第16話 新しい装備で気合を入れろ!

 新しい装備に身を包まれ、俺たちは大型施設を後にした。

 聖支柱ホーリースパインからの眩しい光を跳ね返し、キラリと輝く軽量甲冑ライトアーマー

 胸部と左肩を守るだけの軽装備プロテクターと違って、硬質な素材で精製された軽量甲冑ライトアーマーは上半身のほとんどを覆っており、それでいて機能性にも余念がない。関節部を境目にエルボーパットやガントレット、両肩のショルダーパットもそれぞれが独立した作りとなっている。

 装備するにはやや時間が掛かる代わりに、関節の可動域を妨げないこの防具は、俺の一つ頭を抜きん出ているAGI俊敏性を最大限活かせるように、エリシュが見立ててくれたものだ。

 防具を扱う店舗で数多の商品が陳列する中、一番高価な軽量甲冑ライトアーマーを選んだだけあって、装着感も文句なく、しかも軽い。

 35万Gギレッドという値段が高いのか安いのか俺には見当がつかなかったけど、エリシュが手渡した金貨と店主の嬉しそうな表情を見る限り、決して安い買い物じゃないんだなと容易に推測できた。

 もともとエリシュが装備していた軽量甲冑ライトアーマーには大きな損傷はなかったので、その後は俺に手渡した———俺が今、ほっかむりのように被っている肌着の替えを数枚と、食料や回復薬ポーションなどを大量に買い込んだ。


 こうして身なりを整えた俺たちは、大きなバッグを肩から下げながら、階層主フロアマスターが居住する建物を目指して歩く道すがら。


 人工池の周りでは、小さな子供たちが無邪気に走りまわっていた。

 鬼ごっこに近い遊びなのだろうか。追い縋った子供と共に数人がコロコロ転倒すると、声変わり前の笑い声が重なり合う。その周りには目を細めて見守る大人たち。おそらくは両親、またはそれに近しい者なのだろうか。


「……本当にここは平和なんだな。さっきまでの戦いのほうが逆に、嘘に思えてくるぜ」

「下層で命を張っている人たちを土足で踏み付けて作られた、仮初かりそめの平和よ。こんなのはまやかしもいいところだわ」


 先程の表情から、エリシュの心情は察したつもりだ。だがエリシュが家族の団欒へと向けた目は、憎悪と言い換えてもおかしくない鈍い眼光を、はばかることなく解き放っている。


「……でもよ、こんな言い方しちゃ悪ぃが、エリシュだってブレイクって王子だって、そのお陰で暮らしていたんだろ? 俺だってさっき理由を聞いたときにゃ不愉快だけどもさ……なんていうかエリシュ、お前ちょっと嫌い方がハンパじゃなくね?」

「……あなたには……ヤマトには関係のないことよ」

「あっそ。じゃあこれ以上は聞かねーよ。……早く階層主フロアマスターのところへ急ごうぜ」


 他の建物より屋根一つ分高い建物が見え始めると、エリシュが歩く速度を緩ませた。あれが目当ての屋敷だと、そう告げた上で、いつにも増して隙のない真顔を向けてきた。


「いい? この階層の階層主フロアマスターは当然ブレイク王子の顔を知っている。だから言動には気をつけて。余計な混乱はあなただって望むところじゃないでしょう? だから王子らしく振る舞って頂戴」

「へいへい。わかったよ」

「…………フゥ」


(……今、聞こえないようにため息をついたな、おい!)

 

 だけどここで『王子じゃない!』とか因縁をつけられていざこざに巻き込まれてしまうのは、とても困る。

 俺には玲奈に会って、思いっきり抱きしめて、そしてできればそのままキスまで……。おっと妄想が暴走したようだ。

 ともかく玲奈を探して救い出すのが、俺の第一優先。

 もちろんこの80階層に住んでいる病み上がりの少女が玲奈なら、それですべては解決だけど、当たりを引く確率は1/3。

 

 それにエリシュに豪語してしまったけど、姿形が変わっても果たして玲奈と分かるかどうか。

 

 これまで勢いに支えられてきた自信が、急速にしおしおと萎え始める。


(———どこまでアホなんだ、俺は!)


 両の手で、自分の頬を痛烈に打ちつける。

 張られた肉の快音に、慌てて振り向くエリシュの顔を視界の端に捉えながら。


「———うしっ! 気合注入完了! もう二度とめげない、折れない、諦めない! 玲奈はきっと待っている! 早く行こうぜ、エリシュ!」


 今度は俺がエリシュの細い腕を牽引して、建物目掛けて地を蹴り進んだ。

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