第393話 雷鳴天駆
「エルフかぶれのヒトモドキがぁあああっ!」
アルフェの粘り強い魔法が支える防壁に、イグニスが怒りを顕わに炎を猛らせている。
「ワタシは負けない! 絶対!」
ずっと上位の水属性魔法を発動し続けたアルフェのエーテルは枯渇寸前だ。それでも、アルフェの強い精神力が激しい攻防を維持している。
今のアルフェなら、たとえエーテルが枯渇したとしてもその命を燃やして魔力に変えてしまうだろう。そう感じられるほどの気迫に満ちている。僕への信頼が、アルフェを支えている。
「いつまでもしつけぇえんだよおおおお!!」
イグニスが咆吼しても炎が強まらない。邪法を行使出来る程の邪力の底が見えてきている。
視線を下へと向ければ、地下空間に流れ込んでいたデモンズアイの血涙は全て蒸発している。イグニスの苛烈な炎で沸き立っていた血涙は単に蒸発していた訳ではない。邪力の源となってイグニスの攻撃を支えていたのだ。それをイグニスに使い果たさせたアルフェの粘り勝ちだ。
「クソッ! オレ様の炎が、なぜ、なぜ、何故使えねぇんだよぉおおおおっ!!!」
邪法の炎を維持出来なくなったイグニスの攻撃が途切れる。好機が来た。
僕は開かれたままの
今度は僕が、アルフェの信頼に応える番だ。
「風を束ねよ。荒れ狂い吹き荒び、幾重にも束ねよ」
僕は
「空より来るものを吹き散らし天高く昇れ――ライジング・ゲイル」
強烈な上昇気流を発生させ、イグニスが身体に纏っている邪法の炎ごとその身体を切り刻む。再生の余裕がないほどに行使出来るのは、僕の無限に湧き続けるエーテルによるものだ。地下空間が疾風を受けて大きく震えている。地下空間吹き荒れる強風に揺れ、渦巻く風がイグニスに向かって殺到する。
「ぐあああああああああ」
イグニスの叫び声すら巻き上げる竜巻は、上へ上へと伸び、風圧で天井を吹き飛ばす。ホムはその風に乗り、破れた天井を構成していた岩石は崩落の間すらなく、風に巻き上げられて
夜空に瞬く星が露わになる。熱せられた空気が外気に触れて冷えていくのがわかる。これで全ての準備が調った。
「リーフ……」
イグニスの攻撃を防ぎ続けてくれていたアルフェが、意識を手放す。僕はアルエフェをアーケシウスで受け止めた。
「無理をさせてごめん。僕を信じてくれてありがとう」
「フッ、フハハハハッ! それがお前の切り札か?」
アルフェを労う僕の言葉に、イグニスの嘲笑が重なる。先ほど、
「くだらん攻撃だ。この程度の攻撃では俺様には届かんぞ!」
イグニスの身体から炎が噴き上がる。威嚇しているようだが、威力はもう随分と落ちてしまっているのがわかる。
「やれやれ。今のが攻撃だって、誰が言ったんだい?」
「何ィ!?」
イグニスが僕に対する苛立ちを募らせ、炎を吐き出す。操縦槽から飛び降り、攻撃を躱した僕は、天へと手を伸ばした。
「僕の攻撃はこれから始まるところだ」
詠唱は短い。イグニスの虚を突くのに充分過ぎるほどだ。
「軌道よ、迸れ。空よりも高く――
僕の詠唱によって、地下空間から地上に至るまでの空洞の壁面に板状の
「何だっ! これはっ!? 一体どうなっていやがる!?」
イグニスの叫びに動揺が混じっている。アルフェがやってきたことに比べれば、僕がしていることは単純な魔法の繰り返しだ。
「どこを狙ってる!? そんなもん作ってどうするつもりだ!?」
地上までの壁面全てを
「この空間そのものを砲身に変えた」
「はぁ? なに言ってやがる!?」
苛立ち混じりに叫ぶイグニスが吠えるが、その炎はもう僕には届かない。邪法の力が枯渇している。おそらくその肉体に宿っている分が最後だ。僕と違ってイグニスの邪力は無限ではない。
「まだ理解らないのか? 今、君が立っている場所は銃口の真下だ」
「ッ!? ヒトモドキのガキはどうした!? まさか――」
漸く自分の置かれている状況を理解したのか、イグニスが上空を見上げる。今も上空を渦巻いている
ホムは弾丸となって、既に装填されている。
「逃げ場はないぞ、イグニス」
「てめぇえええええええっ!!!」
イフリートとなって巨大化したイグニスに退路はない。視線の先、上空で光が瞬いた。
ホムが発動した飛雷針に反応して、壁面の
降下してくるホムは、長い長い
「ふっざけるなぁああああああああああ!!」
イグニスが咆吼とともに炎をホムに浴びせるが、最大加速されたホムの蹴りの前には無力だ。炎は見る間に引き裂かれ、散り散りになっていく。
「
空気を破るような轟音と共にホムの蹴りが炸裂する。
その威力に耐えられず、イグニスの巨躯は粉々に吹き飛んだ。
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