ゴブリン、冒険者デビュー!
「これにしよー!」
ユーディットが選んだ依頼は、ゴブリン退治だった。えっ?
「それゴブリン退治だぞ。いいのか?」
ジョセ……筋肉オヤジがモルガを見つつ、ユーディットに確認する。ゴブリン好きなんじゃないのか?
モルガも困惑した様子で何を考えているのかわからない少女を見つめる。すると彼女は平気な顔をして言い放った。
「モルガちゃんを追放するような連中は根絶やしにしないと」
「待て待てーい!」
突然の絶滅宣言に、モルガとオヤジが声を揃えて制止する。変態は過激だなあ。
「俺はあいつらを見返してやりたいとは思ってるけど、復讐しようとは思ってないから」
そして優しく諭すゴブリン。どちらがモンスターなのだろうか?
「むー、分かった。でもこの依頼は受けるよ、困ってる人を助けるためにね!」
だが譲らない! しかも突然正義の味方みたいなことを言い出した! 絶対口からでまかせだ、間違いない!
「そういう目的なら俺は反対しないぜ。俺はもうゴブリンのモルガじゃなくて冒険者のモルガだからな!」
それでいいのか? とりあえず二人の意思は決まったようだ。オヤジは正式に依頼の受注者として二人を登録した。
「お前らがやるって言うならいいけどよ、依頼には達成期限がある。期限を過ぎても達成しなかったら罰金だ」
期限がないと放置する奴が現れるからな。ちなみに無理だと思ったら辞退は可能で、それにはペナルティが発生しない仕組みなのだ。
二人はオヤジに貰った地図を頼りに、ゴブリンの出没地点へ向かった。モルガが追放されたのとは別の群れだ。
「ふむふむ……ゴブリンの群れが
「俺の群れがそんな大がかりな仕事をしてるのは見たことないな。よほど大きな群れなのか?」
お前がヘタレで参加しないから大きな獲物は狙えなかっただけです。
さて、問題の場所はそう遠くないが、こいつらを狙って現れるわけもなく。何とかして群れの
「へっへ、ゴブリンのことはゴブリンに聞けってな。群れの住処は見当がつくぜ」
ここにきてモルガが強気だ! 自信満々で森に入って先を歩いていく。ヘタレのくせに!
「おー、流石はモルガちゃん!」
二人は交易路から外れて深い森へと進む。昼間だと言うのに、木々に遮られて辺りは薄暗い。この地域は温暖な気候で一年中暖かいため、森の樹木も常に大量の葉を広げ、太陽光を奪い合っている。
「ゴブリンは緑の身体を利用して
饒舌にゴブリンの習性を説明するモルガ。気分はすっかりベテラン冒険者だ。当然こいつがそんな行動をして狩りに出たことはない。
「それじゃあ、身を隠せそうな場所に住んでるんだね」
「まあそうだな。身を隠すって言っても、洞窟みたいなところに隠れ住むんだが……つまり、あそこだ」
話しながら歩き、ついにそれらしい洞窟を見つけて指し示す。ユーディットはすぐに炎の剣を抜き、戦闘態勢に入った。
「よーし、冒険者デビューを派手に決めるよっ!」
モルガも粗末な短剣を抜くが、腰が引けている。さっきまであんなに自信満々だったのに。
「お、おう……いくぜ!」
二人は、雄叫びを上げながら洞窟に駆け込んだ!
「うおりゃああああ!」
「ぶにゃあああ!」
なんだその鳴き声。ユーディットの気合いが入ってるんだか入ってないんだかよくわからない声が洞窟に響き、奥から騒がしい音が聞こえてきた。
これでゴブリンの群れじゃなかったら中の住人達からすれば凶悪なならず者が襲撃してきたシチュエーションなのだが、どうやらモルガの勘は当たっていたらしい。
「くそっ、冒険者に見つかった!」
「武器を取れー! 返り討ちにしてやれー!」
奥からワラワラとゴブリンが現れる。モルガと見分けがつかない連中だが、ユーディットが間違えてモルガを攻撃しないだろうか?
「ダメ、全然可愛くない!」
ダメらしい。どこが違うのかさっぱりわからないが、ユーディットにとってはこのゴブリン達は普通に醜悪なモンスターのようだ。
「どこが!?」
なんとモルガにも違いがわからない!
何はともあれ、戦闘が始まった。ゴブリンの群れは全部で二十匹。こちらの十倍いる。いくらユーディットが強いといっても、そう簡単に片付けられる数ではないだろう。
「はーい、汚物は消毒だー!」
おいやめろ。
ユーディットは危険なセリフと共に、剣から炎を放出した。彼女達は洞窟の入り口にいる。そしてゴブリン達は洞窟の中から出てきている。
賢明な読者諸君ならもうお分かりだろう。ゴブリンの群れは、なす
「ギャアアアア!」
「タスケテー!」
「オカアチャーン!」
地獄絵図が繰り広げられる洞窟の前で、ユーディットはモルガに尋ねる。
「ところで洞窟の中にお宝とか貯めこんだりしてない?」
「えっ? あるかも知れないけど、全部燃えるんじゃないかな」
「あー、やっちゃった。てへっ」
てへっ。じゃねーよ。
こうしてゴブリンの洞窟焼き討ち事件は終わり、二人は報酬を求めて冒険者ギルドに戻るのだった。
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