第5話 俺に任せて先に行く 21/11/30
よし、朝が来た。
元気にラジオ体操、おいっちにーさんしー!(無言)
野営道具を片付けている間に、コノハが起きてきたので昨日買い込んだパンを軽く焼いてバターを塗り、その上から蜂蜜をたっぷりかけてあげる。
飲み物は冷蔵の魔法具に保管してあったオレンジジュースだ。冷たく酸っぱいと暖かく甘いの対比を味わってどうぞ。
目をキラキラさせているので俺は満足だ。この世界の料理が不味かったから子供の頃幼馴染たちに手伝わせてチートクソ主人公らしく料理の革命を起こしたことがあるんだが、パン以外の製造方法は自前である。作った甲斐があったというものだ。
まあ、素材を作るだけで料理とかやってこなかったんで凝ったもの作れないんだが。
朝食を摂り終えたら今日もまた荷車を引いて隣国を目指す。
しばらくすると道とはいえない踏み固められただけの地盤に差し掛かったので、歩きながら平に均していく。
すると後ろから馬車が通りかかったので道を開けると、その先が均されていないことに気がついて俺の仕業だと感づいたようだ。
御者が馬車を止めて礼を言うのと、よければ馬車に乗って隣国までお願いできないかと金の力で交渉してきた。
金は余るほどあるし、それに逃亡生活の道具を詰め込んだ俺の荷車を置いていくことはできないのではっきりと断ると、今度は馬車の荷台からぞろぞろと人が降りてきた。
「なんで止まったのー?」
「どうかしましたか?」
あ”っ()
前者の女の子はともかく、後から聞こえてきた男の声には心当たりがありすぎた。
「あれ、ねぇねぇリーダー。ドラスレ様がいるよ!」
「えっ、ホントだ。まさかこんなところで会えるとは……噂はどこにいても聞いてたけど面と向かっては久しぶりだね」
荷車にいるコノハに出てくるなと言って釘を刺してから、近寄ってくる同業者たちの相手をする。
二人以外にも後三人ほどいて、男女比は4対1で、やはり偏りがあるがそれでも女性冒険者自体が稀のためパーティにいるだけで妬ましい、もとい羨ましい。
男に求められても嬉しくない握手に三人応じてから、このパーティーのリーダーたる男と面と向かい合う。
この男はコノハの婚約者とは別の幼馴染だった。そして、俺に次いで龍討伐を一個パーティで成し遂げたチートクソ主人公な俺がいなければ伝説になれただろうイケメン優男である。
「こっちもお前の噂は聞こえてた。この子がお前の恋人か?」
「いったいどんな噂を聞いてたんだい!?」
「あははっ、リーダーとアタシってそんなふうに噂されてるんだ」
いや、女の子は会話に混ざってこないでください。
幼馴染のこいつの前でどもっちゃうとかマジで勘弁なんだが。
「でもアタシはリーダーと恋人ってわけじゃないからね?」
「……そうか」
じゃあこいつについてはロマンスがどうたらは俺の勘違いか。まあ、それはそれとしてパーティで女の子含めて楽しそうにやってる時点でアウトなんだけどな。妬ましい。
「それよりなんでこんなところに? しかもその荷車人が引くサイズじゃないというか……ほんと昔から規格外だなぁ」
荷車を見て懐かしむ幼馴染に、ちょっとだけ考えてから応えてやる。
「密命だ。途中、迷宮で手に入れたい品もあるから寄ろうとしているところだ」
「……へぇ、密命ね。分かった。僕からはこれ以上何も聞かないことにするよ」
こいつ、ちょっと厨二っぽいところがあるから誤魔化しやすいのである。
「お前はなんの目的だ?」
「僕たちは迷宮に挑戦しようかと。いつまでも若いままじゃいられないし、全盛期の今だからこそ身を固める準備をしないとね」
「ふーん。そうか、頑張れよ」
「ははっ、相変わらずだな。うん、また今度会った時はゆっくり話そう」
「ああ、じゃあな」
「ばいばーい」
……。
最後になんか可笑しいのがいた。
いや、流れとしては間違ってないかもしれないが、立ち位置がちょっとおかしかった。
俺に向けて手を振って馬車は戻っていかなければならない場面で、俺と並んで馬車を見送ろうと手を振っているのだ。
うん? こんな子うちの連れに居ましたっけ?
「おい、なんだこいつ」
「は、はははっ、ちょっと自由人なところがあってね。まぁそう言うところが冒険者にあってるんだろうし“良い”んだけど」
「リーダー! アタシが乗り物酔い酷いって知ってるでしょ? 見てよこの道。馬車に乗ったらぜったい気分悪くなる自信しかない。というかぜったいこの人がこの道均したんだよね? アタシこの人と一緒に行くから後で合流しよ」
「道って……うわ、君ってやつはまた勝手に」
「別に良いだろ。同盟を結んだ友好国だぞ。一本道くらい均しても文句は言われないだろ」
「国の承諾なしで勝手にやってるのが……はぁ、君には何を言っても無駄だった」
えっ、なんか勝手に失望された雰囲気作られても困るんですけど。
リーダーは諦めたようで、俺に任せたと、女の子に待ってるとだけ言って馬車へ乗り込み、先に隣国へ目指して進んで行った。
置いて行かれた俺は、荷車に隠したコノハのことをどう扱うか考えて憂鬱になる。
いや、勝手に任されても困るんですが。
女の子二人と冒険なんて少し前の俺からしたらウハウハ以外のなんでもなかったんだけどなぁ。
片や奴隷で幼馴染の婚約者。
片や幼馴染がリーダーを務めるパーティの女の子。
どちらとも俺個人だけの繋がりではないのが後を引く。
「というわけで、短い間ですがよろしくお願いします!」
なんかそういうことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます