何が出るかな?

「よし、強化ドリンクを作ろう! おじさん、錬金術の釜はどこ?」


 金を得たユーディットは、早速モルガの強化を始めることにした。ついにモルガの成長物語が始まるのだ! ちゃんとレシピ通りに作れれば!!


「釜ではないが、錬金術を行うための設備は二階にある。使用料は一回百ゴルドな」


「そこでも金取るのかよ!」


 モルガの抗議は無視してオヤジが階段を指し示す。まあ設備を利用させてもらうのに無料というのはムシの良すぎる話だ。大人しく金を払っておけ。


「依頼で十万ゴルドもらったからそのぐらいよゆー!」


 ユーディットは懐が温まって気が大きくなっている。ちなみに一ゴルドがだいたい十円ぐらいの価値だと思ってもらおう。伯爵夫人の金払いの良さが恐ろしいな。


「材料はそこのギルドショップで買っていけ。ちゃんと強化ドリンクの材料を仕入れさせておいたからな」


 このオヤジ、昨日まではモンスターを強化する方法すら知らなかったくせに、なんという手際の良さだろう。全ては自分の店で金を使わせるための執念。恐るべき金の亡者である。


「じゃあ俺が材料を買い揃えよう。何色のやつを作るんだ?」


 モルガが買い物役を申し出る。余計なものを入れさせないための策である。これは策士。


「まずは黄色!」


「スキルから? 身体を強くした方がいいんじゃないか?」


 即答するユーディットだが、黄色はランダムでスキルを覚えるドリンクだ。モルガの肉体は一切強化されないぞ。


「特技があった方がいいじゃない! どんなスキルを覚えるか見てみたいし!」


 そう言うユーディットの目は、完全にギャンブル狂いのおっさんの目をしている。お前ただモルガをオモチャにしたいだけだろ(意味深な表現)。


「……なんか引っかかるが、スキルがあった方がいいのは確かだな。材料は買っておくから先に二階に上がっててくれ」


 半ば諦めの境地に達しているモルガは、彼女の言う通りに黄色ドリンクの材料を買って二階に向かうのだった。


 二階に上がると、そこは想像していたよりも広く、いくつかの設備が用意されている。その中で錬金術を行う場所は端にあるテーブルの上だということが、モルガにもひと目で分かった。いかにも丈夫そうな鍋に、材料を刻んだりすりつぶしたりするための器具が並んでいる。見るからにユーディットには難易度が高い。


「よーし、やるぞー!」


 当の変態はやる気満々で鍋に向かっている。その手にドクンドクンと脈打つ何かの心臓を持って。


「おいなんだそれ!」


 モルガもすかさずツッコミを入れる。どう見ても錬金術を始める人間の姿ではない。


「ガルーダの心臓だよ! なんか凄いスキル覚えそうでしょ」


 そして一切悪びれることなく言い放つユーディット。入れるにしても丸ごとはどうなんだ。というかなんで脈打ってるんだ。と心の中で思ったモルガだが、言うだけ無駄なのでザインからもらったレシピを開いた。そこには錬金術のやり方から説明されている。


「ちゃんとレシピ通りに作れよ……ここに錬金術のやり方も書いてあるから読め」


 モルガが差し出すと、ユーディットは意外にも素直に受け取る。レシピを見て作るつもりはあるらしい。


「なになにー? 水をはった鍋にミント一房クローブ一つまみ亜鉛一さじに塩少々、レモンを一滴垂らしたら仕上げのマンドラゴラ一本」


「錬金術って変わったものを使うんだなー。まあレシピに書いてあるから大丈夫だろう」


 マンドラゴラの煮汁に含まれる毒素と魔力が不思議な反応を起こして、まったく別のものを生み出すようだ。このマンドラゴラは一本一万ゴルドもする高級品である。


「よし、ここでガルーダの心臓投入!」


 おっとここで心臓の出番だ! ユーディットが手に持った心臓を鍋にぶち込んだああああ!


「おいちょっと待て! 本当にそう書いてあるのか!?」


 あるわけないだろ。


「書いてないよー」


 ユーディットは平然としている。さすがだ。心臓が投入された鍋は、急にボコボコと不気味な泡を出し始めた。ガルーダの心臓に内包された強力な魔力が反応しているのだ。


「なんかボコボコいってるぞ、大丈夫か?」


 ビビるモルガだが、見ていることしかできない。錬金術を成功させられるのは人間だけなのだ!


 もだえ苦しむかのように激しく荒れ狂っていた鍋だったが、しばらくすると静かになって中の液体が白い光を放ちだした。反応が終わり光も落ち着くと、そこにはコップ一杯程度の黄色い液体が残っていたのだった。


「ほら、できたよ!」


「うおお、確かに黄色い!」


 作業工程からはとても考えられない結果が生まれたが、これが錬金術なのだ。世の中には鍋から鎧を作り出す錬金術師もいるという。一体どういう仕組みなのだろうか?


「ささ、ぐいっと!」


「お、おう……これでゴブリンの俺にもスキルが身に付くのか」


 ユーディットにすすめられ、黄色いドリンク剤に口をつけるモルガ。さっきの光景は見なかったことにしている。コップに入った液体を一気に飲み干した!


「……どう?」


「なんか腹ん中が熱いぞ……うわあああ、なんかすっげー身体が熱くなってきた!」


 ひとしきり盛り上がったモルガだが、すぐに身体の熱さはなくなり、何事もなかったかのように落ち着いた。


「それで、身に付いたスキルってどうやって確認するんだ?」


「えっ、なんか頭の中に声が聞こえたりとかしない?」


 しません。


「いや、何もないけど。ユーディットは声が聞こえたのか?」


「私はスキルとかないし」


「そういやそうだったな」


 何を覚えたのかを確認する方法を聞いていない二人は、とりあえず下に降りてどうしたらいいか聞くことにした。


「覚えたスキルの確認? 俺が見てやろう」


 見た目に似合わぬ魔法使いのオヤジが、あっさりと引き受ける。これは便利。


「良かった! モルガちゃんは何を覚えたの?」


「……まずスキルにはいくつかの種類があることから説明しなくてはならない」


 オヤジはモルガをまじまじと見た後、突然かしこまって説明を始めた。


「おい、何を覚えたんだよ? 気になるだろ」


「いいから聞け」


 どうやら、分かりやすい攻撃魔法などではないらしい。二人はオヤジの説明を受けることになるのだった。

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