第16話 来訪者


 ステータスの確認をしたのち、椿は畑作りへ、桜はスキルの検証をしに出かけていった。


 そして私は村の中を周りながら、周辺に魔物や動物がいないかを探しているところだった。たまたま結界に衝突したのか、気絶している鳥を見つけたので、捕まえて処理をはじめる。


 当然、解体の経験なんて一度もない。思いつく限りやってみたけど……結果はとても褒められたものではなかった。グロゴブリンのおかげか、精神的な抵抗が薄かっただけでもヨシとしておく。


(まあ、地道に経験を重ねるしかないよな……)

 


 その日の夕方、陽が落ちる前にみんなで水浴びと夕食を済ませる。とり肉は丸焼きにして食べたんだが、見た目はともかく味は抜群においしかった。


「そういえば桜、魔法の検証はどんな感じだったのかな?」

「そうですね、威力に関してはかなり上がりました。でも……殺傷力があるとまではいかないですね」

「具体的にどの程度の威力なんだ?」

「高圧洗浄機くらい、と言えばわかりますかね? 目を狙えば、今の段階でも隙はじゅうぶん作れそうです」

「形状操作のほうは?」

「それに関しては、ほぼイメージ通りに変えることができましたよ。まだ同時に複数とはいきませんが――。威力の低いウォーターボール、ウォーターアロー、ウォーターバレットみたいな感じです」


 それを聞いて、椿は疑問符浮かべていたが、私にはとてもわかりやすい説明だった。


「それでも敵を仰け反らせたり、転ばせたりはできると思うので、乞うご期待です!」

「そりゃ頼もしい、今後ともよろしくな」


 そのあと、椿に畑の進捗を聞いたり、他愛もない会話をしてから眠りについた。もちろん私とは別々の部屋で。夜這いをする勇気など持ち合わせてはいない。



◇◇◇


異世界生活9日目


 初めて魔物を倒してから5日間は、概ね平穏な日々を過ごしていた。


 ゴブリンのほかにも、ゴツい猪や大きな兎の魔物が襲ってきたが、罠に落とすことで安全に狩ることができていた。ちなみに、兎にツノはなかった。けど、鋭いキバが生えていて全然かわいくない。


 幸運なことに、兎や猪の魔物は魔石のほかにも肉や皮を落としてくれた。いわゆるドロップアイテムというヤツだ。まさに異世界あるあるだったが、こうでもなければ飢え死ぬところだったので、喜んで受け入れた。



「椿、どれも順調に成長してるみたいだね」

「はい、順調過ぎますけどね。農業の経験がなくても、この成長速度が異常なことくらいはわかります」


 いまは椿とふたりで、かなり広がった畑に来ていた。まだ数日しかたってないのに、あたり一面、緑で賑わっていた。


 村ボーナス『豊かな土壌』の効果だと思うが、家庭菜園のじゃがいもやサツマイモがアッという間に成長していたんだ。もういつでも収穫できる状態だった。


 作物が病気にかからないということは、疫病菌の心配も必要ない。獲れた芋を種芋にして、さっそく新しい畑に植えてみたんだ。


 するとどうだろう。次の日には芽が出てきて、今はさらに伸びている。


「ほかの種もしっかり芽吹いてるし、大丈夫そうで安心したよ」

「村の役に立てて嬉しいです」

「ああ、本当に助かってるよ」


 家の備蓄が目減りしている現状、この成長具合は非常にありがたい。そんなことを椿と話していたら、川のほうから桜が歩いてきた。


「今から畑の水撒きしちゃいますねー」


 水魔法を器用に操り、水を霧状にして散水している。私は魔法が使えないからわからないけど、かなりの才能があると思われる。


「相変わらず見事なもんだよ。俺も魔法が使えたらなー」

「啓介さんには村スキルがあるじゃないですか。これで魔法まで使えたら、私の立つ瀬がありませんよー」


 それからしばらく、散水の様子を眺めながら三人で楽しく雑談をしていた。今日は芋料理が待っているので、昼食の時間が待ち遠しい。



◇◇◇


 昼食を終え、各自が自由行動に移ろうとした頃だった。三人揃って庭へ出ようとしたとき、結界の外から男の声が聞こえた。


「こんにちは! 失礼ですが日本の方でしょうか!」

 

 家の真正面、罠用の穴がある場所のすぐ横に、数名の姿が見えた。男性が4人、女性が2人だろうか。こっちも三人でいるのが見えてしまっているので、しかたなくこのまま対応する。


「話しは私がするから、二人は黙ってみててくれるか?」

「わかりました」「はい」


 ふたりにそう伝えたあと、手ぶらのまま集団のほうへと向かう。結界を挟んで向かい合うと、6人のうち一番年齢の高そうな男性が話し出す。たぶん40代くらいのおっさんだ。

 

「初めまして、私は片桐と申します。突然訪問してすいません」


 片桐と名乗る男性は、そう言って丁寧に一礼する。そしてまわりにいる5人は、無言のまま真剣な表情で私たちを見ている。何の根拠もないけど、なんとなく胡散臭い。


「いえ、構いませんよ。私は日下部と言います」

「ありがとございます。実は私たち、9日前に―――」


 と、今日ここに至るまでの経緯を語りだした。どうやら同じ転移者のようで、内容は次のようなものだった。


 6人とも、私たちと同日の同時刻に強烈な閃光を受け、次の瞬間にはこの森の中に移動していた。転移した場所はバラバラ、さまよっている内に合流してこの人数になる。


 この場所から少し川下の方で、魚や動物を捕まえながらなんとか数日過ごしていた。そして昨日、森を探索中にこの場所を見つけたので、改めて全員で挨拶にきたらしい。


「なるほど、事情は良くわかりました。ちなみに皆さんは、以前からのお知り合いですか?」

「いえ、全員初対面の方ばかりです」

「そうですか、ありがとうございます」

「それで是非とも、私たちもこちらへ合流させてもらえないかと……。もちろん協力はさせて頂きます」


 片桐に続き、他の5人も頭を下げる。


(今のところ辻褄は合っているかな)


「もちろん歓迎しますよ、と言いたいところなんですが」

「「「……」」」

「みなさんの目の前に、薄い膜のようなものが見えていると思います。実はこれ、限られた人しか入れないようになっているんですよ」

「限られた、ですか?」

「ええ、私も完全には把握していませんが、村人になる意志のある方しか入ることができません」

 

 全員、わけが分からない様子で戸惑っているように見えた。まあこれが当たり前の反応だ。


「ここは、村なんですか?」

「はい、ナナシ村と言います」

「……村人になると言うのがどういうことかわかりませんが、受け入れて頂けるならお願いしたいです」

「ほかの5人の方はいかがでしょうか」


 残り5人にも確認を取り、全員の同意を得たので居住の許可を念じた。


「ではお入りください。膜に触れても害はないのでご安心を」


 そう言うと、村人になった全員はお互いの様子を伺うように、おそるおそる結界内に入ろうとした。




 そして見事に、全員が追放された。





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