ダルマ師匠の技伝授
「見るがよい。これぞ世界をも破壊する究極の破壊ダンス『ターンダヴァ』!」
なんと、ダルマ師匠はその場で踊り出した! さっきの攻撃はなんだったんだーー!!
「いや、世界を破壊する気はないんだけど」
ユーディットすら素で突っ込んだ。なんということだ、この世の終わりに違いない!
「まあまあ、騙されたと思って儂の動きを真似するのじゃ」
ダルマ師匠は腰をクイクイッと振りながらダンスを促す。そんなダンスができるなら何のために杖をついて歩いてるんだよ。
ちなみにターンダヴァとは破壊神シヴァが世界を破壊する時にやる踊りである。かなりガチな世界破壊ダンスだが、シヴァがやるから世界が破壊されるだけで、同じダンスを人間がやっても世界は壊れない。安心だな!
「こう?」
ユーディットがダルマ師匠を真似てステップを踏む。すると凄まじい振動が発生し、床にひびが入る。確かに破壊のダンスのようだ。とりあえず屋内でやるのはやめろ。
「腕の動きはこうじゃ!」
両腕をそれぞれ別の方向に回転させ、胸の前で合掌する。ユーディットが真似してやると、合わせた両手から衝撃波が発生し、暴れナンディが倒れた。ナ、ナンディーーーーー!!
「そこから顔を左に向けてこう!」
左腕をひねりながら伸ばし、右腕は肘を曲げながら反対側に振り上げポーズを取る。掌から放たれたエネルギーが壁を打った。
「さっきから部屋が大変なことになってるんだけど!」
「安心せい、壊れたものは後で元に戻す。破壊の後には創造あり。破壊と創造を繰り返して世界は回っていくのじゃ」
なんだかよく分からないことを言ってユーディットを安心させるダルマ師匠。ちゃんと直せよ?
「その首を左右に動かすの、どうやるの?」
「アイソレーションか、気合じゃ」
気合いがあれば何でもできる。気合だー! 実際には首を動かす練習を毎日地道に繰り返すしかない。
「ぬぬぬ……」
「腕が足りないから完全に再現はできぬが、十分な威力は出せるようになる。身体が動きを覚えてしまえば、戦いのあらゆる場面で攻撃に転じることができるぞ」
こうしてユーディットのダンス特訓が始まるのだった。炎の剣の立場がないかと思いきや、ダンスの中で剣を使う動きもあった。確かにマスターすれば戦いのあらゆる場面で繰り出せそうだ。家がどんどん壊れていくが、ちゃんと元に戻せるんだろうな?
一方のモルガ達である。ジャターユはどんどん空を昇っていく。背中に乗るモルガ達は行き先が天上の世界であると察していた。デーヴァ神族が暮らす場所である。神と言っても魔王ラーヴァナに財宝を奪われてモルガに復讐させようとしているような連中なのだが。
「もうすぐ着きますよ。プラジャーパティ達はダクシナの地におります」
ジャターユの案内を受け、三人はダクシナという場所に向かう。地面が見えてきたところで、シュールパナカーが疑問を述べた。
「至高とか究極のマンゴーって神様の化身なんでしょ? そんなのを簡単に貰っちゃっていいの?」
『フフフ……もちろん簡単ではありませんよ。プラジャーパティが出す試練に打ち勝たなくてはいけません』
「えーっ! そんなの聞いてないよ」
タルマッドが抗議の声を上げるが、竜王の娘が家出をして探し回るような代物を無条件で貰える方がおかしいだろう。
『ご心配なく。あなた方なら問題なくプラジャーパティの試練を乗り越えるでしょう』
そう言ってモルガ達を地面に降ろすと、ジャターユはそこに座り込む。
『この道を真っ直ぐいけばプラジャーパティ達がいます。目当ての木がどれかは話しかけて聞くと良いでしょう。食べるなら全てを制覇することをお勧めしますけどね』
なにやら含みのある態度でマンゴー全制覇を勧められた。こういう時は素直に聞いておくと良いことがあるものだ。
「そうね、せっかくだから食べ比べしてみるのも良さそう」
「でもそれ、試練を十回受けることになるんじゃ」
「面白そうじゃない、アタイやってみたい!」
尻込みするモルガを、女子二人はやる気満々で引っ張っていくのだった。
『……あの者のことはプラジャーパティ達が見極めてくれるじゃろう』
三人の背中を見送り、老ハゲタカはポツリと呟いた。
ダクシナの地は神の地でもあるだけあって、美しい景色に包まれていた。道は真珠色に輝き、目に入る野原は淡い黄色の花で覆われている。立ち並ぶ樹木は様々な実をつけているが、マンゴーは見当たらない。どうやらマンゴーはプラジャーパティだけがつける実のようだ。
「綺麗なところねー」
すっかり観光気分で景色を楽しみながら歩くタルマッドを見ながら、モルガはユーディットのことを考えていた。至高のマンゴーを食べるために家出した竜王の娘は、やはりユーディットを思い起こさせる。モルガは美しい景色の中を歩く少女を見ながら、家に残してきた少女は今も牛に飛ばされているのだろうかと思いを馳せた。その相手は踊りながら自分達の家を廃墟に変えているところだ。
「あっ、なんかいかにも凄そうな木が見えてきたよ!」
しばらく歩くと、前方に光り輝く十本の木が見えてきた。遠目からも分かる、みずみずしいマンゴーの実を沢山つけた木だ。あれこそが神樹プラジャーパティに違いない。
『よく来た、我が子らよ』
その木の方向から、モルガ達に呼びかける声が聞こえてくる。
「今度は木が喋るのか」
魚も喋るし木も喋る。竜王シェーシャはあんな調子だし、もはや何がどんな言葉を喋っても驚かないモルガである。
「マンゴー食べさせて! 全部の種類! 私の渇きを癒してちょうだい」
「アタイも食べたい!」
タルマッドは自分の要求を伝えた。シュールパナカーはむしろ試練がどんなものか気になっている。モルガは試練を受けてまでマンゴーを食べたいとは思わなかった。そりゃそうだ。
『よかろう、それでは我等の試練に打ち勝つのだ。レッツダンスターーーーーイム!』
光り輝く神樹がクネクネと動き始めた。またダンスかよ!
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