強力スキルの弊害

 ユーディットも落ち着き、さあ帰ろうという時になると、スキュラはモルガに法螺貝ほらがいを渡した。


「これを持ってってネ」


「なんだこりゃ、でっかい貝だな」


「これを吹くと、なんと! スキュラちゃんと連絡がとれマス!」


「どういう仕組み!?」


 連絡が取れたからなんだという話だが、その前にどこで法螺貝を吹けと言うのだろうか。町中でブオーブオーと鳴らしたら迷惑極まりないぞ。


「むむ、これで私に隠れてこっそりと連絡を取り合ったら許さないんだからね!」


 相変わらず嫉妬というか独占欲を発揮している変態だが、どうやってこっそり法螺貝を吹くのだ。


「また来てネ!」


 何はともあれ、スキュラと町の人々に見送られてアルスターの町に帰る二人だった。


 さて、今回の目的は単なる依頼の達成ではなく、錬金術の材料になる強力なモンスターの素材を入手することだったのだが、目当てのスキュラは倒していない。だがユーディットはご機嫌だ。その理由は……?


「ふっふっふ、あのイカタコから目玉を二つ取ってきたのだ!」


「また気持ち悪いもんを取ってきたな」


 クラーケンを解体したついでに目玉を拝借していたらしい。しかも二つ。これで二回チャレンジできるな!


「あんなでっかいモンスターだし、絶対強いスキル覚えるよ!」


「強いスキルを覚えるにしても、『ヴィシュヌ』のセットだと良いんだがな。別の覚醒スキルとか覚えたら収拾がつかなくなるぞ」


「大丈夫だいじょーぶ!」


 モルガの心配は実に正しいのだが、ユーディットは楽観的だ。もちろん根拠はない。まあ、大丈夫なんだが……ゴホン。




 さて、二人は冒険者ギルドに戻ってきた。今回の一件は既に騎士団経由で王国中に広まっており、ユーディット達を迎えた門番が「今度の休みは海に行けるよ」と感謝の言葉を述べたほどである。これまでとの態度の違いにモルガも動揺を隠せない。


「よくやったな! いいスキルを覚えただろう?」


 ギルドのオヤジがニコニコ笑顔で出迎える。やはり気持ち悪い。


「ああ、とんでもないスキルだったよ」


 そして口の軽いモルガである。ちなみにユーディットは誤解からモルガを追いかけまわしていたのでマツヤのことを知らない。いつかあの魚からはぎ取ろうとか考えている。


「えっ、息ができるだけじゃなかったの?」


「それが……」


「ちょっと待った!」


 ユーディットに説明しようとしたモルガだったが、オヤジは何かを察したようですぐに話を止めた。


「モルガ、アヴァターラ系のスキルを取得した人間やモンスターは過去にもそこそこの数がいたが、誰からも鑑定で見えるもの以外の効果について報告がない。なぜだか分かるか?」


 そして、真剣な表情でモルガに問いかける。


「えっ? 誰も解放したことがないとか?」


 オヤジはモルガの言葉に片眉をピクリと上げて、咳ばらいをする。


「ゴホン! ……今の言葉は聞かなかったことにしてやる。『ヴィシュヌ』セットのスキルは覚醒スキルでも特にレアなスキルだ。本気で覚えようとしたら相当な強運か莫大な財産を必要とする。それがもし今知られている以上の有能スキルだと知れ渡ったら、取得を狙う者が大量に現れるだろう」


「確かにー!」


「今回のクラーケンの話は聞いている。もしあれを倒したのがそのスキルの力だったのなら、欲しがるのは個人だけではない。間違いなく国家レベルで囲い込みが行われる。そうなったら、お前等の錬金材料はとてもじゃないが店では買えなくなるだろう。それどころか、スキルを巡って戦争が巻き起こりかねない」


 オヤジの話は誇張でもなんでもない。あのクラーケンを一人で倒せるほどの強力なスキルを取得している者は、存在を知られた時点で例外なく国家に狙われる。多くの者は自分の住む国の正規軍で雇われ、それ以外の者は暗殺されている。


「そ、そんなヤバい話だったんだ……」


 モルガはブルブルと震えている。事の重大さにやっと気づいたのだ。ユーディットは「材料が買えなくなったら困るー」と呑気なことを言っている。


「まあそんなわけで、クラーケンを倒したのはユーディットってことにしておけ。あと材料も仕入れておいたからしっかり金を落としていけよ?」


 オヤジは金が儲かれば何でもいいらしい。話が終わり、報酬を受け取った二人は早速材料を買いに販売所へ行く。と、そこには先客がいた。


「やあ、活躍してるそうだね。立派なゴブリンマスターへの道を歩んでるね!」


「バウッ」


 ザインである。従えているダイアーウルフのダイちゃんは前に見た時より一回り大きい。


「そういえばダイちゃんはどんなスキル覚えてるの?」


 珍しくユーディットがモルガ以外のモンスターに興味を持った。何故か変な対抗意識を燃やしているから、敵情視察といった目的だろう。だが、ザインは愛するダイちゃんの話を振られて満面の笑みを浮かべる。なんだろうこの似た者同士感は。


「ダイちゃんはね、『肉体強化レベル3』を覚えてるよ!」


「レベル?」


「通常のスキルにはレベルがあって、レベル1が普通、レベル2が上級、レベル3だと達人級になるんだ」


 つまり、ダイちゃんはヤバいレベルで肉体強化されているらしい。


「覚醒スキルにはレベルはないの?」


「ないねー」


 そんな話をしつつ、ドリンク剤の材料を買うユーディット達だった。

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