新たなスキル
ユーディットはクラーケンの目玉を二つ持ち帰った。これの意味するところは、一つ。スキルチャレンジを二回やるということだ。
「ふんふーん、材料を煮込んで……目玉ドーン!」
無造作に巨大な目玉を鍋に入れる。どう見ても鍋の直径より目玉の方がデカいのだが、構わず鍋の上に乗せた。
「それでいいのかよ!?」
「錬金術だから大丈夫!」
何の根拠があるのか分からない発言をするユーディットだが、伝説の剣すら作れてしまうと噂の錬金術ならなんでもアリと言っていいのかもしれない。
しばし鍋を火にかけていると、突然目玉が鍋に吸い込まれていくように消えていった。
「おおっ、マジだ! 錬金術ってスゲー!」
前回のこともあるので無邪気に信じるモルガだが、ユーディットは何も考えてないぞ!
同じことを二回繰り返し、二本分の黄色ドリンクが完成した。もうガルーダの心臓入りドリンクを飲んでいるモルガは、生意気にも材料の大きさ以外にはビビっていない。
「よーし、出来たよ! 下に持っていって一つずつ鑑定してもらおう」
二つとも一度に飲んだら楽しみが減るという理由だ。何か悪い結果が出るかもなどとは欠片も思っていない。こんなことを言いつつもまた他の色のドリンクを作れるだけ作ってモルガに飲ませている。この女に迷いという言葉は存在しないようだ。
「いいぞ、一本ずつ飲んでみろ」
筋肉オヤジも楽しそうに引き受ける。何が出るか分からないスキルを確かめるのは、不思議な中毒性がある娯楽のようだ。実際モンスター使いにはついつい熱くなりすぎて散財する者も少なくないらしい。
「じゃあ一本目……うおおお、熱くなってきた!」
モルガがドリンクを飲むと、前と同じように身体が熱くなった。ちゃんとスキルを覚えたようだ。
「どれどれ……『弱体化レベル3』か」
「弱体化!? メッチャ弱くなるってことかよ、大ハズレじゃないか! 嫌だああああ!!」
スキル名を聞いたモルガ、マツヤのような激強スキルを覚えられる期待感から一転、この世の終わりのような絶望感に襲われた。床に両手両膝をついて落ち込む。ギャンブルにつきものの負け犬のポーズである。やっちまったな!
「大丈夫だよモルガちゃん! どんなに弱くなっても私の愛は不滅だから!」
意味不明な慰めをする変態である。そんな二人を見てひとしきり笑ったオヤジは、一息つくとニヤニヤしながらモルガに話しかけた。
「安心しな、モルガ。これはアクティブスキルだ」
「アクティブスキル……って自分の意志で発動するスキルか。誰がわざわざ自分を弱くするんだよ?」
「そうじゃない、これは相手を弱体化させるスキルだ。しかもレベル3だぞ。上手く決まれば下手な覚醒スキルよりも強いかもしれん。大当たりだぞ!」
「マジで!?」
「マジでマジで!!」
なんと、超強力な
「ま、弱体化は対策されるスキルの筆頭だからやみくもに使っても意味がないけどな。しかも強力な分、精神の消耗が激しい」
「なんだ、使いどころが限られるのか。でもハズレじゃなくて良かったぜ!」
「やったね! でも欲しいスキルはヴィシュヌセットだから、はいもう一本」
余韻に浸る間も与えず、次のスキルを覚えさせるユーディットだった。
「そう簡単に目当てのスキルが覚えられるかよ……うおおお、熱くなってきた!」
もうそれはいいから、さっさと鑑定してもらえ。モルガは熱がおさまるとオヤジに顔を向けた。
「さてさて、今度はどんなスキルかな……って、おいおいマジかよ」
「なんだよ、もったいぶらないで教えてくれよ」
「今度は何を覚えたのー?」
「『アヴァターラ・クールマ』だ。目当てのヴィシュヌセットだぞ。どんだけツイてるんだ、お前等」
なんと、二つ目のアヴァターラスキルを覚えた! 知ってた。
「それで、どんな効果なんだ?」
「ああ、〝表向きの〟効果は身体を硬くするかわりに動きが遅くなるアクティブスキルだ」
身体を硬くする。一言で言ってもどの程度有用なのかよく分からないが、マツヤのことを考えるとこの効果自体も相当使えるに違いないとモルガは思った。ユーディットはやはり何も考えていない。
「硬くなって遅くなるのか、盾になる感じかな?」
モルガの脳内には全身を金属の鎧で覆った鎧騎士の姿が浮かんでいる。他の二人も似たようなものを想像したようだ。
「それで、次の依頼は?」
ユーディットはまた次の依頼を欲しがる。クラーケン退治の報酬はさっきモルガのドリンクに化けたからな。ちょっとは装備を整えたりすればいいのに。だがオヤジは渋い顔をする。
「それが、今はちょうどいい依頼がないんだ。お前等のようなカモ……じゃない働き者は、馬車馬のごとく働かせてやりたいところなんだがな」
ちょっと言葉を取り繕ったのに、その後に続く言葉で台無しである。だがユーディットはそんなことより依頼がないことに落胆した。
「えーーーっ! モルガちゃんのスキル見たいのにぃ!」
「いや、硬くなっても見た目は変わらないだろ」
「しょうがないなー、何か面白いことがないか町を見て回ろっ」
「ここんところ働いてばっかりだしな」
仕方がないので、二人はとりあえず暇つぶしに町を散策することにするのだった。
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