第14話 初めての襲撃
それからしばらくして――、
みごとな穴を掘り上げた椿は、とても満足げな表情をしていた。
「まさか、こんなに早く完成するとは思わなかったよ。農耕スキル……トンデモないな。正直あなどってたかも」
「ふぅ。土を掘ってるとは思えない不思議な感覚でした」
椿は余裕の顔を見せているが、作業の様子は圧巻だった。結構な大きさの深い穴を、たった30分たらずで掘りきってしまったのだ。すでに掘り上げた土の山も、キレイに均しおわっていた。
「なんと言うか、とても柔らかい雪を掘っている感覚? でしょうか。土の重さもほとんど感じませんでした」
「まあ、それでも疲れただろ? しばらく休憩してくれ」
「はい、実は結構腕にキテるかもです」
そう笑いながら返す椿と、家のほうへ戻ろうとしたときだった。
ガサッ ガサガサッ
と、突然、近くで物音が聞こえた。
慌てて周囲を見回すと、森の少し奥のほうに複数の人影を発見する。
「っ!? 椿、家の中に入ってろ! 俺が呼ぶまで出てくるなよ!」
人影に視線を残したまま指示をだす。森の中にいるので、ハッキリとは視認出来ないが、明らかに人間ではないことは見て取れる。体長1m程度だろうソレは、まさしくゴブリンという見た目をしていた。
こちらに気づいたゴブリン達が、声を荒げて向かってくる。鳴き声は想定の範疇だが、外見のほうは予想をはるかに超えていた。
「グギャ」「ギャギャ」「グギャ!」
三匹のゴブリンが、手に太い棒のようなものを掲げて結界に迫る。結界の存在に気が付いたのか、棒で叩いたり押しのけようとしていた。
(いきなり人型とか難易度高っ、しかも顔がめっちゃ凶悪だし……)
さっきから心臓の鼓動がヤバい。いくら見た目が小さいからと言っても、あれだけ殺意を持って来られると怖い。そして顔もヤバい。
(まずは1匹だけ罠に……)
少し後ろに下がってから、真ん中にいるヤツに侵入の許可を出す。すると結界を押していたゴブリンが、体勢を崩しながら中に侵入してくる。
「ギャ?」
驚いている隙に、慌てて追放を念じると――フッと目の前から消えたと同時に、掘った穴の中から声がした。
「グギャア!」
(よかった……とりあえず成功した)
穴にいるヤツが抜け出せないのを確認してから、残りの2匹を同時に罠へ落とした。結界内から覗くように穴の中を見ると、3匹のゴブリンは混乱していた。私を見ながらギャアギャアとわめいている。
物語と現実では緊迫感が桁違いだ。心臓の音がまだうるさい。家のガラス戸からは、こっそり覗いている二人が見えたので、手招いてこちらへ呼びよせる――。
「上手くいきましたね……」
「定番のゴブリンなのに、実際見るとめちゃくちゃ怖いですね……。うわ、顔こわっ」
椿も桜も、初めて見るゴブリンに怖がっているようだった。
「恐怖もあるけど、これはレベルアップのチャンスだ。無理をしてでも、ここで1匹ずつ倒しておきたい。たぶん今経験しとかないと、この先ずっと
少し強めの口調で二人にそう言うと、少し間があってから、
「やりますっ」
「大丈夫です」
恐怖を気合で振り切るように返してきた。とは言え、直接攻撃するには穴が深すぎるため、どうやって倒すのか考える。
「俺がここで監視してるから、物置にあるブロックを持ってきてくれ」
幸い、落下した衝撃で足を痛めたようで、3匹のうちの2匹は立てない状態だ。これなら上から落としても当てられるだろう。
それからややあって、数個のブロックを運び終える。当然、最初に試みるのは私だ。
「出来れば見ていて欲しいが、どうしても無理ならそれでもいい」
穴の前に立つ。3匹はまだ騒がしい。私は、立てない状態でいる1匹に思いっきりブロックを投げ落とした。
ゴッ 「ギャ……」
ゴブリンの頭がクシャげて陥没した。詳しくは言わないが、かなりグロい光景だった。見えてはいけないモノがいろいろと飛び出している。倒れ込んだゴブリンは動かなくなったが、死体はそのまま残っていた。
(うわっ、死体が残るパターンかよ……)
そう思っていると、ゴブリンの体全体からモワァと、黒い霧みたいなのが出て死体が霧散していった。
(良かった。これはマジでありがたい)
どうやら即死してなかったようだ。さっきまであった死体は、跡形も無く消えていた。桜は顔を引きつらせるが、霧散したときは安堵の表情をみせ、椿はゴブリンが消えたことに驚いていた。
「
「私もいけそうです。そんなに忌避感もありません」
俺の後に続いて桜、椿の順でゴブリンを倒すことが出来た。ちなみに椿は、逃げまどっているヤツをなんの躊躇もなく一撃で仕留めていたよ。
三匹を無事に倒したところでひと段落。と、このタイミングで頭の中にアナウンスが響く。
『ユニークスキルの解放条件<初めての襲撃>を達成しました』
『能力が解放されました』
どうやら魔物の襲撃が解放条件だったらしい。今回、能力は増えたようだが、残念ながら敷地の拡張は無いようだった。まあ、この件は後回しにしたい。とにかくめちゃくちゃ緊張して、それどころではなかった。
「はぁ、疲れた……。なんかこう、精神的にグッとくる」
三人でその場にへたり込む。
「これで死体が残っちゃうヤツだったら、ギリギリアウトだったかも」
「確かに怖かったですね。でもグロいのには耐性があるのか、そこまでではないです」
「ハハッ、ここに来て椿さん最強説が浮上して来ましたよ」
「たしかに、異世界適性あるわ」
「それ誉めてます? からかってます?」
無事に討伐できたことに安堵し、恐怖を打ち消すように冗談を言い合って笑った。
ちなみにゴブリンの討伐報酬は、小指の爪より小さな魔石だった。
悪臭のする腰蓑のオマケつきで。
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