迷宮国家
第7話 逃亡者、家を買う 21/12/01
目的地だった隣国、迷宮国家ジョーダンへたどり着いてからパーフィーと別れて彼女はパーティメンバーたちの元へ帰っていった。
迷宮に挑むならまた会えるかもねと笑っていたが、ああいう声が大きい人間が欠けたあと、当然だったはずのコノハとの無言の間が居心地悪く感じるのは気のせいだろうか。
パーフィーは俺とコノハの会話を取り持ってくれていた場面もあったので、その気遣いを今になって有り難がっているのだと気づいた。
農村を出てからまともな人とのコミュニケーションはギルドの“お姉さん”と鍛冶屋のオヤジに宿屋の主人くらいしかしてこなかったので、ようやく俺も成長するための機会を得たわけだ。
それに、彼女にとっては都合のいい男なだけだったのかもしれないが、こちとら恋愛経験皆無で童貞卒業後一瞬にして失恋を経験したのだ。たとえ打算であろうとも情が湧くし,というかかなり本気で好きになってる自分がちょろいと自覚さえできる。
パーフィー、可愛かったもんな。
英雄様っ、英雄様っ、って俺のことなんども呼んできて目にハートが浮かんでるように感じた。処女を奪った俺の方が経験値あるはずなのに(クソプライド)彼女の方が積極的で押されていたかもしれない。
あれは男を誑かす魔性の女だ。もしコノハの件がなければ俺は彼女に告白していただろう……いや、コノハが居なければ今の関係にはならなかったか。たらればは虚しくなるのでよそう。
「この街であの荷車を止めれそうな宿は知らないか?」
「あのサイズの荷車となるとちょっと難しいですね。止められてももうひと回り小さいのですし。もしよろしければ家を買われてはいかがですか? この換金額だと豪邸だろうと余裕で買えますし、荷車を置けそうな物件ならすぐに見つかるでしょうし」
「なら頼む。豪邸はいらないから一般的なサイズで出来れば風呂があるところが良い」
「風呂ですか? それならちょうど一軒心当たりがあります。よろしければ今からご案内しますがどうされますか?」
「案内してくれ」
「分かりました」
案内された物件を即購入。
中心の迷宮から少しだけ離れているが遠すぎるわけでもなく、俺とコノハ二人の宿代わりとしては申し分ない。風呂は日本のものを見てきていた俺にとっては少々手狭に感じるが不足があるわけではない。無いよりは良い。
とりあえずこの国に滞在している間の寝床を確保した、と言いたいところだが、休むためのベッドもないし、生活用品も何一つなかった。
なのでコノハを連れて寝具屋や生活雑貨店、魔道具屋、服屋を見て周り、必要な買い物を済ませて早速家をコーディーネートした。仮住まいとはいえ自分の家を持つことになるので、そこまで広くない分とことん機能性を追求した。
3LDKの二階建て。一階はもともと八百屋らしく、そのスペースが車庫になる。2階の部屋は俺とコノハで一つずつ個室にし、残り一部屋を物置にして、キッチン室とリビングダイニング。あと風呂場だ。
ベッドを運び、防音と建築物の空間固定と強化を施せばちょっとした攻城にも耐えられる要塞の完成である。
リビングダイニングには食事用の二人がけのテーブルと椅子を置いて、寛ぐためのソファとカーペットを置いてある。
せっかくの家だから汚さないため、玄関で靴を脱ぐようコノハに言いつけ、スリッパを用意した。慣れないだろうがわざわざ汚れを持ち込みたくない。
その日はそれだけで終了した。
明日からはちょいと迷宮に行くと説明しながら夕食を作り、コノハに振る舞った。
ポトフもどきを受け取ってまたなんだみたいな顔してたけどごめんな。明日からはちゃんと外食にするから今日は余った食材の消費を手伝っておくれ。
そう言うと、コノハは自分が食事を作りたいと申し出てくるがまさかそんな特技がと思ったら料理初心者らしい。
ただ、性奴隷としての役割を出来ていないことに加えて、もしかしたら遠い場所で売られるんじゃないかと心配だから何かしないとと思ったらしい。
泣きながら悲壮感たっぷりに捨てないでと言われて、コミュ不足を悟った。
性奴隷なのに一回だけしか抱かないしその後放置で、他国まで来るとか、まぁ嫌な想像するよな普通。
奴隷なのに不躾なのは承知でお願いしますそばに居させてくださいって懇願されて俺がコノハのことをどうしたいのか話をしなければならないと思った。
とにかく、俺はコノハのことを捨てる気はないこと。そして、この迷宮には秘薬を探しにきたこと、俺の存在は伏せてもらっていつかは婚約者の元へ返してあげたいことなど、とにかく全部白状する。
コノハはなんで性奴隷なのにそんなことをと聞いてきたが、なんとなくだと答える。本当は罪悪感からなのだが、もちろんそのことは伏せておく。いやだって「俺、君の婚約者の幼馴染なのに間男になっちゃった」とか言ったら取り返しがつかないだろう。コノハだってショックだろうし隠し続ける所存だ。
腹を割って話して落ち着いたことだし、風呂を沸かしてコノハに使わせた。使ったことがないので勝手が分からないと言うので裸で浴室に入った後に俺が戸越しに口頭で説明することになったんだが、コノハが今無防備な姿でいると想像しただけで性欲がむくむくと湧き上がってしまう。
ほんとどうしようもないと自嘲しながら、風呂に浸かっているコノハと他愛無い会話をして、その後上がった後に俺も久々に風呂へ入ることになった。
煮汁が絞られていく感覚が懐かしい。やはり風呂はリラックス効果があるのだろう。うっかり不可抗力で間男になってしまってからまだ一週間も経っていない。
だと言うのに今も胸を苦しめるこのストレスはすでに一杯一杯だったので、解放された気分を一時的でも味わえて少し楽になった。
風呂を上がってからは明日、俺は迷宮に潜ることを改めて話して、コノハにはこの家で寛いでもらうように話した。夜はレパートリーがない俺が唯一できるポトフもどきの調理法を伝授をすることを話して就寝することになった。
目を閉じて布団に包まれていると、しばらくしてコンコンと俺の部屋がノックされた。相手は言うまでもなくコノハだ。どうしたのか聞けば夜伽にきたのだと言う。
性奴隷を買うということは性欲マシマシだと解釈されているようで自分を使ってくださいと言うがもうこれ以上幼馴染を裏切るつもりはない。今日はもう寝なさいと返そうとしたらまた不安そうな顔をしてきたので仕方なく添い寝することに。
初夜以降の同じベッドという状況であの時のことを思い出してしまってコノハのことを性欲の対象として見てしまいそうになる弱い心に鞭打った。
結局その日は寝ることはできなかった。
うちの息子さん元気すぎて、我慢するのに必死だったんだよ……。
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