金、金、金!
錬金術をする場所はギルドで貸してもらえるらしい。何はともあれ、二人には金が必要だ。
「何をするにもお金が必要だねー」
「とにかく依頼こなそうぜ。どんな依頼があるんだ?」
金が欲しかったら働く。基本である。強力なモンスターを倒したりダンジョンを探索してお宝を手に入れたりするのはもっと強くなってからだ。
「んー、こんなのどう? 伯爵夫人の護衛」
「おおっ、金持ってそうだな!」
こんな奴等に護衛を任せて大丈夫なのだろうか? いや、そもそも伯爵夫人が冒険者に護衛されるというのは一体どういうことか。これは何か裏があるに違いない。だが二人は無邪気にこの依頼を受けるのだった。なぜなら金払いが良さそうだから!
「おう、絶対これを選ぶと思っていたぜ」
完全にオヤジの手のひらの上である。ちなみにザインは昨日の依頼の報酬を受け取ると、女の子達にキャーキャー言われながらダイちゃんと共に旅立っていった。
「これは伯爵夫人の秘密の依頼だ。ゴブリン退治を難なくこなしたお前達の腕を見込んで依頼書を出した。あまり人に知られたくないということなので、友達がいなそうなお前らを選んだってわけさ」
「友達ぐらいきっとどこかにいるよ!」
どこだよ。家出少女に友達などいるはずもなかった。追放されたモルガは言わずもがなである。ゴブリンが人間の秘密を知ったところで意味は無いが。
「それで、どんな依頼なんだ?」
「ああ、伯爵夫人は平民の出でな、伯爵家に嫁いだはいいが、どうしても忘れられない思い出の場所があるそうで、旦那は気にしていないようだが、他の親族には知られないように行きたいということだ。あまり深く詮索するなよ」
「お金さえ貰えるなら何でもいいよっ! むしろどうでもいいよ!」
清々しく人でなしな発言をする変態である。そりゃこの手の仕事を引き受ける人間の大半は同じ意見だろうが、言い方というものがあるだろう。
「そんじゃ、さっさと依頼をこなして金を貰おうぜ。どこに行けばいいんだ?」
モルガもまったく興味がない様子で行き先を聞く。オヤジもこいつらの性格を理解しているから依頼を斡旋したのだろう。冒険者なんてこのぐらいの方が都合がいいというものかもしれない。
「よしよし、先方には連絡を入れておくからな、ご婦人は側仕えの使用人と共に町の仕立て屋に行く。そこでちょっとした変装をして裏口から抜け出すから、お前らは店の裏で待って合流しろ」
「なんか楽しそう!」
思った以上に本格的な隠密行動に、ユーディットのやる気が刺激された。二人は言われた通りに仕立て屋の裏へと向かうのだった。
「よろしくお願いします」
店から現れたのは、二人の想像よりだいぶ若い女性だった。年の頃は二十代半ばといったところだろうか。ユーディット達は伯爵夫人という言葉の響きから勝手に中年女性をイメージしていた。
「若いっ!」
そして思ったことが口に出るやつ。
「うふふ、嫁いできてまだ十年ぐらいですからね」
町娘のような恰好をした伯爵夫人は笑って答えると、ついてくるようにと言って歩き出した。お互いに名前を聞いたりはしない。知る必要がないからだ。
そのまま町の外に出た三人は、小高い丘の上にやって来た。
「うーん、いい天気。ちょうどよかったわ」
どうやらここが目的地らしい。この辺だと危険なモンスターが現れることも滅多にない。ゴブリンと変態は心の中で、楽な仕事で大金ゲット、やったぜ! と思っていた。伯爵夫人が何やらゴソゴソと手荷物を漁っているが、特に気にせず周囲の監視だけはしている。
「さあ、出ておいで……ご飯の時間ですよ」
『グルゥアアアア!』
伯爵夫人の言葉と共に、悍ましい雄叫びが上がる。二人は背後から凄まじい重圧を感じた。振り返るまでもなく分かる。とてつもない怪物を伯爵夫人が呼び出したのだと。
ご飯の時間……一体何を食べさせるのか。これも考えるまでもないことだった。
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