装備を整えよう

 依頼を達成した二人は、ギルドから報酬を貰うべく、アルスターの町に戻ってきた。


「わーい、初報酬だー! なんか食べよっ」


「肉食おうぜ肉!」


 ゴブリン退治で得た金は、早くも二人の胃袋に消えようとしている。もっと計画的に使いなさい。


「よしよし、冒険者なら報酬はぱーっと使わないとな。ゴールデンバッファローのステーキがおすすめだぞ」


 ここぞとばかりに金をむしり取ろうとする筋肉オヤジである。まあ登録の時から隠そうともしていなかったが。


 はしゃぎながら席につこうとしたユーディットだが、よく前を見ていなかったために他の冒険者に肩が当たってしまった。


「おや、可愛らしいお嬢さんだ。元気なのはいいけど前はよく見ようね」


 優しくたしなめられてしまった。なんという紳士的対応だろうか。相手の冒険者は爽やか系の青年で、よく手入れされたブラウンヘアはサラサラとなびく。整った甘いマスクはいかにも女性にモテそうだ。これは恋の予感!?


「わっ、見てみてモルガちゃん。でっかい犬!」


 だが、ユーディットの興味は彼が連れていたモンスターに向いていた。とりあえず謝れよ。


「犬じゃないよ、この子はダイアーウルフのダイちゃんさ。ほーらご挨拶ちまちょうねー」


「ガウッ」


 この男もモンスター使いだった。そしてモンスターに話しかける口調が怪しい。これはダメな奴だ。ちなみにダイアーウルフは大型の狼だ。大人は体長3メートルほどになるが、ダイちゃんは2メートルほどなのでまだ子供である。


「ふんっ、なによ、うちのモルガちゃんだって挨拶ぐらいできるんだからねっ!」


「なに張り合ってんだよ……」


 謎の対抗心を燃やすユーディットに呆れた様子のモルガは、さっさと隣のテーブルについてステーキを注文するのだった。




「あっ、ザイン様だわ! いつ見ても素敵ー!」


 食事をしていると、女の子達の黄色い声が聞こえてくる。ザイン様というのはダイちゃんを撫でてニヤケ顔を見せている先ほどの冒険者のようだ。この姿が素敵かどうかは審議を必要とするところだが、ファンは多いらしい。


「あいつザインっていうのか。人気者なんだな」


「モルガちゃんの方が可愛いよっ!」


 なぜ対抗するのか。ユーディットは百人に聞いたら百人が否定するであろう主張をして、フォークを刺したステーキにかぶりついた。そこにナイフがあるから切って食べような。


「お前の狂った美的感覚はおいといて、冒険者するならあれぐらい良い装備を身に付けた方がいいんじゃないか?」


 ゴブリンのモルガすらユーディットの感覚にはついていけないようだ。こちらはナイフとフォークを上手く使い、きれいにステーキを食べている。モンスター使いはこっちの方だったらしい。これは認識を新たにしなくてはならない。


「装備ねー……」


 モルガに言われ、ステーキを豪快に歯で引きちぎりながらザインの姿を観察するユーディット。ワイルドすぎるだろ、親はいったいどんな教育をしてきたんだ。


 そのザインは、煌めく白銀のブレストプレートに額当てを身に付け、豪華な装飾のついたブロードソードを腰から下げている。おそらくこれも何らかの魔法武器だろう。


 一方ユーディットは炎の魔法剣を持っている他はごく普通の布の服を着ているだけだ。昨日までただの市民シビリアンだったのだからおかしいことはないが。


「よし、決めた!」


 どうやら装備を整える決意をしたようだ。ゴブリン退治の報酬はそれなりに多い。ザインが着ているような高級防具には手が出ないが、一通り皮鎧等を揃えることはできるだろう。


「モルガちゃんの武器を買いに行こう!」


 そっち!?


「いや、確かに俺の短剣はボロボロだけどよ、ユーディットの防具を揃えた方がいいだろ」


「あらー、モルガちゃんは優しいのねー。大丈夫よ、攻撃は最大の防御って言うでしょ!」


 誰だそんなこと教えたのは!


「そうなのか、それじゃあ武器を買いに行こう」


 そしてモルガは何の疑いもなく信じるのだった。もう好きにしろよ。




 さて、食事を終えた二人は武器屋に向かった。ザインはその後何やら依頼を受けて旅立っていったが、野宿するつもりなのだろうか? 日が傾き、辺りは少し暗くなり始めている。


「この町、案内が多くて分かりやすいねー」


「敵も迷わなそうだな」


 そんな会話をしつつ、目当ての武器屋に到着する。夕方でもまだ店は開いているようだ。


「頼もー!」


 どんな挨拶だ。ユーディットは元気よく扉を開けて店に入った。


「はいはい、いらっしゃい」


 変な客には慣れているのか、店主が笑顔で出迎える。この町の人間、変な奴に慣れすぎだろ。


「この子に強い武器を!」


 そしてモルガをずいっと前に押し出しながら、用件を伝えた。


「ゴブリン用の武器ね、ちょうどいいのがあるよ」


 町の武器屋、大体いつもちょうどいいのがある説。


「ククリナイフだ。どうだいこのフォルム、首を切って殺すのにぴったりな形をしているだろう」


 店主のおっさん(ぽっちゃり系)はククリナイフを取り出すと、嫌らしい笑みを浮かべて嬉しそうに語りだした。こいつもヤベー奴だ!


「顔がコエーよ! だけど使いやすそうだな、買えるかな?」


「大丈夫、ちょうど君達の所持金で買える値段さ!」


 なんで客の懐事情を知ってるんだよ。ユーディットはククリナイフを受け取ると、モルガが使っていたボロボロの短剣を下取りに出した。


「売れるのか?」


「ヒッヒッヒ、これはゴブリンソードって呼ばれていてね。物好きに高く売れるんだよ」


 また嫌らしい笑みを浮かべながら説明してくれる武器屋のおっさん(ぽっちゃり系)。


「今夜の宿代にするといいよ」


 どこまでも客の懐事情を気にする武器屋である。


「じゃあ宿屋にいこー! ゲヘヘ、今夜は寝かさないぜっ」


「部屋は別で」


「えーっ!?」


 こうして、二人の旅は初日を終えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る