第4話 十四歳の初恋
わたしも十四歳になり最近大人っぽくなってきたと周りからよく言われる。
実はお母様とお姉様は栗色の髪にエメラルドの瞳がお揃いなのに、わたしだけプラチナブロンドの髪に碧眼なのが子供の頃からコンプレックスだった。
今はもう亡くなったお父様似なのだとお母様は言うけれど。
ちなみにお父様とお兄様は濃紺の髪色と瞳がお揃いでとても綺麗。
だから余計にこの容姿は、自分だけ仲間外れみたいで寂しかったの……。
でも、今のわたしはそんな自分の容姿も嫌いじゃない。
ある人にキレイだって言ってもらえたから。
その人に髪の色や瞳をキレイだって言ってもらえた瞬間、コンプレックスだったはずのそれが好きになった。
我ながら単純だって思うけれど仕方ない。その人の一言で気分がすぐに浮き沈みしてしまう。きっとこれがわたしの初恋なんだと思う。
お母様が再婚して早いもので四年が過ぎた。変わらず家族はみんな仲良しで、大きな変化はないけれど。
昔は美容に興味のなかったお母様は、年々お化粧と香水の濃さが増している気がする。
お姉様はというと相変わらずの困った勘違いさんだけど、わたしも成長したのでうまくそれをかわせるようになった。
「まあ、美味しそうなケーキ」
食後、デザートを前にするお姉様と目が合って嫌な予感がすれば。
「はぁ……フローラ、そんな欲しそうな目で見られたら」
「お腹いっぱい。わたし、もうなにも食べられないわ」
「……そう」
お姉様がなにか言う前に、にっこりと笑って席を立つようになった。
ある休日の昼下がり兄妹三人で仲良くお買い物に出掛ける約束をしていた。
「おや、ミラベル。綺麗な髪飾りだね」
可愛いお花の髪飾りを付けて部屋から出て来たお姉様にお兄様が気付く。
「うふふ、ありがとう。お兄様」
「本当だ。お姉様、素敵!」
わたしも素直な感想を伝えたかっただけなのに。
「……フローラ」
またお姉様が困った顔をしてきたので、すかさず先手を打つ。
「その髪飾りはお姉様の髪色にとても映えるわ。わたしも、今日自分に似合う髪飾りを探してみようかな」
「いいね、オレがプレゼントしてあげるよ」
「…………」
結局その日はお兄様に髪飾りをプレゼントしてもらった。雪の結晶のような形をした髪飾りを、お兄様はわたしの髪色にとても似合うと選んでくれて。控えめに埋め込まれている宝石の色がお兄様の瞳の色とそっくりねって言ったら、お兄様はなぜか少しだけ照れたように笑っていた。
同じく何か買ってあげると言われたお姉様は最初遠慮して断っていたけれど結局指輪を買ってもらっていた。
最初は薬指の指輪が欲しかったみたいだけど、薬指の指輪は恋人にねだるモノだよとお兄様に言われ、残念そうにピンキーリングを選んでいた。
十六歳になったお姉様には半年前から婚約者がいる。お姉様より五つ年上のデインズ子爵家のご長男であるイーノック様という男性だ。
ひょろりと背が高くて優しい面立ちをしていて、いつも穏やかな人。良い人だと思うのだけれど、婚約が決まった日の夜に、お姉様は政略結婚なんて嫌だと人目を忍びお兄様の胸で泣いていた……。
それを偶然目撃してしまったわたしは、複雑な気持ちになった。
もしかしたらお姉様には心に決めた人がいたのかもしれない。親に決められた結婚が辛いであろう気持ちはわたしにも理解できるから。
わたしも、今好きな人がいる。家のためとよく知らない男性との縁談を無理やり決められたりしたらお兄様に泣きついてしまうかもしれない。
「お見合い……か」
わたしもいつか、もしかしたら近い将来するかもしれない。親の決めた相手と。
「どうしたの?」
お出掛けから帰った夜。わたしはぼんやりとバルコニーに出て将来の事を考えていた。
そうしたら体が冷えるよとお兄様がストールを持って現れた。
「……お兄様は今、恋をしてる?」
「え……突然だね。なんで?」
お兄様も今年で十九歳。婚約者がいてもおかしくない。容姿端麗で紳士な振る舞いが自然にできるお兄様だもの。社交界でもご令嬢たちの憧れの的なのに、まだ決まったお相手がいないのは不思議だった。
「わたしは、今、恋をしているの」
わたしの突然の告白にお兄様は目を丸くして驚いた顔をする。
「それは……可愛い妹から聞かされると複雑な気持ちだな」
「どうして?」
お兄様はなぜか困ったような顔をして笑った。
そういうものかしら? わたしはお兄様やお姉様に好きな人がいるって教えて貰ったら嬉しいけれど。
「お兄様は? 今、好きな人はいないの?」
わたしの問いにお兄様は少しだけ考える素振りを見せた後、白状するように口を開いた。
「……いるよ」
「っ!」
「気持ちを自覚したのは最近なんだけどね」
「その人と結婚は考えていないの?」
「……その人には、他に好きな人がいるみたいだし。オレの完璧な片想いなんだ」
「お兄様……」
自分で聞いておいて無責任かもしれないけれど、わたしは切なげな表情を浮かべるお兄様になんて声を掛けていいのか分からなかった。
土足で踏み込んではいけない領域のような気がして、深く追及できない。
きっと想いを告げても困らせてしまうだけだから、とお兄様は言う。
「お兄様に好きって言われて嫌がる女性なんていないと思うわ。だって、お兄様はわたしの自慢のお兄様なんだから」
わたしまで切なくて苦しい気持ちになってきて、ぐりぐりとお兄様の腕に額を摺り寄せながらそう伝えた。
「ふふ、ありがとう」
お兄様は少しだけ泣きそうな顔で微笑んで、わたしの髪を優しく梳いた。
その後すぐに、バルコニーのわたしたちを見つけたお姉様が「なにをやっているの?」と笑顔でやってきたので、今日は楽しかったねと三人でお話して解散した。
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