モンスターを強化したい
最初の報酬は肉とナイフと宿代に消えた。二人は新たな依頼を求めて冒険者ギルドにやってくるのだった。
「モルガちゃんの強化素材を集めないといけないし、お金を沢山稼がないとね!」
「金で買えるのか、なら地道に頑張ればなんとかなるな!」
「えっ、買えないの?」
「えっ?」
そういえばどうやって強化するのか聞いていなかったと思い出したので、ついでにオヤジに聞いてみることにする。先に聞いとけよ。
「おじさーん、モルガちゃんの強化ってどうすればいいの?」
名前を聞いておきながら絶対に名前で呼ばないユーディットである。気持ちはわかる。
「モンスターの強化か? 俺はモンスター使いじゃないからなー、よく知らないんだ。悪いな」
依頼書を取り出しながら、ちっとも悪いと思ってなさそうな態度で答えるマッチョ。
「チッ、使えねーな」
そして毒を吐く変態。実に冒険者ギルドといった
「こら、悪態をつくな。依頼を紹介してもらえるだけでありがたいだろ」
ゴブリンにたしなめられる人間の図。やはりモンスター使いはモルガの方だったようだ。
「モンスターの強化だったら、僕が教えてあげるよ、お嬢さん」
「バウッ」
そこにザインがやってきた。前日の夕方に出発していたようだが、徹夜だろうか?
「おーダイちゃん、お前も強化されてんのか」
モルガはダイちゃんがじゃれついてきたので頭を撫でる。その様子をザインは微笑ましそうに見ているが、ユーディットは頬を膨らませている。
「むー、私は撫でてくれないのに」
変態の
「強化自体は簡単だ、このドリンク剤を飲めばいい。ただし、これを手に入れる方法は一つだけ。自分で作ることだ。モンスターの異常強化を防ぐために売買は禁止されているからね」
そう言って懐から取り出したのは、透明な瓶に入った紫色の液体だ。ダイちゃんが尻尾を振ってザインにすり寄っていくと、その口の中に液体を垂らし、飲ませてやった。
「紫色は身体を頑丈にする。赤色は筋力を強くして、青色には魔力を強くする効果がある。黄色は特別で、飲むと何らかのスキルを覚えるが、何を覚えるのかは飲んでみないとわからない。しかも既に覚えているスキルを忘れることもある」
ただ強くなっていくだけではないらしい。
「スキルってなに?」
ユーディットが質問した。お前そんなことも知らないのか、あれだよあれ。
「俺が使っている魔法みたいな特殊能力さ、人間は修行しないと使えるようにならないが、モンスターは色々なスキルをすぐに使えるようになるらしいぞ」
マッチョがザインの代わりに教えてやった。ユーディットが使えるようになることはないだろう。
「人間が覚えるのは大変だから、代わりに魔法武器を使うんだ。君の剣も魔法武器だろ?」
腰に差した炎の剣をザインに指差され、「なるほど!」と納得するユーディット。ところで盗まれた親は取り返しに来ないのか?
「つまり、その気になれば町を一瞬で消し炭に変えるゴブリンにもなれるのね!」
「町を消し炭にするのはやめてくれ」
変態は物騒である。
「それで、どうやって作るんだ?」
モルガが話の続きを促すと、ザインが人差し指を立てて言った。
「錬金術って知ってるかい?」
「知ってる! なんかでっかい釜でグツグツ煮込んでヒーッヒッヒって笑うやつ」
すかさずユーディットが激しく偏った知識を披露する。いや、それはいくらなんでも偏見が過ぎるだろ……。
「その通り」
その通りだった!?
「笑いはしないけどね、集めた材料を鍋に放り込んで煮込むのは変わらない。基本のレシピはあるけど、ゴブリンをどこまでも強くするなら新たなレシピを自分で作っていかないとね」
ここで嫌な予感がしたモルガ、ユーディットに尋ねた。
「ユーディット、料理は得意か?」
「ふっふっふ、任せなさい! 私がお父さんに料理を振る舞ったら、毎回『余計なアレンジをするな』と泣いて喜ばれるんだから!」
「喜んでねええええ!!」
ですよねー。
世界平和のためにも、こいつを厨房に立たせてはいけないということが判明した。大方の予想通りである。
「よし、薬を作るのは俺がやる。必要な材料を教えてくれ」
モルガも手先が器用なゴブリンではないが、余計なアレンジをしてはいけないという鉄則は知っている。ユーディットにやらせるよりは安全だろう。
だが、ここで絶望的な情報がザインの口からもたらされた。
「残念だけど、錬金術は人間じゃないと出来ないんだ。よくわからないけど神の定めたルールとかで、人間以外がやると絶対失敗するようになっている」
「なんでだよおおお!?」
理不尽! あまりにも理不尽! 一体どこの神がそんなルールを作ったんでしょうねえ?
「大丈夫だってー。なんか上手く作れそうな気がするし、名前的に!」
危ない発言はやめろ!
「それじゃあまずは金を貯めて材料を揃えるといい」
方針が決まったと見るや、オヤジが依頼書を出してきた。さすがの手際である。
「結局それに落ち着くんだな。まあいいか」
モルガは開き直った。もはや諦めの境地である。他に手がないのだから、ユーディットに任せるしかないのだ。
「モンスターの心臓とか入れたら強くなりそうじゃない?」
不吉な発言が飛び出すが、聞かなかったことにした。
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