インドラジットを倒せ
キシュキンダーで歓待を受けているユーディット達のもとへ、伝令がやってきた。首都オンデルの惨状を伝えるためだ。話を聞いたユーディット達は、すぐにオンデル経向かって出発しようとした。そこにスクリーヴァとハヌマーンが声をかける。
「皆さん、オンデルを襲ったインドラジットは魔王ラーヴァナの息子です。約束通り、魔王との戦いに協力させてください」
「オイラがまた手を貸すぜ!」
ハヌマーンが加勢するというのだ。ちなみにスクリーヴァはキシュキンダーを治める仕事があるので特に何もしない。
「おおっ、よろしくね!」
ユーディットが歓迎の意を表す。そういえばこいつにとってハヌマーンは可愛いのだろうか、とモルガは考えたがガネーシャのことを思い出して口に出さないことにした。
「インドラジットか……」
シュールパナカーは顔を曇らせた。自分の甥と戦うのが嫌というわけではない。インドラジットの強さをよく知っているので心配になったのだ。せめて兄のヴィビーシャナがいてくれればと思っているが、まさにその兄がジャルカーンを助けているところである。
そして四人はオンデルにやってきた。首都の前には無数の人間と羅刹の兵士達が倒れ、一人の羅刹が四本の腕を組んで立っている。インドラジットがユーディットを待ち構えていたのだ。
「お前がユーディットか」
インドラジットは噂の勇者にしか興味がなく、仲間のモルガ達は眼中にない。更にシュールパナカーの姿を直視したことがほとんどないので、彼女の隣にいる羅刹女が自分の叔母だと気付かなかった。ひどい話だ。
「気を付けて、アイツは術で自分の姿を見えなくするよ」
「へえ、よく知ってるな。だが知っていても俺様の術を破れなければ意味がないぜ」
シュールパナカーの言葉にインドラジットは笑い、術で姿を消した。身内なのに他人のような態度のインドラジットに「?」と首を傾げるユーディット達。そこに無数の矢が飛んできた。
「オイラに任せろ!」
ハヌマーンが猿の大群を生み出し、仲間をかばって矢を防ぐ。撃たれた猿は倒れて消えた。肉の壁である。生きた猿の軍勢だったらとんでもなく非人道的な防御方法だが、この猿達はハヌマーンが自分の体毛を術で変化させたものなのでコンプライアンス的にも安心だ。
ハヌマーンがどんどん猿を生み出し、それをインドラジットが片っ端から殺していく。インドラジットにダメージは与えられないが、確実に消耗させることができる実に上手い戦法と言えよう。
「……で、どうしよっか?」
ハヌマーンが相手をしている間にユーディット達は見えない敵の撃退法について話し合った。
「猪になって走り回るか?」
「普通に避けられるだけだと思う」
「ダンスでこの一帯を全て消滅させればいける!」
「「やめて!」」
全てを破壊する案は却下され、対処法が決まらない。そこにジャルカーンとマナティーがやってきた。
「ユーディット、君にインドラジットの撃破を頼みたい。奴の弱点を教えてもらったのだが、我々では倒せないのでな」
「これはジャガンナート討伐の報酬よ。モルガちゃんを強くしてあげてね」
マナティーが各色の上級ドリンクを手渡す。これを飲めば先のジャガンナート討伐の徳により更なる力を得られるだろう。インドラジットに有効な力もあるかもしれない。
「弱点ってどんなの?」
ユーディットは受け取ったドリンク剤をモルガに渡し、インドラジットの弱点を聞いた。誰から教えてもらったのかは尋ねない。世の中にはダルマ師匠のような、考えるだけ無駄な存在がいるものだ。彼等はバラモンと呼ばれる高位の僧侶であったり仙人であったりして、分類的には人間だが神々をも凌ぐ力を持っている特別な存在なのだ。今回インドラジットの弱点を伝えたのはバラモンではなく魔王ラーヴァナの弟であるヴィビーシャナだが。
さて、その重要な弱点とは……?
「奴は……法螺貝に弱い!」
おっとここに来て過去のなんだかよく分からないアイテムがキーになる展開だ! 話によるとインドラジットの術は法螺貝を吹く音で解除されてしまうという。
「アタイ知ってるよ! それって神様が吹く法螺貝じゃないとダメなんだって」
シュールパナカーが補足する。つまるところ、神の化身に姿を変えて法螺貝を吹かなくてはならないということだ。それができるのはこの場でただ一人、モルガだけである。
「ちょっと待て、俺のスキルじゃ法螺貝を吹けるような姿にはなれないぞ」
魚と亀と猪だからな。だが忘れてはいけない、モルガのスキルは自らの積んだ徳によって神からもたらされるものであり、今まさに新たなスキルを覚えるための条件を揃えたところなのである。
「大丈夫、そのドリンクでなんかいい感じのスキルを覚えればいいんだよ!」
ユーディットが深く考えずに大丈夫だと言う。合っているがこの娘に根拠はない。当然モルガは不安になった。
「ところで法螺貝はどこにあるの?」
以前モルガは法螺貝をギルドのおっさんに預けていた。もちろん今もそのままである。
『ご心配なく、儂が送り届けて差し上げましょう』
そこにやってきたのがジャターユである。アルスターの町にモルガを送ってくれるようだ。そんなわけで、ユーディット達はここでインドラジットの猛攻を防いで時間稼ぎをし、その間に法螺貝を取ってきたモルガがなんかいい感じのアヴァターラに変身してインドラジットの術を打ち破る、後は全員で袋叩きという流れが決まった。
なお、この間にもハヌマーンの猿はどんどん殺されている。その数なんと六十七億! これが人間だったら人類滅亡である。これだけ戦ってもインドラジットには疲れる様子がない。とんでもない化け物だ。
さて、モルガは法螺貝を取ってきた。相変わらずインドラジットは姿を消して矢を放っている。さすがのハヌマーンもそろそろ毛が無くなりそうだ。
「よし……まずはドリンクを飲むぞ!」
モルガは全ての色のドリンクを飲んだ。これによりあらゆる能力が強化され、新たなスキルを覚える。
「どれどれ……『アヴァターラ・ラーマ』だって。弓が得意みたい」
もはや決まっていた展開ではあるが、当たりを引いたようだ。弓が得意という時点で人型の化身であることは確実。モルガもホッと胸をなでおろした。
「じゃあハヌマーンもそろそろ限界だし、さっさとやるぞ、ニルヴァーナ!」
モルガが特別な言葉を口にすると、その身体から眩い光が放たれる。数秒後、光の収まったその場には一人の美男子が立っていたのだった。ラーマは人間の王子としてこの世に現れるヴィシュヌの化身である。強く、優しく、美形のラーマを見たシュールパナカーは一目で完全に魅了されてしまった。
そして美意識のおかしい変態が口を開く。
「モルガちゃん、カッコいい!」
ええーーーーっ!?
「え、どういうこと?」
モルガも困惑している。思わず鏡になるものを探して自分の姿を映すが、どこからどう見ても絶世の美男子である。ユーディットは何か変なものでも食べたのだろうか?
『どういうことだ!』
あまりのことにガネーシャが現れた。あーもうめちゃくちゃだよ!
「何でもいいから早くアイツの術を解いて! オイラもう限界だよ」
『おっと失礼』
ハヌマーンの声で我に返ったガネーシャは、そそくさと帰っていった。せっかく来たんだから何か手助けでもすればいいのに。ユーディットとシュールパナカーはモルガとガネーシャの反応の意味がよく分からずキョトンとしている。
「すまん、今吹く!」
モルガが法螺貝を口にくわえ、息を吹き込んだ。
ブオオー、ブオオー。
「なにっ、俺様の術を破るだと!?」
ついに姿を見せたインドラジットが驚愕の表情を見せる。
「なんか凄いことになってるネ!」
そしてスキュラも現れた。
「えっ、スキュラ!?」
モルガは忘れているが、この法螺貝はスキュラを呼び出すための道具である。もちろん用は無い。
「呼ばれたから来たヨ! 状況は大体分かったから心配しないでネ」
話の早いタコ娘、そそくさと二人の人間(ジャルカーンとマナティー)を守りながら後方に下がった。これは便利な女。
「さすが、モルガはモテるねぇ……」
シュールパナカーの呟きに背筋が寒くなるモルガだった。いいからさっさとインドラジットを倒せよ。
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