第311話 生徒主体の建国祭
ファラの魔眼を活用した分類が功を奏して、申請書受付期間の最終日には全ての申請書の精査を進めることが出来た。
特に飲食店が多く集まっているという話は、生徒間でも情報交換が成されたこと、アルダ・ミローネをイメージした各国料理の屋台村にしたいとの要望が貴族寮と平民寮の生徒両方から上がったことから、僕たちが内々に進めていたアイディアが生徒の声として採用が決定された。
当日五十店舗が軒を連ねるであろう屋台村は、ヌメリンのアイディアで食べ物の大まかな種類に合わせた日除けを設けることになった。
撥水加工を施した日除けを用意することで、当日の天候に対して幅広く対応出来、しかも甘い系がピンクのストライプ、しょっぱい系が青のストライプで色分けされたことで、華やかな印象を与えることができるだろう。
マリーが早速ジョスランに用意させたイメージ図は校内の至る所に貼り出され、その配置は抽選によって選ばれるように配慮された。
「抽選というワクワク感がお祭り気分を盛り上げて、大好評なんですわぁ~!」
ヴァナベルとヌメリンのアイディアで、貴族と平民を分け隔てなく配置出来るよう考慮されていることに、マリーはしきりに感心している。この反応を聞く限り、出店を決めた貴族の間でも反対意見がないことがわかる。
「みんな楽しみにしてくれてるし、嬉しいよね!」
アルフェの言うようにF組のクラスメイトの反応も上々で、貴族寮の生徒がどんな出店をするか興味津々なようだ。まあ貴族寮の生徒の出店は、当日の運営は自分たちがやるにしても一流の料理人などを雇うので自ずと期待も膨らむだろうな。
僕としても、今後の参考にあれこれ飲み食いしてみたいものだ。当日そんな時間があるかはわからないし、本場のアルダ・ミローネにはまだ行けそうにないけれど、もし春休みにファラが帰省するようなら頼みたいところだな。
「それで、リリルルちゃんの占い小屋なんだけど、占いに頼るわけだから秘密にしたいことばっかだろーし、黒い天幕つきのテントを用意しようかなーって。ちょうどアトリエに眠ってるのをこの前発見したんだよね。どうかな、アルフェちゃん?」
「すっごく良いと思う! ありがとう、メルア先輩!」
「やった! うちって役に立つでしょ、ししょ~!」
アルフェにリリルルの占い小屋の話をしていたメルアが、得意気に僕に訴えかけてくる。
「メルアが役に立たなかったことなんてないよ」
この前打ち明けられて初めて知ったわけだけど、メルアは出来て当たり前と思われる世界にずっといたんだったな。これからは、メルアがアピールしてこなくても、僕が積極的に褒められるように心がけたいものだ。そのタイミングを見つけるのが、なかなか難しいのだけれど。
「よっしゃ! じゃあ、飲食店系はこれで抽選待ちってことにて、あとはイベントの方だな」
「そう思ってもう確認を進めているぞ」
ヴァナベルが仕切ろうとしたところに、リゼルが口を挟む。
「おっ! 気が利くな!」
ヴァナベルは気分を害した様子もなく、笑顔でリゼルの元に寄った。
「ところで、マリー先輩。これって全部講堂扱いにしていいのでしょうか?」
リゼルはヴァナベルを待たずにマリーに質問を始める。マリーは首を左右に二度傾けてから、難しそうな声を出した。
「ん~。講堂で火なんて出したら、どっかの誰かさんに滅茶苦茶文句を言われてしまいますわぁ~!」
「ん? 火なんて使うものあったか?」
マリーの声にヴァナベルが怪訝そうに耳を動かしている。
「にゃはははっ! これだろ!?」
ファラがいち早く気づいた様子で、リゼルの前にあった書類の束から素早く一枚を抜き出した。
「今日さっき分類したやつなんだけど、面白そうだから黙って混ぜといたんだ」
「そういう大事なことは、精査している俺たちにちゃんと言ってくれよ。俺、ファラは比較的まともだと思ってたんだが……」
グーテンブルク坊やが書類を受け取りながら、苦笑を浮かべている。
「いや、なんかいいペースで精査してるから、ちゃんと見てんのかなって気になってさ。ちょっと試してみたんだよ」
「だって、マリー先輩の申請書なら精査も何も……」
もごもごと口ごもるリゼルは、自分の仕事の不備に居心地悪そうに身体を縮込ませた。
「まあ、そりゃそうだよな。マリー先輩のやることだから、根回し済みで絶対通る企画なわけだから、オレだってお前と同じことしそうだし!」
ヴァナベルがはっきりと口にしたことで、リゼルの顔に僅かに笑みが戻る。同情でもなんでもなく、ヴァナベルが自分もやりそうだと認めたのが良かったのだろうな。実際に想像出来てしまったらしく、メルアもファラも噴き出してしまっている。
「んふふっ。身内とはいえ、忖度は不要ですわよ~。大事なのは安全管理ですわ!」
マリーがにこにこと笑いながら、申請書を指差す。改めて申請書を確認したリゼルは、グーテンブルク坊やと相談の上、揃って挙手した。
「エステア会長、マリー先輩による花火大会企画に関しては、演習場の使用許可を申請します」
「おっと、オレにも確認させてくれよ!」
リゼルとグーテンブルク坊やの申し出に、ヴァナベルが割って入る。
「確認要員は多い方が確実だからな」
リゼルが素直に申請書を渡すと、ヴァナベルはそれを真剣な顔つきで見つめてからゆっくりと顔を上げた。
「あのさ、これって特別に出店時間終了後の演出に出来ねぇか?」
「……ええ、花火をするのなら全員で見たいものね。許可します」
ヴァナベルの意図に気づいたエステアが、マリーと目を合わせて柔和に応える。エステアは多分マリーから事前に打診を受けていて、僕たちが自分たちで考えてその精査が出来るようにと考えてくれていたようだ。
こうして一年生の僕たちを巻き込んでいるのは、自分たちが卒業した後のことまで考えているからなのだろうな。前任者がやってこなかった、後継の育成をするのは、やっと手に入れたこの学園の自由を守りたいという心の表れだろう。
「さあ、この調子で改めて精査していこう。思い込みで処理すると今みたいになるからな」
グーテンブルク坊やが気を引き締めるように促し、皆がそれに同意する。
「あ、あと! 気になってたんだけど、
「オーッホッホッホ! それに関してはもう手を打ってありますわぁ~!」
心配そうに訊ねたアルフェの不安を吹き飛ばすように、マリーが高笑いする。
「まあ、それは私たちとしても生徒会の独占とされるのは不本意だから、手は打ってあるぞ」
「え? リゼルくんたちも?」
驚いた声を上げるアルフェに、グーテンブルク坊やが大きく頷く。
「この前のF組の打ち上げに参加して思ったんだよ。ダンスっていうのは、社交としても娯楽としても楽しめる。貴族と平民の交流ではなく、この学園の交流の場として相応しいイベントではないかと考えている」
「マジか、あの打ち上げでよくそこまで思いつくもんだなぁ」
心から感心した様子のヴァナベルに、リゼルは得意気な笑顔を浮かべた。
「私にそれを気づかせたのは、打ち上げを企画したお前と、リリとルルの双子だ。今回はリリとルルと一緒にダンスパーティーをプロデュースさせてもらう」
「にゃはははっ! ダンスパーティーに花火大会! なんか青春って感じだな!」
ファラが楽しげに笑う隣で、ホムも楽しげな笑みを浮かべている。特別ステージの使い道を特定のグループではなく全員が参加出来る場として開放するアイディアには、僕も驚かされた。
「生徒全員が参加出来る。みんなこの建国祭を楽しみにしてくれている……その期待に応えられるように私たちも精一杯頑張りましょう!」
エステアの笑みが柔らかいものに変わっている。建国祭に向けての緊張が、手応えに変わったのだと感じ取れた。
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