ゴブリンマスターになろう!
「スキルには、魔法のように使用して効果を得るアクティブスキルと、ただ覚えているだけで恩恵が得られるパッシブスキル、更に特定のスキルを複数揃えることで真の力を発揮する覚醒スキルがある」
オヤジがスキルの種類を説明する。もうモルガが何を覚えたのか予想がつくな!
「へー、それでモルガちゃんは何を覚えたの?」
「まあ待て、まだ続きがあるんだ」
どうやらまだ話は終わっていないらしい。もったいぶらずにさっさと言えよ。
「覚醒スキルにも、それ自体が単独でスキルとして有用なものもあれば何の効果もないもの、そして覚醒するまでは本人が弱体化するマイナス効果を受けるものがある」
おっと嫌な予感しかしないぞ! モルガは察しがついたのか顔をしかめている。ユーディットは察していない。
「モルガ、お前が覚えたのは『ヴィシュヌ』と呼ばれる覚醒スキルセットの一つ、『アヴァターラ・マツヤ』だ。このスキルセットは今まで揃えた者が存在しない、謎の覚醒スキルとして知られている」
「おおっ、それって大当たりってことだねっ!」
確かに誰も揃えられなかったということは最もレアリティの高いスキル群であることは間違いないだろう。だが無邪気に喜んでいい話ではない。
「それって、まず覚醒はしないってことだろ? その『アヴァターラ・マツヤ』ってどんな効果のあるスキルなんだよ」
「うむ、これを覚えた者は……なんと水中で呼吸ができる!!」
弱体化じゃない……だと?
「えっ、地味だけど相当使えるスキルじゃないか? なんで脅かしたんだよ、絶対弱体化すると思ったぞ」
「ハッハッハ、こう言ったら絶対ビビると思ったからな。『ヴィシュヌ』のスキルセットに弱体化スキルはないぞ、良かったな!」
ただ脅かしたいだけだった。金に汚いし名前はジョセフィーヌだし、ろくでもないオヤジだな。
「良かったねー、こうなったら『ヴィシュヌ』セットを揃えちゃおう!」
絶対最後の一つを覚えるのに地獄を見るやつだぞ、それ。
「まあ、弱体化がないならいいけどよ。ちなみに全部で何個あるんだ?」
「十個だ。頑張って揃えろよ!」
「多いわ!」
「よーし、やるぞー!」
そんなわけで、二人の目標は十個の激レアスキルを覚えることになった。大丈夫か?
「じゃあ黄色ドリンクを沢山作るんだな?」
「うんにゃ、とりあえず紫と赤と青のドリンクを作ってモルガちゃんを強化するよ」
まさかの堅実! ユーディットは各色の材料を二セットずつ購入した。これで所持金が一万ゴルドまで減る。もうこれ以上ドリンクの材料を買い揃えることはできない。
「意外にちゃんと強化するつもりなんだな……お前さんならきっとゴブリンマスターになれるぜ」
目指せゴブリンマスター! うーん、これは流行らない。
「やみくもにスキルを覚えさせられるのかと思ったぜ」
「ふっふっふ、良いスキルを引けたのはガルーダの心臓を入れたからだと思うんだよねー。だ・か・ら! 強いモンスターの心臓をゲットしてから挑戦するのだ!」
変態なりに考えているらしい。恐らく彼女の考えは当たっている。だが問題は、その材料をどうやって集めるのかということだ。
「強いモンスターを狩るのは楽なことじゃないが、水中で呼吸できるならちょうどいい相手がいるぞ」
そして、ユーディットの言葉を聞いたオヤジがニヤリと笑う。水中で呼吸できるのはモルガだけだぞ。
「なになに?」
「また嫌な予感が……」
オヤジは机の下から一枚の依頼書を取り出した。そこには、こう書かれている。
――スキュラ討伐依頼。報奨金十万ゴルド。
「海に住む魔物だ。蛸の足を持つ女だが、厄介なことに海の中から襲ってくるから騎士団でも対処が難しくてな。新しいスキルを試すのにもってこいの相手だろ?」
「蛸の足? なんか面白そうだね!」
「いや、怖いんだけど?」
モルガは乗り気じゃないが、ユーディットがウキウキしながら引き受けるのだった。
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