第31話 いざ40階層台へ!

 10階層までの限定とはいえ、マルクたち『金の匙』とパーティを組むことになった俺たちは、外魔獣モンスターの襲来が落ち着いた隙を伺い、下層への階段を急いで下る。

 降り立った49階層。

 やはり50階層とは段違いだ。空気までもが禍々しく着色されていると視覚が錯覚をおこすほどの瘴気と、鳴り止むことがない外魔獣モンスターの咆哮、咆哮、また咆哮。

 このハラムディンでは10階層分降りるごとに急激に死臭が濃くなって、えも言われぬ絶望感に押し潰されそうになる。


 この40階層は今までの階層フロアと違って、緑が、自然が、当たり前のように迷路ダンジョン内に存在していた。迷路ダンジョンの壁を蔦が覆い、大木が行手を阻む。まるで、洞窟と深い森に不気味さを足して割ったような。この特異な光景を目の当たりにして、俺は少々狼狽えた。


「この40階層台はな、草木が多く視界が悪い。死角となって外魔獣モンスターに気づかないこともあるんだ。だから隊列を崩さずに、それぞれが決められた方向だけを注視して、焦らず慎重に進むんだ」

「この迷路地図ダンジョンマップだと、こっちの道が近道ね」


 階段前の視界には、早くも分起点。綺麗に道が、二つに分かれていた。


「いや、反対の道を行こう。距離的にはエリシュの言うルートが最短距離だが、そっちは通路が広く、大型の強い外魔獣モンスターと遭遇しやすい。まだ先は長い。多少遠回りでも、強い外魔獣モンスターは避けるべきだ」

「そうなのね。分かったわマルク」

「それにしても……全階層フロア迷路地図ダンジョンマップなんて初めて見た。一体エリシュたちは……いや、なんでもない。先に進もう」


 言いかけた言葉を飲み込んで、先頭のマルクは臆することなく、手にしたランプで闇を切り裂き進んでいく。


 俺たちの役割分担ははっきりと決められていた。

 俺とマルクの二人で前衛を務める。後衛はアルベートとクリスティ、そしてその中央にエリシュという陣形だ。

 高レベル、しかも多岐に渡り魔法を使えるエリシュを軸としたこの陣形はバランスがよい。

 さらに前衛の俺とマルクの相性もよかった。

 マルクは槍使いランサー

 同じ前衛と言っても違う間合いで戦えるのは、攻撃の幅が広がるだけでなく、互いに邪魔にならなくて戦闘やりやすい。

 後衛の二人は、アルベートは長剣を、クリスティは短めの剣を両手に持った剣士タイプ。

 二人の実力は定かではないが、だだ広い場所でない限り、後ろから奇襲されることは極端に少ない。即死レベルの攻撃をいきなり喰らわなければ、エリシュの魔法支援でなんとかなるだろう。

 

 全員が居住階層ハウスフロアで買い込んだ備品を背負い、足元の蔦を跨ぎ、垂れ下がる草葉を手で払い進む。道を塞ぐように横たわる、大人の背丈ほどの樹木を乗り越えようとしたマルクの動きが突然止まった。


「……待て! 全員そのまま動くな」


 木の幹に身を隠すようにして、マルクが警鐘を鳴らす。

 あとちょっとで乗り越えるられる高さまで登っていた俺は、そろりと顔を出した。


 体毛に覆われた全身と、猿を連想させる容姿の外魔獣モンスター。大きさは成人男性より少し大きいくらいだろうか。だが特筆すべきは手の数だ。胴体から六本も生やしている。蜘蛛のように長い手を忙しなく動かして、生い茂る草木をガサガサとより分け、決して広くない通路を完全に塞いでしまっていた。


「……オクトパスデーモン。ランクAの外魔獣モンスターだ。大方、エサとなる木の実か何かを漁っているんだろう。……もちろん雑食だ。人も食う」


 ———ちっ! いきなりランクAかよっ!


「……49階層に降り立ったばかりで、いきなりランクAの外魔獣モンスターとの交戦は避けたいところだが……どうするヤマト」


 相手は一匹だし、今の俺たちの戦力なら勝てない相手ではない。マルクはそう判断したのだろう。

 チームのリーダーを自ら買って出たのはマルク本人。だけどチームの進退を独断で決めないで、最前線で戦うことになる俺の意向も聞こうとしている。やっぱりマルクは信用できるヤツだ。


「オクトパスデーモンって……確か『森主の爪』ってレアアイテムをドロップする外魔獣モンスターですよね! 俺、見たことないから、ちょっと一目だけでも……」


 そう言いながらアルベートが大木に手をかけて体を持ち上げ、次にその手が滑って尻から落ち、大きな墜落音を叩き出すまで、僅か数秒の出来事だった。


 俺とマルクは呆気に取られ、その後額にぺちりと手を打ち当てた。

 当然、オクトパスデーモンがこちらに気づいたのは、言うまでもない。

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