ユーディットの修行
ダルマ師匠に貰ったお土産のナンディ像は持って帰るのが大変なのでその場に置いておいた。後で町長に荷馬車でも用意してもらうつもりだ。魔神退治なんて無茶な依頼を達成したのだから思いっきりこき使っても許されるだろう。許した。
「アタイも一緒に行くよ! 冒険者ってのも面白そうだし」
シュールパナカーが同行を申し出た。冒険者になってパーティーを組もうという提案だ。戦力的にも人柄的にもまったく断る理由はないのだが、ユーディットは本気で彼女を可愛いと思っているのでモルガがシュールパナカーと結ばれてしまうのではないかと不安に思っていた。モルガも外見にこだわる方ではないので可能性はなくもないが……いや、ないな。
とはいえ、やはりユーディットはシュールパナカーのことも気に入っているので仲間になるのは嬉しいと思っていた。ちなみに彼女が魔王の妹だということを知る者はダルマ師匠以外にいない。
「それじゃあ帰ったら冒険者ギルドにいこー!」
例の強化素材である薬草は、モウヤン村に帰ったら村長が沢山持たせてくれた。魔神を倒してくれたお礼だという。牛の置物もプレゼントしようとしてくれたが、もうあるのでお断りした。ダルマ師匠が自腹を切った意味は……。
「色々あったけど、終わってみるとあっという間だったな」
「楽しかったよ、また同行する機会があったらよろしく!」
「バウッ」
村からの帰り道。モルガが感慨にふけっていると、ザインとダイちゃんは別れを告げた。また別の材料を探しに行くのだという。
「そういえば、俺も苦行をすればドリンク剤を飲まなくても強くなれるのか?」
ザイン達の背中を見送り、モルガが誰にともなく呟く。ゴブリンだったルンバも魔神になったし、理屈で言えばなれるはずなのだが。実はそう甘くもない。
「そうもいかん」
神出鬼没のダルマ師匠がまた都合よく現れる。モルガに厳しい現実を教えるためだ。
「そうなの?」
「
面倒くさい制限が加わった分、神の査定は甘くなるということだ。悪い話ではない。それにしても、とうとうブラフマーの名前が出てしまったな。どうせこいつらは覚えられないだろうが。
「なるほど、いいこともあるなら文句は言えないな」
「頑張って錬金するね!」
「ユーディットの成長が先じゃぞ」
「アタイじゃ作れないのね、残念だわ」
思い思いの言葉をしゃべると、当面の目標はユーディットが苦行をして力をつけることだという認識で統一される。だがここでダルマ師匠がまた余計な……おっと、新たな提案をしてきた。
「ナンディの苦行はいつでもできるじゃろ。それとは別にユーディットは修行をするのじゃ」
「修行? 苦行とは違うの?」
「苦行も修行の一部じゃ。ダルマの教えに従って善行を積むこと、それが修行。お主は今、ダルマにそぐわない立場であるな」
「えーっ? 私はいつもいい子だよっ!」
いい子……?
ユーディットは、あまり常識的な善人ではないが、確かに悪事を働いたりはしていない。冒険者になってからは。だが、ダルマ師匠が根本的なところを突いてきた。
「お主、親の剣を盗んで家出してきたじゃろう」
はい、
「そういえばそんなこと言ってたな」
「忘れてた!」
忘れてたのかよ! ちゃんとけじめをつけないとダメだろ。ていうか親は探しに来ないのか?
「ユーディット、家出してきたの? アタイはちゃんとアニキに言ってきたよ、いい男を捕まえてくるって」
それはそれで永遠に帰れなそうだが。
「こんなにずっと放置されてるって、お前の親は一体何をしてるんだ?」
モルガが当然の疑問をユーディットにぶつけた。これまでも気にしていなかったわけではないが、深い事情があるかもしれないと詮索しないようにしてきたのだ。事ここに及んでは、彼女の事情を詳しく聞く必要がある。問題を解決しないと彼等の旅もここで終わってしまうのだ。
「それがねー……」
三人に見守られながら、ついにユーディットが自分の素性を語り始めるのだった。一体どんな複雑な家庭環境で育ったのだろうか? 礼儀作法もなってない、字もろくに書けない、ステーキをナイフで切らない野生児が、高価な炎の魔法剣を家から持ち出しているのだ。とんでもない過去が隠されているに違いない!
「うちのお父さんは商人で、これは売り物なんだー。お母さんは主婦」
普通だった。いや、まだだ! 娘を探しに来ない理由があるはず!
「なんで親は探しに来ないんだ?」
「たぶん忘れてるんじゃないかなー」
忘れるの!?
この娘にしてこの親あり、こんな変態を生んだ両親だ。はっきり言ってまったく違和感がない!
「そんじゃ、ご両親に挨拶に行きましょ。魔神退治の報酬で正式に買い取ればいいでしょ」
シュールパナカーがごく普通の解決策を提示し、三人はアルスターの町で用事を済ませたらユーディットの生家に向かうことにしたのだった。
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