スカートを履いた幼馴染

無月弟(無月蒼)

第1話 幼馴染みの女の子

 雨上がりの六月の朝。半袖の白い制服に袖を通して、短くしたスカートを揺らしながら、あたしは家を出る。


 あたしの通う中学校は、今日から衣替え。

 もう三年生だから、夏服を着るのも今回でおしまい。そう思うとちょっぴり淋しいけど、最後までよろしくね。


 そんな事を考えながら通学路を歩いていると、前方に同じ制服を着た生徒の後ろ姿が見えた。


 背中まで伸ばした長い黒髪とスカートを揺らしながら歩くあの子は、幼馴染みのマイちゃん。

 だけど、こっちには気づいていないみたい。ふふ、ちょっとおどかしてみよう。


 足音を殺して、背後からそっも近づく。

 後は「わっ!」て声を上げるだけ。だけど声を出そうとしたその時、目の前の背中がクルリと振り返った。


「わっ!」

「キャッ⁉」


 おどかすつもりだったのに、逆に驚かされて勢いよく地面に尻もちをついた。


 そしてそんなあたしを見ながら彼女―—マイちゃんはクスクスと笑う。


「おはよう彩。朝から元気だね」

「もおー、おどかさないでよー」

「あれー、先におどかそうとしたのは、誰だったかなー?」

「それは……あたしです、ごめんなさい」


 どうやらバレバレだったみたい。


 マイちゃんは「立てる?」と手を伸ばしてきて、それを掴んで立ち上がると、ふとあることに気が付いた。


「あれ、今日のアイシャドウ、ピンクなんだ」

「うん。衣替えに合わせて、ちょっと変えてみたんだけど、どうなか?」

「似合ってるよ。いいなー、あたしも買おうかな」

「ふふ、彩ならきっと似合うよ」


 いやいや、似合うって言ったって、マイちゃんには敵わないから。


 マイちゃんは友達の中で、一番可愛い。しかもただ可愛いだけじゃなくオシャレやメイクにも精通していて、ちょっとコーデやメイクを変えれば、『可愛い』から『美人』に変身する事だってできるのだ。


 だけどあたしは地味顔。マイちゃんみたいに可愛くも美人にもなれないよ。

 けどそんなあたしのことを可愛いって言ってくれるなんて、優しいなあ。


「行こうか」

「うん」


 二人並んで歩き、学校が近づいてくると生徒の数も増えてくる。

 だけど歩いていると不意に、耳障りの悪い声が飛び込んで来た。


「うわ、市原のやつ、またあんな格好してるよ」


 ――っ!


 声のした方を見ると、そこにいたのは同じクラスの山下君。

 彼は数名の男子と一緒に見下すような目で、マイちゃんの方を見ていた。


「止めてほしいよな。あんなのと同じクラスだと、こっちまで変態扱いされるっての」

「紺野もよく付き合ってられるよな。恥ずかしくないのか?」


 紺野というのは、あたしのこと。そして市原というのは、マイちゃんのことだ。


 マイちゃんを見るとさっきまでの笑顔が消えていて、小さい声でポツリ。


「ごめんね」


 とても悲しそうな声。だけど、謝らなくても良い。

 あたしはマイちゃんの手を、ギュッと握った。


「行こう。あんな男子達の言う事なんて、気にすること無いって」

「うん。ありがとう」


 マイちゃんの手を引っ張りながら、山下君達から離れる。


 繋がれたその手はゴツゴツしていて、マイちゃんの体があたしとは違うんだって分かってしまう。

 だけど、そんなことはどうでも良い。マイちゃんはマイちゃんなんだから。


 マイちゃんは昔から可愛いものやオシャレが好きな、幼馴染の女の子。それはこれからもずっと変わらない。


 マイちゃんの体が、男の子のものであっても。あたしの大事な親友なんだ。

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