしていく。本人に画面が見えない状態でも、触れれば表示されることは私たちで確認済みだ。
私はモニターの正面側に立ち、ステータスをチェック。と同時に、自己紹介やこの村の方針、忠誠度についてを話していった。椿と桜もその間に、表示されたステータスをメモしている。
(なるほど、こんな職業もあるのか)
魔法使いや農民のほかにも、いろんな職業があった。その内容には興味をそそられるが――、五人全員の確認が終わったので、ひとまず庭に出てからみんなにバスタオルを配る。
「みんな、服も汚れて不快だと思う。日が高いうちに川で水浴びをしてくれ。私たちはその間に食事の準備をしておくよ」
五人とも意外と素直に聞いてくれた。まあ、少なからず恐怖しているのだろう。立場が逆なら私でも怖い。
「新たな住人の歓迎だ。昼は豪勢にカレーといこうか」
「啓介さん、私たちもちゃんと
「ああ、わかってるさ。あの光景をしっかり見てたのも知ってるよ」
「じゃあ他の人が川に行ってるうちに?」
「いや、アイツらは何日かあのまま放置するよ」
「それで良いんですか?」
「大丈夫だ。
「ですか……。とにかく、私たちはいつでも大丈夫です」
私は二人に頷いて返した。
それからたっぷり3時間は経った頃、新規メンバーが戻って来た。空気を読んだのか、単純に乾かしていただけなのかはわからない。ただ、しきりに穴のほうを気にしていた。
「「「戻りました」」」
「おかえりなさい、準備できてますよ」
「おかえりー今日は歓迎のカレーですよ!」
笑顔の人や真顔の人、表情はそれぞれだが、みんな久しぶりのお米やカレーには満足な様子。中には喜びで涙ぐんでいる人もいた。
軽く談笑しながら、もう食事も終わるという頃に新メンバーのひとりが遠慮がちに聞いてきた。
「あの……穴の中にいる人たちって、これからどうなるんですか?」
「どうもこうもないよ。あのまましばらくは放置するつもりでいる」
「そ、そうですか……」
「ああ、別にすぐ排除するとか、皆に殺らやせたりはしないから安心してね。さっきも少し話したと思うけど、自分と村人の安全が最優先だから妥協はしないけどね」
やはりほかのヤツらが気になっているようだ。水浴びの最中も、ずっとその話題で持ちきりだったんだろう。
「じゃあ、逃がした4人は?」
「あの状態では逃がしたなんて言えないよ。魔物に殺される未来しかないでしょ? それにさ――。平気で次々と殺していく村長って、恐怖でしかないよね。そんなんじゃ信用なんて絶対に得られなくなる」
「たしかに、そうかもです」
「毎回そんなことしてたら、いつまで経っても村人が増えないからね。遅かれ早かれジリ貧で詰んでしまう」
一応の納得はしたようで、他の人もとくに異論はないように見えた。
「さあ、午後からは自由行動だから好きにしてくれていいよ。ただ、結界の外は危険だから十分注意してね」
新規組には村を自由に見てもらうことに。家の中についても、居間と椿たちの部屋以外は許可を出した。その間に私たちは、今後の予定を打合せたり、水魔法で穴の水を抜いたりしていた。
皆で夕ごはんを食べたあと、新メンバーには空いている部屋で寝てもらった。もちろん男女別々でだ。
◇◇◇
異世界生活11日目
朝、五人がリビングに集まり朝食を摂っている。
「どうしてなんでしょうね」
「忠誠度がギリギリだったしな。村や家を見て、良からぬことを考えたんだろ」
「魔が差したってやつですか」
現在、ここにいる新メンバーは二人だけ。残りの3人は朝起きると自動追放されていたのだ。外に出て確認もしたけど、既にどこかへ去ったあとだった。
昨日、新メンバーの忠誠度を確認したとき、ある程度は予測していた。正直言って想定の範囲内だ。数値もギリギリだったからね。
「安全な場所を確保すれば心にも余裕ができる。そうなると欲もでるわな、人間だもの」
「20人に遭遇して、残ったのが二人だけとは……世知辛いですね」
「ああ、でもこうして二人は残ってくれたじゃないか」
残った二人にも
「
「任せてくれっ、ぁ、さい!」
「頑張ります!」
「冬也、べつに敬語じゃなくていいぞ。一人くらいそんなヤツがいると、私も気が楽だしな」
「っ、わかったよ村長!」
冬也も夏希も、気持ちの切り替えは早いようなので助かる。きっとこれが若さってヤツなんだろう……。ちなみに二人ともまだ15歳らしい。
冬也は、いかにも活発そうな男の子って感じ。身長は年相応なのかな? この年代なら、これからグングン伸びていくだろう。夏希のほうは、ちょっと小柄で可愛らしい雰囲気。冬也とのやり取りを聞く限りでは、物怖じしないタイプなのかな? とにかく明るい女の子っていう印象を受けていた。
「いまから冬也と夏希に、ステータスの確認を行ってもらう。そのあとは全員で能力の共有をするからよろしくな」
「ステータス!? やっぱりここは異世界だったのか!」
「冬也、気持ちは分かるけど興奮しすぎー」
そういえばこの二人、昨日もなんとなくソワソワしていた。ここが異世界だってことに、薄々感づいていたのかもしれない。
「冬也と夏希は、異世界ものに詳しそうだが……どうなんだ?」
「はい! わたしたち、異世界系のアニメがキッカケで仲良くなったんですよー」
「二人は日本でも知り合いだったのか?」
「中学からの友達ですよ。ここに来てからはずっと隠してましたけどね」
「ほお、いい判断だと思うぞ」
日本でも知り合いだったらしいが、転移するとき一緒にいたわけではなく、場所も離れていたそうだ。相変わらずこのあたりの事情は、全くもって不明なままだった。
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冬也 Lv2
村人:忠誠57
職業:剣士
スキル:剣術Lv1
剣の扱いに上昇補正がかかる
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「ホントに見れたぞ! 異世界すげえ!」
「その気持ちはわかるぞ、俺も興奮したもんさ」
「オレの職業は剣士か、スキルもまあ普通だな」
「冬也、勇者じゃなくて残念だった?」
「そんなの鍛え方次第だろ、問題ねーよ。それより村への貢献が第一だろ!」
「いや、貢献の前に忠誠度でしょ?」
「くぅ……」
たしかに、現在の忠誠度は57か。まあよほど変な考えを起こさなければ大丈夫だろう、と思いたい。
「じゃあ次は夏希が見てみろよ」
「わかった、啓介さんいいですか?」
「ああ、やってくれ」
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夏希 Lv2
村人:忠誠60
職業:細工師
スキル:細工Lv2
細工や加工に上方補正がかかる
対象:木材、繊維
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夏希の職業は細工師というものだった。スキルを見る限り、何かを細工したり、加工するのに有効な能力のようだ。対象となる素材は木材と繊維だけだが、スキルアップとともに種類が増えていくと予想できる。
「細工師かー、なかなか良いスキルだよね。この能力は何かと便利そうだし、村の頼れる存在になっていくはずよ!」
「そういえば夏希、前の拠点で木の槍とか皿なんかも作ってたよな」
「簡単に木が削れたのはスキルのおかげだったんだね。理由がわかってスッキリしたー」
あの槍のような武器は夏希が作ってたのか。木の棒とか思ってごめん。
「そういえば二人はさ、スキルレベルが上がったときにアナウンスみたいなの聞こえなかったか?」
「いや? ないぞそんなもん」
「わたしもないなぁ」
「そうか、ならいいんだ」
冬也と夏希のステータス確認が終わったあとは、初期メンバー三人のスキル情報を共有。お披露目会は終了となった。
桜が見せた水魔法に、二人とも目を輝かせていたのが印象的だった。
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