海の魔物
一方その頃、陸の上ではユーディットが銛を構えてモルガを心配していた。心配しなくても海底でイチャついてるぞ。
「モルガちゃんが上がってこないよー、スキュラに捕まっちゃったのかな?」
確かに捕まっている。ユーディットが想像しているのとはまるで違う形でだが。そんな彼女の目に、想像よりずっと大きな影が海中を泳いでいるのが見えた。
「あれは……クジラ?」
ちなみにその影は細長い胴体から長い触手のようなものが何本も生えている。どこの世界にそんなクジラがいるのだろう。いや、ユーディットの家ではアレをクジラと呼んでいるのかもしれない。
「タコですよ! スキュラが出たんです!」
ついて来たらしい地元の人がツッコミをいれるが、この影は全長数十メートルはある。そんなにデカいスキュラもいないぞ。あとタコはもうちょっと丸いんじゃないかな?
「あれがスキュラ!? モルガちゃん食べられちゃったの?」
食べられてはいない。そしてユーディットは銛を構え、影に向かって投げた! それも沢山!
「モルガちゃんを返せー!」
だから食べられてないってば!
◇◆◇
「ん? なんか暗くなった気が」
そしてモルガとスキュラ。二人というべきか二匹というべきか、そいつらは背後に現れた巨大な生物にやっと気づいた。
「なんだありゃ! タコ? イカ? どっちだ」
その巨大な生物は、イカのような胴体をしているが触手の形状はタコのそれ。大して違いはないように思われるかもしれないが、実際目の当たりにするとイカとタコの触手はかなり違う形をしている。
そんなイカとタコのキメラは、クラーケンと呼ばれる海の魔物だ。その巨大な触手で船を掴み、海に沈めてしまう。スキュラの仕業だと思われていた被害は、こいつの仕業だったのだ!
サイズからしてまるで違う二種類のモンスターを取り違えたのは、地元の住民と騎士団のモンスター知識の違いによって起こった勘違いによるものだ。住民はクラーケンの姿を想像して蛸足の怪物が現れたと訴え、騎士団がスキュラを目撃して攻撃するも逃し、騎士団の報告から住民がクラーケンのことをスキュラだと思うようになってしまったのだ。監視の騎士は何をやっていたのか。思い込みの力とは恐ろしいものである。
「クラーケンだ! こんなところに現れるなんて、聞いてないゾ!」
そりゃ誰も言ってないからな。スキュラにとってもクラーケンは脅威である。これまではスキュラが海底に隠れ住み、クラーケンが広い範囲の海を泳いで周回していたため、姿を見ることがなかった。
「なるほど、あいつが真犯人か。でもあんなの倒せないぞ」
ドリンクとスキルで強化されているとはいえ、モルガでは太刀打ちできない。ククリナイフを取り出して軽く振ってみるが、とてもクラーケンの巨体に有効なダメージを与えられる気がしなかった。
そこに、本能が危険を告げる。海上から強力な攻撃が迫っているのを感じた。モルガは、この攻撃に覚えがある。
「銛だ!」
「モリ?」
何のことか分からないスキュラは首を傾げる。頭上の危険にも気付いていない。だがモルガには銛の降ってくる軌道まで感じ取れた。マツヤの力だ。その一本が、スキュラの身体を貫くルートを通っている。すぐにモルガは彼女の手を引き、力いっぱい泳ぎ出した。
「ぬおおおお!!」
「なになに?」
バシュンッ!
間一髪、捕鯨用の銛がスキュラの脇をすり抜けて落ちていった。
「あっぶねー……やみくもに投げるなよな」
なんとか危険を回避し、一息つくモルガ。その後ろでスキュラが感動している。
「助けて貰っちゃった……いやーん、嬉しいゾ!」
「ムギュー!」
そしてまた抱きしめられるゴブリンだった。
ところでクラーケンには何本か銛がヒットした模様。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます